7.蒼炎が舞う帝都_下
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
――何だ!何が起きているんだ!
メルがドアを開けて……そしたら、急にガラの悪そうな男達が3人?入口付近にいた。サリエラがマルクに向かって炎の魔法を放って……。
「2人とも部屋へ戻って!」
普段のアリアから、考えられないほど切羽詰まった声。
アリアは自分たちを部屋に押し込む――
「アルス!メルをお願い!メル。大丈夫だからね……」
小さな笑みをこちらに向けた。
そして扉の外へ出ていった。扉の隙間から一瞬チラッと見えたのは――全身火だるまのマルクだった。
何なんだよ!状況が理解できない!
「おかぁさん…待ってよぉ…ぐすッ」
メルもついに泣き始めている。
すぐにサリエラが部屋に入って来た。そして、扉の側面にあった内側のかんぬきを――下ろした。
今まで何のためにあるのか分からなかったが、今理解した。
用意していたんだ。
この日のために。
「待って!マルクとアリアが!」
どう見ても、マルクとアリアだけでは不利だったはずだ。
「アルス……メル……。2人とも急いでこちらに来てちょうだい」
「うえぇん。お母さんとお父さんがいいよぉ」
「メル……ごめんなさいね……。でも時間がないわ。急いで!」
サリエラの目元も…..少し濡れている。
ぐずるメルと一緒に暖炉まで行くと、サリエラが暖炉横の小さな石に魔力を流す。
ガコンッ、と何か暖炉の奥で音がした。
「さぁ。急いで!」
サリエラが暖炉の中へ自分たちを引っ張り、奥の石の壁がドアのように少し開く。
隠し扉だったのか――そう思っているのもつかの間、中に自分たちが入ったのを確認したサリエラが、入口同様に近くにあった石に魔力を流した。
ガコンッ!ギチッ、何かが挟まるような音がした。
そして、サリエラはその石を一瞬ためらい――割った。
多分もう開かないのだろう。マルクとアリアは……。
「ごめんなさいね、アルス。メル。後でちゃんとお話ししましょう」
通路足元に石?みたいのが等間隔ではめ込まれている。ぼんやりと光ってる。
静かにサリエラの後を追って、少し足早に歩く。
――刺客だったのか?どう見ても殺しに来ていた。誰を――まさか、自分のことを?
歩きながら、少し冷静に考えられるようになってきていた。
マルクやアリア、サリエラも普通の一家だったと思う。マルクの仕事柄、恨まれることはあったかもしれない。
だが――隠し通路まで用意するのは異常だ。
サリエラは冷静で頭のいい人だ。教養も高い。2人を置いていく事が計画通りな訳がない。何か不測の事態が起きているはずだ。
この通路……足元に光がある。埃っぽいが蜘蛛の巣はない。だいぶ前から用意していたのだろうか。
それでも、定期的に誰かが通っている。
前世の頃より、頭が冴えわたっている気がする。少し頭に魔力を送っているが、そこまで消費されている感じはしない。自分の魔力でも結構持つだろう。
「サリエラお祖母ちゃん……お父さんとお母さんは後から来るの?」
「――っ。ええ。後で私が迎えに行くわ……」
一瞬歯を食いしばったように見えた。
結構歩いたように感じる。結構長いよなこれ……。掘るの相当大変だったんじゃないか?少なくとも、サリエラ一家だけでできる事じゃない。
「着いたわ。少しそこで動かないで」
「…うん…。わかったよサリエラ」
サリエラが入った時と同じように石に触れると、ガコンッ、と音がしたのが聞こえた。
扉から光が漏れ出ている。外は朝……なのか?
サリエラが素早く外に出て確認し、自分たちを呼ぶ。
「大丈夫でしょう。こちらへ」
「うん……」
まず、目に入るのは川だ。対岸があるから川だと思う。右手に何隻かそこそこ大きい手漕ぎ船が見える。
サリエラが先導して歩き、手漕ぎ船を何隻か通過して、一隻の小さな布が被った船の前で止まる。
「この船に乗ります。アルス。メル。船は初めてでしょう」
サリエラが少し微笑み、船の上に被さっていた布をめくる。本当にただの船だ。帆も無いしどうやって動かすんだろう。サリエラ1人で動かせないし自分達はそもそも戦力外だと思う。
「乗りましたね。アルスとメルはこの布をかけてください。では動きますよ」
サリエラが繋いでいる縄を魔法で切り、碇みたいなものを上げて陸に投げた。そうすると少しずつ前に船が動き出した。
サリエラに言われた布を2人で頭からかけた。少しカビ臭い……というか生乾きの雑巾みたいな匂いだ。
メルを見ると――完全にダンマリだ。
自分でも相当気になるし、心配だ。子供のメルが今静かに出来ているだけ凄いと思う。
「アルベリア川は流れが急です。どこかに捕まっててください。何もしなくても目的地まで着くでしょう」
なるほど川の流れに身を任せてってやつか。
「サリエラ、あの人達は……何?」
少し進み始めた頃、自分はどうしても気になりサリエラに尋ねた。
「……そうですね。お話をしましょうか。アイツらは蒼炎傭兵団……多分私を殺しに来たのでしょう。私は元――」
「見つけたぞぉ!!」
背後からドスの聞いた大声が聞こえた。
よく見ると、50ルムドほどの距離に、自分たちが乗っている船より大きな船が迫って来ていた。そして、船頭でスキンヘッドの、左肩から血を流している男が叫んでいた。
「くっ!どうやってここが!」
「さっきは良くもやってくれたなババア!肩の借りも返してやるぜぇ!」
アイツは!さっき扉から少し見えた時にいた奴だ!ここにいるという事は――マルク……アリア……!
