さかしきさとうがし▪︎おまけの小話4▪︎
ルイスもリンドがちゃんと好き。
アウレリアが正妃となって半年後のお話。
(時系列があちこちして申し訳ありません!!)
大きな手は分厚くて、かさかさしている。
内側はぽこぽこと皮膚が硬くなっていて、触り心地が楽しい。
指の節も自分とは違うから一本一本確かめるように握る。
丸い爪も厚みがあり、つるつると気持ちいい。
「あ……の。ルイス?」
「……なんですか?」
手を撫でるだけに執心していたルイスは、そこの先に繋がっているリンドのことは、あまり気にかけていなかった。
「こ……まります、そんな」
「はい?」
向かい合わせに座っているふたりは対照的だった。
リンドは目の周りを赤く染め、焦れた顔をしている。ルイスは落ち着いた、今にも眠ってしまいそな雰囲気だった。
最初は膝を付き合わせていた位置にいたのに、いつの間にか相手の足の間に自分の足を挟むような距離にまで近付いていた。
リンドの言葉に客観的になったルイスが、ああと納得して、あえてリンドの膝の上に座った。
握っていた手を自分の肩に添わすように誘導すると、リンドに反対の腕で腰を抱かれる。
ルイスはとんと肩に頭を乗せた。
ルイスはリンドの大きな手がとても好きだ。
一年前、生国の者から謀殺されかけた際に、ルイスは攻防の中で左腕を落とされそうになった。
運良くそこまでには至らず、左肩から胸までに深い傷を負うに留まり、命も落とさずに済んだ。
当時まだ姫君だったアウレリアから護衛の任を外されて、めそめそ泣いたのをリンドになぐさめられた。
まだ完全に傷が癒えていない状態で、精神的にも衝撃を受け、ぼろ布のような気持ちでいたその夜に、高熱に襲われる。
意識がぼんやりとしている間、ずっと人の手が触れている感覚があった。
傷の上に添えられた手は、痛みを和らげようと治癒の魔術が展開されていた。
かさかさとした温かで大きな手が肌に触れている感覚。
とても安堵したのを今でも忘れていない。
「……ルイス」
「うん?」
口付けされていたのが、いつの間にか長椅子に押し倒される格好になっていた。
浅かったものも、どんどん深く、遠慮がなくなってくる。
「んんん!!……ちょっ! ……待っ……!」
びしびし背中を叩いても、足をばたつかせても、一向にリンドが止まる気配がない。
脇腹をなで上げられた時点で、この後の予定を完全に忘れていると確信したルイスは、リンドの脛を思い切り蹴り上げた。
飛び起きて唸りながら脛を抱えているところから距離を取って、ルイスは手の甲で口を拭う。
「……何なんですか、何でこうなるんですか」
「…………ルイスがかわいいからですよ!」
「砂糖菓子が詰まってるって教えましたよね!」
「私にも多少なら耐性があります!」
「なら良いかとはなりませんからね!」
お互いにふんと息を吐き出すと、ひと呼吸で気持ちを切り替えて、落ち着いた態度になる。
この職務に就いているからなのか、自分の感情から自分を切り離すのは、ふたりともとても早い。
「…………早く取って下さいよ、砂糖菓子」
「…………そうなれば良いですけど」
時間には少し早かったが、ふたりとも部屋を出ることにした。
この後、お互いに守るべき人の元へ行く為に、それぞれ別々の場所に向かう。
そもそも少しだけ顔を見て、ただ行ってくると伝えようと思っただけだった。
雰囲気に負けて流されそうになったのが、何となく癪に障る。ルイスはリンドの部屋を辞すると見せかけて、扉の前から取って返す。
走り寄ってリンドをぎゅうと抱きしめ、頬に唇を押し当て、その跡をするりと手で撫でた。
喉に大きな塊を詰まらせたような声を上げ、顔を真っ赤にしたリンドを見て、ルイスは思った通りになったと気を晴らした。
にやりと笑って今度こそ部屋を出る。
現在 王妃となったアウレリアに、生国から訪問者が訪れている。
隣国の王となった兄と、未だに嫌がらせに余念のない姉姫ふたり。
全員が母の違う、腹違いの兄妹だ。
実父は次代の王を、兄妹同士、争わせて決めようとしていた。
知略も実力も、より優れたものが玉座に相応しいという考えを、特に我が子たちにはとくとくと語って聞かせた。
争い蹴落とし合い、優秀であると売り込み、味方をする周囲を取り込んで使い、城内で勢力図を広げていく。
父王の言葉に素直に従う兄たちや姉たちを見ながら、アウレリアは素直に馬鹿らしいと感じた。
世界を見回してみれば、こんな小さな国の玉座など、どれほど重要なことか。
そこに執着するほどの価値が果たしてあるのか。
自分の命をかけるのはここではないと、早々に目標を変え、逸早く争いからは身を引いた。
結果がこれ。
王になった兄が、その報告に頭を下げにやって来る。
相手がどう考えているのかはどうでもいい。
アウレリアにしてみれば、完全なる勝利と言えた。
「どうしたのルイ、早いじゃない」
「……落ち着いているのは王妃様だけですよ」
