◇4
終わりで~す。
自分でも意識していない所で、自分の姿を見られている、と言うことはまま有ることで、それが切っ掛けで人生が大きく変わることも、稀にはあると実感する今日この頃。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わたくしは侯爵家の第1子として生まれ、一年が過ぎる前に親に捨てられた。
物心付くまで育ててくれたのは乳母で、高齢の乳母が辞めてからはメイドに世話をされて成長してきた。
特に何を思うでもなく生活していたのに、その生活がガラッと変わったのは伯母様とお婆様を名乗る二人の女性が来てから。
最初は早口に何かを怒鳴っている、くらいに思って見ていただけなのだが、段々とその早口にも慣れてきて、意味のある言葉だと理解して、言葉の意味を理解して、わたくしが非難され同情されていることを理解した。
今になって思い出せば、自分で言うのも何なのだが、わたくしは幼い頃からわりと優秀な子供だったらしく、伯母様とお婆様が家に来る頃には一通りの文字も読めたし、どもる事もなく普通の会話が出来ていたように思う。
ただし伯母様とお婆様の早口にはとても付いていけなかったが。
一方的に怒鳴られる日々。
たまに大人の男の人が来たけど、わたくしには何も関係が無かったので、あ、また来たのか、と思ったくらい。
男の人が帰った後に、あれがお前を捨てた父親だ、と言われたが、その頃は父親が何なのかも知らなかったので、ヘーと思った程度。
その反応の無さに伯母様とお婆様はまた激しく怒鳴っていたが、やはり早口過ぎて何を言っているかは分からなかった。
屋敷に勤めるメイドの話では、父親と言う人と、母親と言う人、それに妹と言う人は別邸と言う所に住んでいて、わたくしは伯母様とお婆様の生け贄に置いてかれたそうだ。
生け贄が何かは分からなかったけど。
10歳。父親と言う人に連れられて、同じ歳くらいの男の子に会いに行った。
お前の婚約者だよ、と言われて二人だけにされたが、男の子は、
「お前が僕の婚約者か?父上と母上が勝手に決めた婚約者なんて、好きになれるか分からない!だからあんまり僕に近付くなよ!」
と言われたので、父親と言う人を探してその側に居た。
父親と言う人は困った顔をしていたが何も言わなかった。
婚約者を紹介されてからすぐに、王太子妃教育と言うのが始まった。
それまで習っていた教育とは全くの別物の教育で、最初は戸惑ったけれど、何より叩かれることも無く、出来た時には褒めてもらえるのが嬉しくて熱心に学んだ。
伯母様とお婆様は王太子妃教育の無い日に来るので、王太子妃教育はわたくしに取ってとてもありがたい日だった。
たまに王太子妃教育もなく、伯母様とお婆様が来ない日があって、そんな時は本を読んで過ごした。
わたくしの住んでいた家はとても広くて、沢山の本が置いてある部屋もあったので色々な本を読んだ。
意味の分からない言葉は辞書で調べて読んだ。
伯母様とお婆様がよく口にする、出来損ない、負け犬、泥棒猫、生け贄の意味を知った。
わたくしが少し成長すると、ヒラヒラした服を着せられ、お茶会と言う所に連れていかれた。
伯母様とお婆様は、出来の悪い娘で仕方無く自分達が教育をしているのだと周りの女性達に言っていた。
周りの女性達は困った顔をしていた。
そうか、わたくしは出来が悪いのかと知り、王太子妃教育ではより積極的に学んだ。
わたくしが王太子妃教育で学んだことをお茶会で実践して見せたら、伯母様とお婆様は面白くない顔をして、次の日から今までとは別の家庭教師の女性が来た。
この女性もとても早口で怒鳴る人で、言ってることの半分も聞き取れなかった。
でもこの女性は、わたくしが理解していないと分かると、幅広の棒や物差しで叩いて来るのでとても嫌だった。
わたくしが嫌な顔をしているのを見て、伯母様とお婆様も同じ様に叩いてきた。時には牢に入れられたり食事を抜かれたりした。
それを見て伯母様とお婆様はニヤニヤと笑ってた。