「お前だけは逃すわけにはいかねぇんだ!ここで逃げられる訳にはいかねぇ!死んでもらうぜぇ!」
どうやら自分達のことは眼中に無いようだ。
「ふっ!そこまでして私を殺したいですか!随分大物が背後にいるみたいですね!」
サリエラは、手で自分達に伏せているよう手を下におろした。
「金払いはいい人でなぁ!うちの団長も喜んでいるぜぇ!さぁ、元月影騎士団の実力はさっき思い知った!本気で行かせてもらうぅ…ぜっ!〈ウォーターバレット〉」
「ッ!〈ウォーターウォール〉!〈アイスランス〉!」
「チッ!」
サリエラの魔法発動速度はアイツより早い。
「ケッ!流石元騎士団所属だぜ!若かったら俺がほっとかなかったな!」
スキンヘッド男がそれを躱しながら叫ぶ。
「……間に合っています……いい旦那でしたから」
「そうかよ!まぁ、俺もババアは興味ねえ!さっきのお前の娘か?あれは良かったぜぇ。まあ、もう男の方と沈んでるだろうがな!」
その瞬間、サリエラの魔力が爆発的に漏れ出た。魔力を目に通さなくても、心臓の部分からとめどなく出て、体にまとわるのが目で見えた。
そして、サリエラは右手の人差し指をかみ切った。
「!!……死んで頂きますっ!《血統魔法:ブラッドウィップ》!」
バシンッ、とサリエラの前に赤い鞭が出現し、水面を大きくたたいた。そして、その鞭は相手の船頭にいるスキンヘッドめがけて伸びていった。
まるで金属同士がこすれるような音を出しながら、剣でスキンヘッドが受け止めた。
まるでアニメの世界の戦闘だ。それに、サリエラが元騎士団の所属?確かにそう言われれば今の状況も納得だ。これなら勝てるのかもしれない!
「クソがッ!これだから高位貴族の相手は嫌だぜぇ!だがよぉ…」
男がニヤリと笑う。
「その魔法…有限だな…特に歳をとったババアに使いこなせる魔法じゃねえな?」
その言葉を聞いてサリエラを慌てて見ると、顔は真っ白だ。汗もすごい。立っているのがやっとで、もう膝をつきそうだ。
――そうだ!これだけの力が無限ならさっきマルクたちの時に使ってる!これは、サリエラが死んでしまう!
「ふっ……わが家の……血統魔法は本当に……。だけれど……あなた一人くらいなら……倒せます」
「俺一人ならな!!おいっ!」
直後、男の背後でクロスボウを構えている奴らが数人見えた。
「遊びは終わりだぜぇ。じゃあな!それなり楽しめたぜぇ」
「――アルス!メル!」
自分はメルを抱き寄せたまま――そして視界が真っ赤に染まった。
――矢が飛んできていない……これはサリエラの、血の魔法か!
赤黒い球体が脈打ち、まるで心臓の中に閉じ込められたようだった。
「……アル…ス…」
球体の外で声がした。血が赤黒く外があまり見えない。
「サリエラ!大丈夫なの!?」
「問題……ありません。……いいですか……良く……聞いてください」
「それより、これからどうしよう!どうやって……」
自分には何ができる?この状況で魔法なんて使えないし、船を漕げるか?いやその前に殺されてしまう!
その前にサリエラを―‐。
「アルス!!」
「……!」
サリエラが声を張り上げた。
「メルと……川にその血の球体ごと……飛ばします……。奴らは……私の死体を……引き渡すため……にこの船に乗り込むでしょう……」
サリエラの声が弱い。きっとサリエラはもう――。
「最後に……一矢報います……。それと同時に……メルと行きなさい……そして……スラム街へ逃げなさい……!ゲホッゲホッ」
「おばあちゃん!」
「いいです……ね。メルもアルスと共に……生きなさい……」
「サリエラ……」
――転生チートなら!ここで力が出るんじゃないのかよ!今世もこんな……こんな人生なのか!自分には……僕には!何もないのかよ……。
「……アルス…こちらへ…」
球体の壁の近くに寄る。
メルはその場で泣いてしまっている。
「あなたは……聡い子です……。然るべき時が来たら……全てわかるでしょう……。それまで……生きなさい!……必ず!」
「僕には……僕には何ができるの…僕は!……何も出来ないじゃないか……」
男たちの声が周りから近づいてくる。周りを囲んでいるのか……。
「アルス……あなたは人を導く子。いずれ、この国全ての人の信頼を得るでしょう……。
女神ルミエラが……あなたを選んだのです……」
「そんなの無理だ……僕には無理だ……」
「アルス……」
前世で自分……いや僕は……前世の母以外全てを憎んでいたんだ。
この世界での両親のような家族を失って……人を導く?信頼?そんなの僕には無理だ……。
「アルス……アルス!」
「……!!」
「貴方にしかできません。貴方だけがこの国を……人を……救えるのです!」
「……」
「生きなさい……アルス……メルと共に必ず……」
傭兵たちの声がもうかなり近くに聞こえる。
球体の外で青いモヤが見える。
――サリエラの胸元から溢れた魔力は、血液そのものを媒体にして暴走していた。
「愚かにも近づいてきましたか!……女神ルミエラよ!祝福の子らに導きを!!!《血統魔法:ブラッドバースト》!」
その瞬間、世界の音が消えた……。
サリエラの作ってくれた血の球体の中で、メルと固く手を握った。そして、サリエラの魔力の気配が、ふっと消えた。
――ああ、サリエラ!
直後……川の水が中に入ってきて――。
僕たちは意識を手放した。
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