「あら。私だってそれなりに思うところはあるのよ? まぁ気分が良い方が強いけど」
落ち着いた様子で椅子に腰掛け、最近になって少しだけ膨らみが分かるようになったお腹を撫でながら、アウレリア妃は鷹揚に笑う。
まだ周知はされていないが、アウレリア妃の中に新しい命が宿っていた。
今回の隣国王の拝謁後に、改めて国民に知らされる予定になっている。
「これで兄様たちや姉様たちと、お互いに確認できる……やっとね」
正妃となり、もうすぐ王の子を産む。
この大陸一の強国の王の子だ。
相手がどう考えようが、これもアウレリア妃の中では確然たる差が存在した。
「もうすぐ貴方たちを自由にしてあげられる」
「……自由になっても私たちは王妃様の臣下ですよ」
「自由についていきます!」
「心の赴くまま臣下でいます!」
ココとエマは生まれながらにして多かった魔力を、自らに魔術を刻み込むことで更にそれを引き上げた。
ルイスは剣と盾になることに全てをかけてきた。
アウレリアはそれに報いる為に、持てる能力を使い三人を連れてここまでのし上がった。
拝謁の間へどうぞと告げる侍従の声に、ルイスに手を差し出されたアウレリア妃は立ち上がる。
王妃の為の、大きな部屋の真ん中で。
四人は抱き合って額をくっつける。
これからの大一番に英気を盛り上げていく。
それぞれの胸の中で灯る火に煽られて、熱い息を、ゆっくりと静かに吐き出した。
「さあ行くわよみんな」
まるで散歩に向かうような呑気な声に、臣下たちも笑顔で応えを返した。
ココとエマは魔術の縛りを解いて、あらゆる方面にも力を振るえるようになった。
ルイスは奥歯に仕込んであった毒を取り除く。内臓の治癒に回していた魔術を普通の暮らしに役立てられるようになった。
今は暗器もほとんど身に付けない。
王妃の個人的な護衛ではなく、近衛としてリンドの部下になり、正式に王妃の騎士のような立場になった。
「奥歯の砂糖菓子は取りましたか?」
「取りましたよ」
「ではこれからは口付けはしたい放題ということで良いですね?」
「……それはどうですかね」
「まだ何か仕込んでいるのでしょうか?」
「私の気分は考慮に入れてもらえないんでしょうか」
「……うん。ではこれからは都度 確認をしましょう」
「…………いちいちされると面倒ですね」
「ではやはり私の好きなようにします」
「思った半分以下にして下さい」
「では今の倍思いましょう」
「…………この婚姻は無かったことに」
「ううん……困りましたね。明日のお披露目で皆になんと説明しましょうか」
「ふふふ……夫の気持ちが重すぎて妻が逃げ出したとでも言って下さい」
「それは全員知ってますからね……そんな理由で納得してもらえるかどうか」
話をしながら自分の手を弄んでいるルイスが、堪らなく可愛くて仕様がない。
ぐいぐい押し倒そうとすると、がんがんに脛を蹴られる。
気持ちも身体も重い夫は、動じない。
今回はその場を譲らなかった。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
このお話はこれにて終了でございます。
感想やブクマや評価で応援して下さった方々には感謝しかありません。
ありがとうございます。
以下、おまけのおまけです。
お話に盛り込むには余計だと割愛したものがございますので、裏話的にここに置いておきます。(読まれなくても無問題です)
アウレリア王妃はこのあと無事に女児を出産。
数年後に男児が産まれます。
顔が王に、性格がアウレリアに似た長女が王位を継ぎ、この国初の女王となります。
(弟の方は顔がアウレリア似、宰相として姉を支える立場に)
リンドとルイスは子どもを持ちませんでした。
長いこと自分に毒を盛っていたので、子どもは出来ません。リンドも承知の上で婚姻を結びます。
この辺り、書こうかどうか迷いましたが、どうしても重くて暗くなりそうなので、やめました。
継承争いを避けて養子も得ませんでした。
お家の存続は親族にお任せです。
ココさんエマさんはずいぶんと前からお互いを伴侶としています。アウレリアとルイスは知っています。※苦手な方がおられたらアレなので、ここはあえて割愛しました。受け付けられない方は読まなかったことにして下さい※
特にざまぁのシーンも要らないだろうと書きませんでした。※ていうか書けませんが正しい※
そこが本題ではないので、ご了承ください。
今までそれぞれあったまえがき、あとがき、消えたり短くなったりしております。
こちらもお話の流れをいい感じにする為に編集させて頂きました。
ではでは。
このような後書きまでも最後まで読んでいただきまして。本当にありがとうございます!!
今後も『いちゃいちゃしつつもちょっと良い話』を書いていく所存ですので、ぜひぜひよろしくしていただけますように。
願いを込めつつ、これにて失礼いたします。