家庭教師が言うことは、王太子妃教育とは違うので、どちらが正しいのか分からなかったけど、試しに家庭教師の言ったことをお茶会で実践してみたら、周りの女性達に笑われてしまった。
伯母様とお婆様は出来が悪くて、と言って楽しそうに笑ってた。
伯母様とお婆様はわたくしが出来の悪いままで居てほしいのだと理解した。
12歳。王太子妃教育が終了してしまって、あとは婚姻後に改めて王妃教育が始まるのだと説明された。
そして貴族の家に生まれた者は、学園に入るのが義務らしく、父親と言う人に連れられて学園の入学手続きをさせられた。
同じ学年に妹と言う人も居るらしい。
学園には多くの同年代の子が居たけど、わたくしはどうするのが正しいのか分からなくて、ただ周りの人が話すのを聞いていた。
それでも何人かのお友達が出来てとても嬉しかった。
婚約者だと言う以前会った男の子は、いつも人に囲まれていて人気者なのだと知った。
近付くなよ!と言われたので近付かなかったのにたまに睨まれた。
あと婚約者と言われた男の子の、いつも近くに居る女の子にも睨まれた。彼女が妹らしいと噂で聞いた。
授業の中に王太子妃教育には無かった魔法基礎学と言う科目があるのだが、わたくしはどれだけ本を読んで練習をしても魔法と言うのが全く発動しなくて、とても落ち込んで教師に相談をしたら、わたくしは魔力が多すぎて暴走する恐れがあるので、生まれてすぐに魔力封じの魔道具を着けられ魔力を封印されたのだと知った。
教師に、ご両親から聞いてないのか?と問われたが、伯母様とお婆様に腕輪を外すなとは言われたけれど、その理由は聞いたことが無いと答えたら、慌てた様子で教会に連れていかれて、封印の魔道具を外されて魔力を計られ、教師も教会の人達もさらに慌てた様子で深刻な顔で話し合っていた。
なんでも魔力の多すぎる人は、制御が難しいため魔道具を着けて生活するのだが、定期的に魔力を放出しないと暴発の恐れが有るのだとか。
神父様に今まではどうやって放出していたのですか?と聞かれたけれど、放出ってどうやるんですか?と聞いたら凄く驚かれてまた深刻な顔で話し合いに行ってしまった。
暫く待っていると、豪華な衣装を着た人が来て、教会の奥にある魔道具に魔力を込めるように言われた。
ちゃんとやり方も教えて下さったので、その通りにしたら凄く褒められた。
月に一度ここへ来てこの魔道具に魔力を込めて欲しいと頼まれた。
お小遣いもくれるらしい。
お小遣いは伯母様やお婆様、メイド達に見付かると取り上げられるので、学園の鍵のかかるロッカーに隠しておいた。
15歳。高学年になって、いつも仲良くしてくれていた令嬢達がわたくしと距離を取るようになった。
理由を聞いてみたら、わたくしが妹を苛めているとの噂が広まっているようで、直接会ったことも無い、と言ったら信じて貰えず嘘つき呼ばわりされた。
噂はどんどん広まっていって、わたくしと親しくしてくれていた令嬢達は誰も居なくなった。
中庭で一人昼食を摂っていたら、すぐ後ろの繁みの向こうから声が聞こえた。
盗み聞きしているようで気が引けたので場所を移そうとしたら、わたくしの名前が聞こえて思わず止まってしまう。
「アイク様、何時になったらシルフィアお姉様との婚約を破棄出来るんですか?」
「今、父上に掛け合っているところだ。もう少し待ってくれ」
「でもでも~、学園に居る内に婚約破棄して、わたくしと婚約して下さらないと、学園で堂々とイチャイチャ出来ませんわ!キャッ!」
「あ~、ミュートは相変わらず可愛いな!なるべく早く婚約を破棄するから、もう少しだけ耐えてくれ!」
「は~い。でもシルフィアお姉様ったら婚約破棄されたらどうなるのかしら?」
「ミュートを散々苛めてきた奴だ、家を追い出されても仕方無いだろう?」
「うふふ、アイク様が味方になって下さって心強いですわ!」
わたくしが近くに居ることなど知りもせずに楽しそうに会話する二人。
妹とまともに言葉を交わしたことも無いのに、わたくしがどうやって苛めると言うのだろう?
