78話 幸運山伝説爆誕
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
それは、ハンバーガーの山だった。
もこもこと蠢くハンバーガー。
それは何故か包装紙に包まれている。
蠢いているように見えるのは、今尚、底から新しいハンバーガーが生まれているからだ。
では、古いハンバーガーはどうなっているのか。
それは山から転がり途中で、ふっ、と消え去った。
そう、消え去ったのだ。
放置されて腐れる事もなく消失する。
人知の及ぶところではない。
神秘といえる光景がそこにあった。
なんだか有り難くない神秘ではあるが、一応は神秘だ。
「いったい何事だよ、これ」
ジャックもこれにはあきれ顔だ。
ラーメンの滝も酷かったが、これも酷い、と感じているもよう。
「そんな事よりも食おうぜ」
「ブレないね、トウキは」
トウキは早速、ハンバーガーの一つを手に取って包装紙を剥がす。
すると、出来立てほやほやの状態を保っているハンバーガーが「ハァイ」と顔を覗かせた。
「おぉ? これは……エッグバーガーか?」
トウキが手にしたのはエッグハンバーガー。
ハンバーガーに目玉焼きがトッピングされた絶対に美味いやつだ。
構成はバンズ、パテ、目玉焼き、ケチャップ、マスタード、ピクルス、と実にシンプル。
「いっただきまぁ~すっ! はぁむ……むぐむぐ……ごっくん」
咀嚼する度にトウキの顔が緩んでゆく。
それは幸せを嚙み締めているからだろう。
「うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで美味いっ!」
「躊躇なくいったな」
普通は毒が入っているかどうか調べるだろう。
トーヤはそう思ったが、トウキならば仕方がない、と諦めた。
そう思ったところでトーヤもハンバーガーに手を伸ばす。
「こっちはパテがフライになっているな」
彼女は不思議そうな顔をしながらもそれを口にする。
そして、咀嚼してゆくうちにニッコニコになった。
「チキンバーガー」
「おぉっ!? もしかして沢山の種類があるっぽい?」
「あぁ、おそらくは。トウキもその内、チキンバーガーに当たるかもな」
二人の様子を見守っていたジャックも後に続く。
「俺のは……えぇ? ポテトフライが入ってたぞ」
ジャックが手にした物には何故かポテトフライ。
姿形は他のハンバーガーと同じだが中身はポテトフライであった。
「塩が効いていて美味いな。細切りだから食い易い」
「あー、俺にもくれっ! ハンバーガーにはポテトだろっ」
「はいはい」
子犬のように纏わり付いて来るトウキにポテトフライを与えたジャックは、気を取り直してハンバーガーをゲットしようと試みる。
「……アップルパイ」
「くださいっ」
ジャックは次にアップルパイを引き当てたもよう。
それを目撃したトーヤは眼鏡を無駄に輝かせてアップルパイを奪い取る。
今度こそは、とジャックはハンバーガーを選出。
「ソーセージマフィン」
「あら、いいじゃない」
「デューイ、俺はハンバーガーが食いたいんだ」
妙なところで運が無い男、ジャック。
いや、これはある意味で運がいいのだろう。
彼が手にした物は全てレア物ばかりなのだから。
「なら私が選んであげるわ……はい、これ」
デューイが選んでジャックに渡した物、それは何の変哲も無いハンバーガーだ。
これぞ、The・ハンバーガーというどシンプルなものだ。
この大量にあるハンバーガーの中でこの【どシンプル】なハンバーガーを手にする確率は極めて低い。
ある意味で幸運の持ち主だが、残念ながらこれはハズレである。
「うん、美味くもなく不味くもない。普通だな」
「わ、私が悪いんじゃないもん。ハンバーガーが悪いんだもん」
デューイは責任をハンバーガーに擦り付けた。
極めて邪悪。
「はい、ジャックさん。さっきのお礼です」
トーヤがジャックに手渡したものも基本となるハンバーガーだった。
しかし、それは頭に【究極】と付く代物だ。
「うおぉぉぉぉぉっ!? 違うっ! さっきの貧相なハンバーガーとは比較にならんっ!」
「ちょっ!? マジでっ!? 一口っ!」
興味が止まらなかったのだろう。
デューイはジャックの食べかけのハンバーガーに齧り付いた。
「ふぁっ!? おいしぃぃぃぃぃぃぃっ」
