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1 村八分

美人OL浜辺彩葉(いろは)は人間嫌いだ。できるだけ人との関わりを避けている。それはこれまでの人生でいろいろと不愉快なことがあったからだ。


例えば今の職場では中年のおばさんの香澄がちょっとしたミスでも大声で叱咤してくるのだが、それも彩葉にばかりきつくあたり、他の社員には甘い言葉をかけ、いつでも相談にのってくれる人間味溢れる、懐の深い女性を演じていた。


そんなわけで彩葉の職場の女子たちは香澄のことを頼り甲斐のある優しいおばさんだと思っているので、彩葉が香澄の数々の嫌がらせや意地悪を同僚に打ち明けようとしても誰もが思い過ごしだと言って相談にのってくれないのだった。


みんなに良い人だと思わせておいて特定の人だけに辛く当たるというのは当人にはかなりきつく、堪えるのだった。彩葉はこんな感じの場面があるドラマを最近見たのを思い出した。

    

 そのドラマの舞台は医大なのだが、ある教授が授業中にある特定の女子学生の肩に触ってくるようになり、不愉快に感じるようになっていたのだが、更に何かと理由をつけて彼女を自分の研究室に呼ぶようになり、何しろ呼ばれている理由が彼女の卒論に関するものなので仕方なく研究室に行っていたが、ある日他の学生が退出して教授と彼女の二人っきりになってしまった。


すると教授はそれまでは対面だったのに急に彼女の隣に移動して彼女の手に自分の手をのせ、彼女が手を引っ込めようとすると彼女の方に寄りかかるようにして唇を求めてきた。そこで彼女は

「それは無理です」

と言って立ち上がり、逃げるようにして研究室を出ていった。


すると翌日から学生たちの中で彼女にだけ連日膨大な課題、それも徹夜しないと終わらないような課題を課すようになり、彼女の成績を下げたりするという嫌がらせが始まり、彼女は苦悩し始めたのだった。


 自分だけが執拗に攻撃を受け、誰もわかってくれない時、つまり味方が一人もいない時、一体どうしたら良いのかがいつも彩葉にとっての課題だった。中学時代も高校時代も。


そして社会人となった今、またしても同じような状況に陥ってしまった。自分は狙われやすい、ターゲットにしやすいと見られているのか。それとも一種の野生的な本能でこちらの弱点を嗅ぎ分けているのか。


 そこで彩葉が取り始めた作戦は、できる限り徹底的に相手を避けるという作戦だ。それもわざと皆さんに分かりやすいような形で。


例えば数人の会議があるとする。香澄の隣だけが空いていても、空席を探してまわる。わからないことがある時、香澄がいてもう一人の同じ立場のスタッフが席を外している時は、普通なら香澄に聞けばいいのに香澄には聞かずにそのままもう一人のスタッフが戻ってくるのを立ったまま待っているとか。


誰の目にも彩葉がどうも香澄を避けているのがわかるように行動するのだ。そうすると人間の常として二人の間に何らかのトラブルがあるようだ、それは一体なんだろうと思うようになり、陰で噂が広がり始める。それこそ彩葉が意図していたことだ。


そうするといかに図々しく神経の太い香澄にもどうやらボディーブローのように効き始めているようだった。愛情たっぷりの良い人を演じている香澄にとってはこれはかなりまずい事のようだ。彩葉はざまあみろ、と思うと共に決してこの作戦をやめないと決めていた。


相手が泣いてこれまでのことを許してくれ、今後はそういう嫌がらせは2度とやらないと誓わない限りは。やられたらやり返す。何かのドラマで聞いた言葉だと彩葉は思った。

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