そんなことは関係無いとばかりに噂はどんどん大きくなっていって、それを信じた見知らぬ生徒達がわたくしに文句や嫌味を言ってくる。
このまま噂が広まり続ければ、妹達の言うようにわたくしの婚約破棄は成立するのかもしれない。
ならばわたくしは平民になるのだろうか?平民の生活とは?本で読んだ知識は有っても、実際と違うこともあるかもしれない。
家には二種類の使用人が居る。
敵と敵じゃない使用人。
敵じゃないと言っても、味方でもないのだけど。
敵はメイド長とその周りの上級メイドと呼ばれる人達。
この人達は平気でお金や物を盗む。
伯母様やお婆様にわたくしが叩かれているのを見て、クスクスと楽しそうに笑う人達。
敵じゃない使用人は下女や庭師といった使用人の中でも地位の低い人達。
この人達はほぼ平民で、伯母様やお婆様、メイド長とその周りの人達が居なければ普通に会話してくれる。
平民の暮らしについても色々と聞かせてくれる。
ただし彼等にも暮らしがあり、わたくしが怒鳴られていても庇ってはくれない。
それでも人の居ない隙を狙って話を聞き、試しに街を一人で歩いたりしてみる。
危ないと噂の路地などには入らず、最初はただただ通りを歩くだけで精一杯だったのが、段々と慣れてきて入りやすそうなお店で一人で買い物も出来るようになり、教会の神父様に相談して孤児院の手伝いをさせて頂いたり、孤児院の院長先生の紹介で商店の店番を手伝わせて頂いたり。
幸いわたくしが与えられている普段着は、平民の着ている服とそう変わらない。
たぶんメイド長達が家のお金を盗んだからこその服なのだろうけど、都合が良いのでそのまま着ている。
まさかその姿を王妃様に見られていたとは思ってもみなかったけれど。
メイド長が珍しく焦った様子で部屋に入ってきて、ブルブルと震える手で差し出してきた手紙を受け取り、差出人を確認してわたくしの手も震えた。
差出人は王妃様。
中を確認するとお茶会への招待状。
一応、何の交流も無いとはいえ、王太子殿下の婚約者と言う肩書きを未だ持っている以上、その母親である王妃様の招待も不思議ではないのかもしれない。
指定された日、持っている中で一番上等のドレスを着て、唯一持っているアクセサリーを着けてお城からの迎えの馬車に乗る。
あまりに乗り心地が良くて、逆に落ち着かなかった。
王妃様は美味しいお菓子と薫りの良いお茶を出してくれて、噂の真相を知りたいと仰った。
態々わたくしの行動調査をした報告書まで出して。
侯爵家には不利になるけれど、これは言い逃れ出来ないと思い質問には正直に答えた。
王妃様は大きく表情を崩されることは無かったけれど、どこか怒っているように感じられて少し怖かった。
もしかしたら婚約破棄が決まって、追い出される事も決まったのかもしれない。
後日話し合いがあると言われて、参加するかを聞かれた。
自身の今後がかかっているので当然参加すると答えた。
せめて学園のロッカーに隠しているお金だけでも持ち出せないか、機会があったら聞いてみようと思った。
そして始まった話し合いは、わたくしを責めるものではなく、わたくしに対する他の人達の態度が問題になった。
そう言うものだと思っていたことは、犯罪として裁かれるべき事だったと聞いてとても驚いた。
始終王妃様はわたくしを庇うような発言ばかりされて、何故こんなにもわたくしを庇って下さるのかが理解出来なくて、直接聞いてみたらわたくしを庇ったのではなく、この国の王妃として犯罪を見逃したくなかっただけだと仰った。
それでも、王妃様がわたくしに向ける目は、今までに見たこともないほど優しくて、わたくしの目からはダバダバと涙が溢れた。
叩かれても牢に押し込められても一滴も出なかった涙。
わたくしには涙が無いのかと思っていたのに、溢れて止まらなかった。
生まれて初めて号泣して、いつの間にか気を失っていたらしく、起きたら王城の離宮に居た。
王妃様の計らいで、暫くはこの離宮で過ごすようにと言われた。
王城に勤めるメイドだからか、わたくしの家が特殊だったからか、恥ずかしくなるほど丁寧に世話をされて毎日を過ごした。
ゴワゴワだった髪も、カサカサだった肌もそれが普通だと思っていたのに、この離宮のメイドにかかると艶々のウルウルになった。