「おまえなぁ……」
それは何もかもが違った。
バンズはふかふかで噛み締めるとあっという間にホロホロと崩れてゆく。
それが他の食材の邪魔にならない。
無論、味もしっかりしているが主張してこない。
バンズに求められるもの全てが詰まっていた。
パテは極厚ジューシー。
噛み締めると旨味が口の中で大洪水を引き起こす。
それは気を付けないと口から溢れ出るであろう。
味付けのケチャップはくどさの限界を見極めたかのような代物。
メリハリの利いた塩気と酸味のコラボレーションは、ともすれば脂っぽい過ぎるパテを抑え込み、程よくしてくれる効果があった。
密かに忍び込ませているマスタードは陰の主役だ。
この瞬間的な辛みがハンバーガー全体を纏め上げている。
ピクルスはハンバーガーのおまけとして、さり気ない酸味と食感を提供する。
このさり気なさが肝要。
咀嚼するという楽しさを再認識させてくれる名脇役なのだ。
「……間接キッス」
「「――――!?」」
何気ないトーヤの指摘。
しかし、それは紛れもない事実であり、指摘されなければスルーしていた案件。
これによってジャックとデューイは顔を真っ赤に染め上げる。
「てりやきっ!」
しかし、トウキは平常運転だ。
これにラブコメに片足を突っ込みかけていた本作は逆路線であることを思い出し大事には至らなかった。
「ふきゅん!」
黄金の珍獣は究極チーズバーガーを引き当てたらしい。
びょーんと伸びるチーズが顔面に張り付こうがお構いなしにハンバーガーを喰らい続ける。
そして、自分と同じくらいの大きさのハンバーガーを、ぺろり、と平らげてしまったではないか。
「こりゃあ、全ての種類を把握するには時間が掛かりそうだな」
「みたいね」
少しぎこちない笑みを浮かべるジャックとデューイはしかし、互いの顔を見るや否や再びラブコメ路線の波動を放ち始める。
これをなんとかせん、と立ち上がったのはトウキだ。
「チューしろ! チュー!」
「せんわ、バカタレ……デューイさん?」
「ん~」
ジャックは呆れるがデューイは満更ではないもようで、唇を突き出して待機中。
唇を突き出すとギャグ表現にしかならない、ってそれ一番。
ズキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!
がしかし、ジャックはデューイの後頭部を抱飽き抱え、彼女の唇に己の唇を重ねた。
この間、僅か2秒の出来事である。
「―――!?―――!――――♡」
接吻の時間は5秒ほど。
最初は困惑していたデューイだったが、3秒付近で表情が蕩けていた。
互いの唇が離れる。
デューイは若干名残惜しそうだ。
「どの道、言うつもりだった。デューイ、好きだ。俺の隣にいてくれ」
トウキとトーヤは思った。
ジャックさん、強過ぎんだろ、と。
彼女たちの思うように、決めるときは決める男がジャックだ。
そして、やると決めたからには一歩も退かない。
「と、突然すぎるでしょっ」
「いやか?」
「……そ、そんなわけないじゃない」
ジャックは心の中でガッツポーズを決める。
実際の行動はデューイを優しく抱きしめるというものだ。
この突然の告白にトウキとトーヤはフリーズしたが、珍獣は謎の貫禄を見せつけながらの拍手。
肉球が邪魔をして、ぽふぽふ、という音しかなっていないが、それでもフリーズしたトウキとトーヤを再起動させるには十分だった。
「うおぉぉぉぉぉっ! おめでとうっ!」
「唐突過ぎるけど、おめでとうございますっ」
「はは、ありがとな」
「は、恥ずかしいわね」
後日、この出来事は話題となり、幸運山の山頂で告白すると両者は結ばれる、とのうわさが広まった。
これにより多くのドッペルドールのカップルが幸運山の山頂を目指す。
被害を被ったのはキラーピエロたちだ。
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ぎょみぃぃぃぃぃぃっ!?」
人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて何とやら。
愛の力で無駄にパワーアップしているドッペルドールたちに散々に蹴散らされた凶悪な猿たちは住処を追われ、泣く泣く幸運山を後にした。
今は遠くの洞窟内でションボリしている。




