第25話 蜘蛛が仲間になりました
宿で合流した瞬間、私は違和感に気づいた。
あれ? 今日の宥子、やたら機嫌よくない?
頬がゆるんでいる。歩き方が軽い。明らかに財布が潤った人間のそれだ。よっぽど大金が入ったに違いない。
ところが。
ふん、ふん、と。
なぜか犬のように鼻を鳴らしながら、部屋の中を嗅ぎ回り始めた。
「部屋に戻ろうか。疲れたでしょう?」
にっこり。
完璧な笑顔。
だがその目は笑っていない。
あ、バレてるわ。
私の顔がぴきっと引きつる。
◇ ◇ ◇
当てがわれた部屋に入り、ドアを閉めた瞬間。
宥子の視線が蛇ちゃんズ+サクラ+私へと一直線に突き刺さった。
そして――蛇ちゃんズの“食欲の根源”を鷲掴みにする勢いで問い詰める。
「おまいら、何食べた?」
<何も食べてへんで>
<言いがかりや>
<……>
蛇ちゃんズは即座に反論。
しかしサクラはぷるぷる震え、目を逸らしている。
あ、これダメなやつ。
「そう……」
宥子はゆっくり微笑む。
怖い。
「正直に話せば、夕飯も豪華にしようかと思ったんだけどなぁ。君たち、私の従魔なんだよ? ご主人様の命令は絶対って分からないなら、全員自宅送りにするわよ?」
低音ボイス。
圧。
従魔たち、即堕ち。
<焼き鳥食べた>
<甘酒飲みました>
<チョコレート食べたのぉ>
裏切り者ぉぉぉぉ!!
どういう事か説明して? とばかりに私を睨む宥子。
私は明後日の方向を向く。
天井、きれいですね。
「おい。何勝手に餌与えてんだ! 私がこの子達の食事管理してるの忘れたわけじゃないよね?」
聞こえませーん、と耳を塞ぐ私。
「それ以外は口にしてないよね?」
怒り心頭。
私はおずおずと手を挙げた。
「いやぁ……それがですね。アラクラトロっていう大きな蜘蛛に遭遇してさ。蛇ちゃんズが蜘蛛を食べちゃったんだよ。あ、ちゃんと止めたんだよ? でも私の制止を振り切り、サクラちゃんのサポートを受けながら丸のみしてて……」
――ドサッ。
宥子が床に崩れ落ちた。
「容子に似て食い意地が張ってるのは諦めたよ。でも! そんなゲテモノにまで手を出さなくてもいいじゃないか! 餌あげてるよね!? 何が不満なの!?」
床をバンバン叩く姉。
私はそっと目を逸らす。
いや、似てないと思うけど?
「いや、食い意地が張ってるのはお前じゃん」
蛇ちゃんズ、火に油。
「お前ら全員飯抜き! 大体アラクラトロはAランクモンスターなんだよ! Cランクのうちらが狩る相手じゃないの!」
……あ。
言われてみれば。
でもご飯の用意は私がしてるんだよね?
蛇ちゃんズ+αには悪いけど、私はこっそり食べるから。
◇ ◇ ◇
「それで、他にはないのよね?」
「はい……」
大人しくなった私を横目に、宥子はドロップ品の確認を始める。
ウルフの毛皮×33
ワーウルフの毛皮×1
キラービーの羽×27
アラクラトロの糸×7
アラクラトロの牙×37
毒袋×1
黄色の魔石(小)×45
青い魔石(小)×16
赤の魔石(中)×1
赤の魔石(大)×1
アラクラトロの心臓×1
「……あの短時間でよくこんなに狩れたね」
宥子がぼそりと呟く。
そして小声で「アイテムボックス上限きそう」と言った。
いや、それは無いんじゃね?
フォルダ整理をしていると――
カサカサ。
小さな音。
「ん? 虫が入ったのか?」
虫除けは撒いてある。
音の出どころを辿ると……私のフード。
「容子、フードに何か隠してない?」
「あるわけねーべ!」
必死に否定するが、疑いの目。
「ちょい、後ろ向いて」
私は観念して背中を向ける。
ズボッ。
フードに手を突っ込む宥子。
何かを掴む。
「……硬い」
引っ張り出されたそれは――必死にフードにしがみつく蜘蛛。
「蜘蛛?」
私も首を傾げる。
「お前、この蜘蛛に見覚えないか?」
「あー……多分、アラクラトロ狩った後に見てた子。パチパチグミあげたら喜んでた。でも森で別れたよ?」
「餌付けしたんだね」
ぐうの音も出ない。
鑑定。
リトルスパイダー(幼体)。
拳より一回り小さいが、普通の蜘蛛よりはるかにでかい。
「容子、契約スキル持ってないし。街で魔物いたら討伐対象よ。元の場所に――」
すると蜘蛛が前足をフリフリ。
<その子も一緒にいたいって言ってるのぉ~。主ぃ、お願い>
サクラ、反則。
ぷるぷるボディで上目遣い。
「……ちゃんと面倒見れる?」
<うん!>
陥落。
「じゃあ契約ね」
ポップアップ表示。
YES。
表示されたステータス。
レベル63。
知能180。
速度1319。
幸運5482。
ギフト:韋駄天。
称号:レンの従魔。
加護:須佐之男命・櫛稲田姫命。
「ブホォッ!」
「私達よりレベル高いんですけど!?」
何この縛りプレイ。
幸運持ち。
ボーナスポイント9万超え。
凹む。
「名前どうする?」
「楽白ちゃん!」
「縁起でもない!」
昔、痩せ細ってしまった蛇の名前。
でも今回は違う。
「今度は私が決めるの!」
駄々をこね、正式名称楽白。
蜘蛛、嬉しそうにカサカサ。
「もう変なの拾ってこないでよ。明日は楽白をギルド登録だからね」
大きな溜息。
私はそっと視線を逸らす。
拾ったんじゃない。
向こうから来たんだ。
……たぶん。
こうして我が家の戦力は、また一匹増えたのだった。