手入れと言うものをやると、わたくしの髪や肌でも他の令嬢達のように綺麗になるのだと知った。
それだけでなく、王妃様の若い頃のドレスを沢山頂いてしまった。
もう着ないからと言って譲られたドレスは、どれも繊細な装飾の美しいドレスだった。
あまりの着心地の良さに感激したけれど、汚してしまわないか心配で身動きも取れないわたくしを、メイド達が微笑ましそうに見て、どれだけ汚されても完璧に落としてみせますわ!と約束してくれたので、やっと落ち着いて動き出せた。
刑が確定した罪人達に面会するか?と聞かれて会ってみることにした。
何故か王妃様も来て下さって、一緒に面会することになった。
アイク殿下はとても憔悴した様子で、深く頭を下げて謝罪された。
噂に聞くアイク殿下は、正義感が強く弱いものを見ると助けに向かう方だと聞いていたので、もしかしたら妹の嘘を信じてか弱い妹を助けていたつもりだったのかもしれない。
それでも、婚約者として、たった一度でもわたくしの言葉を聞いて欲しかったと思うのは贅沢だろうか?ついそう言ってしまったら、謝罪して俯いてしまった。
両親は、お父様はなぜか途中から怒りだして、初めて見るお母様と言う人はずっと泣いていた。
家族としてやり直すチャンスが欲しいと言われたけど、わたくしには家族が何なのかが分からない。
そう言ったら益々泣かれた。
お父様は自分で直接言えばよかっただろう!と怒っていたけれど、何を言えば良かったのだろう?
理解出来ない人達だった。
妹は両親以上に理解出来ない人だった。
姉だから妹を愛するのが当然、婚約者も譲るのが当然、妹を愛さない姉であるわたくしが全て悪いと喚いていた。
王城で接していた人達や、噂を信じる前のお友達と比べると、どこか歪んでいるなと感じた。
最後はよく分からないことを喚いて倒れて気絶してしまった。
王妃様に促されて部屋を出ると、妹の言葉を解説して下さった。
わたくしは美しいらしい。
そう言った王妃様のほうがずっとずっと美しいのに。
それからの日々は驚くほど穏やかで、何も辛いことの無い日々だった。
学園に戻ったら、噂を聞いて離れていってしまったお友達が、号泣しながら謝罪してきて、許したら更に号泣されて困ってしまった。
でも以前のように仲良くなれて嬉しかった。
婚約を破棄した後になってアイク殿下とはよく話すようになった。
アイク殿下は、わたくしと話をしているといつも痛そうな顔をするので、痛いなら話に来なければ良いのにと何度も思ったけど、何度も来るので断るのも悪いのかと手短に話すよう心掛けた。
随分長く王城でお世話になっていたけれど、一年程で王城を出て侯爵家に帰ってきた。
使用人が総入れ替えになっていてとても驚いた。
王妃様が手配して下さったらしい。
新しく使用人になってくれた人達は、王城のメイドと同じ様にとても丁寧に世話をしてくれる人達で、やっぱり恥ずかしかったけれど嬉しかった。
アイク殿下との婚約が破棄になった事で、王家やその他の家から沢山の慰謝料を頂いた。
良くしてくれる使用人に、ちゃんとお給料を払えるようで安心した。
侯爵家の屋敷はわたくしの財産として貰えると言われてとても驚いた。
家族が犯罪を犯したことで色々と言う方もおられたけれど、新しく出来た友人の皆様が庇ってくれてとても嬉しかった。
それでも没落してしまった家の娘であることは変わりないので、このまま学園に通い続けて良いのかとも悩んだけれど、何時ものように教会に行くと、思わぬ提案をされた。
わたくしを聖女に任命したいとの事。
普段は簡単な魔法の一つも使えないわたくしの多すぎる魔力は、国を守るのに大きな貢献をしたそうで、とても感謝されて聖女として任命して下さるとのこと。
王妃様に相談したら、光栄な事なのだから是非受けなさいと勧められたので、ありがたくお受けすることに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わたくしが侯爵家の屋敷に戻ってから15年。
この15年、色々な事があった。
最後まで理解出来ない人達だった両親は、犯罪奴隷として娼館に売られてしまった妹を助けるために色々な所に借金をして、妹を身受けしようとして叶わず、それでも何とか逃がそうとして逆に捕まり、貴族籍を失って今は平民として何処かで暮らしているらしい。
