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台本通りの暗殺者  作者: 多幸
2章 依頼編
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1話 結城 小夜

森に囲まれた、一軒きりの古びた小屋。

外では風が木々を揺らし、

痩せた屋根が、かすかに軋んでいた。

その小屋の中で、男が女に言った。

「絶対に幸せにする」

真っ直ぐな言葉だった。

女は涙を浮かべ、何度も頷く。

「……でも俺には借金がある」

男は視線を落とした。

「それを返すまで、苦労をかけるかもしれない」

震えているのは、女だけではなかった。

女はズボンのポケットにそっと手を入れる。

取り出したのは、四つ葉のクローバーのネックレス。

妖しく淡い光を宿す、小さな宝石。

この小屋には、不釣り合いなほど高価に見えた。

「これ……」

声がかすれる。

「あなたが持ってて」

男はすぐに意味を理解した。

それを売れば、借金は消える。

だが同時に、それが彼女にとってどれだけ大切なものかも知っていた。

「いいの?」

「いいの」

女は涙を拭い、笑った。

震えながらも、覚悟を決めた笑顔だった。

「あなたが大事だから」

男はゆっくりと受け取り、深く頭を下げる。

ネックレスを首にかける。

そして、もう一度誓った。

「必ず幸せにする」

「うん」

二人は抱き合う。

狭い小屋の中で、

まだ見ぬ未来を信じながら。

風の音さえ、祝福のように聞こえた。

――だが。

数日後。

男は消えた。


夜の歓楽街。

雨が、容赦なく降り続いている。

ネオンは滲み、路地は黒く濡れていた。

その中を、女は走っていた。

虚ろな目で、何かを求めるように。

白いスカートは泥に汚れ、裂け、

濡れたシャツが肌に張りついている。

体温は雨に奪われ、

頬はこけ、顔色は青白い。

一週間。

食事も取らず、

眠りもせず、

ただ探し続けていた。

女の名前は結城 小夜。

消えた恋人――花守 景を探していた。

噂すらない。

まるで闇に溶けたように、痕跡が消えている。

それでも諦められなかった。

幼なじみであり恋人。

幸せにすると誓ってくれた男。

信じたい。

――だが。

もしかしたら、裏切られたのではないか。

その考えが、何度も胸を刺す。

それでも、一度だけでも会って確かめたかった。

小夜はよろめき、ついに膝をつく。

肩が震える。

周囲の人々は見るだけで、誰も手を差し伸べない。

冷たい視線。

冷たい雨。

小夜は歯を食いしばり、立ち上がる。

一歩。

その瞬間、誰かにぶつかった。

「す、すいません……」

地面に尻をつき、顔を上げる。

アロハシャツの男。

隣には派手なドレスの女。

「おい、誰にぶつかっとんねん」

怒鳴り声が歓楽街に響く。

「幽霊か? その顔、青白すぎやろ」

男は見下し、隣の女がくすくすと笑う。

「ボロいし汚いし……可哀想やなぁ」

周囲に人が集まる。

だが、誰も助けない。

小夜は縮こまる。

そのとき。

男の身体が、ぐらりと揺れた。

押されたように倒れる。

「あら、ごめんなさい」

低く、柔らかな声。

紫髪。

大きな帽子。

大きなサングラス。

ファー付きのクリーム色のコート。

紫のドレス。

赤いハイヒール。

絶世の美女だった。

空気が変わる。

男は振り返り、言葉を失う。

「……俺の女になれや」

自信を取り戻した声。

隣の女は明らかに不機嫌になる。

紫髪の女は、艷やかに笑った。

「面白いわね」

「あなたのどこを好きになればいいの?」

沈黙。

男の顔が歪む。

「ぶち殺すぞ!」

短刀を抜く。

悲鳴が上がる。

女は首を傾げた。

「殺すって、覚悟あるの?」

男が襲いかかる。

次の瞬間。

女の手刀で短刀が落ちる。

その後背負い投げをした

鈍い衝撃音が雨の中に響いた。

女は短刀を拾いあげ、

仰向けに倒れる男に向ける

「殺すって、軽いものじゃないわ」

「殺される覚悟も必要なのよ」

躊躇なく振り下ろされた。

――どん。

周囲から悲鳴が起こる

だが血は流れない。

柄で打ちつけただけ。

男は恐怖で気絶していた

女は何も言わず、背を向け、去っていく

観衆は、何事もなかったように散っていた。

雨が降り続く。

だが小夜の震えは止まっていた。

あの人は――

表の人間ではない。

もしかしたら。

小夜は最後の力を振り絞り、立ち上がる。

そして、紫髪の女を追いかけ走り出した。

ほんの一筋の希望に賭けて。

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