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シスブロ:ロストフライト1184  作者: velvetcondor guild


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第十四話

烏の羽ばたく方に


邂逅の湿地 ― 若武者、ただ一人

武庫川源流の湿地。


薄っすらと朝の日差しがあるが、濃い霧が低く漂い、冷たい風が草を揺らしていた。

湿地の中央には泥に沈みかけた巨大な輸送機。


その周囲では、真一たち調査隊が固唾を呑んで状況を見守っている。


そして、その中心に立つ真琴。

両手には龍笛。

先ほどまで吹いていた音色の余韻が、まだ胸の奥に残っていた。


まるで。

誰かの記憶が、自分の中に流れ込んできたかのように。

その時だった。


霧の向こうから蹄の音が聞こえた。

コツ……

コツ……

コツ……


大軍勢の音ではない。

たった一騎。


ゆっくりと近づいてくる。

湿地にいた全員が緊張する。

小銃を握る手に力が入る。

だが霧の向こうから現れたのは、意外な姿だった。


黒馬。

その背に跨る若武者。


ただ一人。


若武者は馬をゆっくり進めた。

弓も持たない。

太刀にも手をかけていない。

ただ真っ直ぐに真琴を見つめている。


その視線は鋭かった。

戦場を生き抜く武将の眼。

だが同時に、何かを確かめるような戸惑いも宿していた。


真琴は思わず息を呑んだ。


二人の距離は十歩ほど。

風が吹く。

霧が流れる。

誰も口を開かない。

最初に沈黙を破ったのは若武者だった。


「貴方の持つ笛は、どこで手になさった。」


真琴は、答える。

「黒い大きな鳥が、わたくしの足元に落としていったものです」


「鳥が、落としただと……?」


若武者がその言葉の持つ意味を咀嚼しようとした、そして。


「その笛を見せてくれ」


静かな声だった。

だが拒絶を許さぬ重みがあった。

真琴は戸惑いながらも龍笛を差し出す。


若武者は馬上からじっと見つめる。

その顔色が変わった。


わずかに。

本当にわずかに。

戦鬼の仮面に亀裂が入る。


「間違いない……」


小さな呟き。


「これは……あの時の……」


若武者の脳裏に浮かぶ。

雪の鞍馬。

月夜。

枝の上で騒ぐ黒い影。

笑い声。

喧嘩。

笛の練習。

そして別れ。

すべてが一瞬で蘇る。


真琴は不思議そうに彼を見つめていた。

すると若武者が初めて真琴自身を見た。


笛ではなく。

真琴の顔を。

その瞬間。

若武者の表情がわずかに変わった。

驚いたのだ。

なぜか分からない。

だが。

初めて見るはずの真琴なのに。

どこか懐かしい。

あり得ない感覚だった。


真琴もまた若武者を見つめていた。


胸が苦しい。

涙が出そうになる。

理由が分からない。


ただ。

初対面のはずなのに。

ずっと昔から知っている人のような気がした。

風が吹く。

その瞬間。

上空から影が差した。

巨大な翼。

漆黒の羽。

三本足の神鳥。

をとごろすだった。


ごう、と風が渦を巻く。

若武者は空を見上げた。

そして苦笑した。

本当に久しぶりの。

人間らしい笑みだった。


「お前か」


をとごろすが一声鳴く。

カァァァ―――ッ。

それは祝福にも聞こえた。


そして。

何かの始まりを告げる鐘のようでもあった。


若武者は再び真琴を見る。

「名は」


「……真琴です」


「真琴」


若武者はその名を繰り返した。


まるで忘れないように。

心へ刻むように。

そして静かに言う。


「俺は源九郎義経」


それは歴史に名を残す英雄の名だった。


だが今この瞬間だけは。

戦場の名将ではなく。

鞍馬の山で友を失った、一人の少年の声だった。

上空では、をとごろすが静かに旋回している。

その黄金色の瞳は、二人を見守っていた。

まるで神話の歯車が、再び動き始めたことを知っているかのように。


真一達は、現状が、全く理解出来なかった。

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