妹は今も娼婦として過ごしているそうだ。
流石にそんな状態になってしまっては、歳の離れた幼い弟が哀れだと思ったのか、お母様の実家である子爵家当主のお爺様が、弟を養子として引き取ったそうだ。
一度だけ会った弟は、両親や妹と違って真っ当に育てられているのか、可愛らしく元気な男の子だった。
アイク殿下は公爵家の令嬢に熱烈に求婚されて王家から臣籍降下されて今では公爵家の当主となった。
公爵令嬢は長女ではあるけれど第1子では無かったので、継ぐべき家は持っていなかったのだけど、学生時代、己の行いを深く反省し、その後は公務も学園生活も素晴らしく勤勉に勤めあげた事で、王家から恩赦というかたちで、アイク殿下は王家からの離籍を許され、王領地を与えられ独立して今では公爵家当主となった。
新しく立った公爵家なので、屋敷を新築する話も出たけれど、公爵家として相応しい屋敷を建てるには何年も何十年も掛かる事もあるので、わたくしの持っていた屋敷に住まないかと提案をしてみた。
とても驚かれたけど、良い思い出の無い屋敷だし、わたくし自身嫁ぐ事が決まっていたので、持ち続けてももて余すだけなのだからと説得してみた。
アイク殿下よりも公爵令嬢にとても感謝され、最後にはアイク殿下も了承され、今後領地からの収入が安定したら、必ず相応の支払いをする、と約束してくださった。
アイク殿下に求婚した公爵令嬢は、中々に気の強い方らしく、アイク殿下は尻に敷かれているとの専らの噂。
それでも4人も子供がお生まれになったのだから、幸せに暮らしているのだろう。
元公爵令嬢、現公爵夫人とはたまにお茶会をするお友達になれましたし。
わたくしは、あれから何度も王妃様主催のお茶会やパーティーに招待されて、沢山の人を紹介されて、沢山の人と色々なお話をした。
沢山のお友達が出来て、幾人かの男性に婚約を申し込まれ、何度もお話をさせて頂いて、中でも特に熱心に色々なお話をして下さった方と婚約をして、結婚までして、今では子供まで授かった。
家族に触れた事の無いわたくしが、家族を持つ事には大きな不安が有ったけれど、その度に何度も何度も話し合い、ゆっくりとわたくしの意識を変えてくれた夫が、今、陛下から王冠を授けられている。
王城には国中の貴族と、周辺国の国賓、城の外には国中の人々が、新しい王の登場を待っている。
わたくしはそんな即位したばかりの王の隣に立ち、多くの祝福の声に応えるように手を振っている。
こんな日が来るとは夢にも思わなかった。
隣で微笑みをくれる夫を、今では迷わず愛しいと言える。
夫との間に出来た子供達を愛しいと言える。
わたくしはこの人と家族を作った。
愛を教えてくれた夫と、知り合う切っ掛けを下さった王太后様には感謝しかない。
即位し王となった夫がわたくしの頬に触れる。その指先が濡れている事にさえ喜びを感じる。
長年虐げられてきたわたくしは、感情を表すことが出来なくなり、王太子妃教育で習った愛想笑いしか出来なかったのだけど、夫が、子供達が、その他にも沢山の人達が、わたくしに喜びを、幸福を、怒りも悲しみも苦しみも教えてくれた。
人形のようだったわたくしを人間にしてくれた。
今もお城のバルコニーから見下ろす先には、国中から集まってくれた多くの国民が、笑いながら手を振ってくれている。
ああ、わたくしは今、幸せなのだ。
夫も同じ様に感じているのか、ちょっとだけ涙ぐんで、でもとても嬉しそうに笑っている。
「わたくし、とても幸せですわ」
「私もだよ。でももっともっと幸せになろう!この国をより良く導き、国中を幸せで満たしてやろう!手伝ってくれるかい?」
「勿論ですわ!だってわたくしは王妃ですもの!」
最後まで読んで下さりありがとうございました!
結構過酷な育ちなのに、実は本人はあまり気にしてませんでした。
生まれた時からそんな風なので、そんなもんなのだと育ち、周りの環境を見て初めてあれ?と思ったくらい。
寄り添ってくれる伴侶も出来たことだし、あとは幸せにホワホワ生きていってくれるでしょう。
今後の予定としましては、まだもう一話短編?があります。
月曜日から更新する予定です。
そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました!