77話 見えぬ者
キラーピエロたちを撃破したトウキ一行はその後、猿どもと遭遇する事が無かった。
それは遠くから現場を観察していたキラーピエロが、あいつらヤヴェ、と各群れに報告して回ったがためだ。
そのため、キラーピエロの群れは脱兎のごとく幸運山の裏手に移動。
木の陰や洞窟でガタガタ震えている。
「猿出てこねぇな。もっと脳みそ欲しいのに」
トウキは野獣の眼差しで周囲を見渡す。
その凶悪な食欲は遠く離れたキラーピエロの群れに届き、数匹がショック死した。
ここまで来るとキラーピエロの方が哀れである。
「本来の目的はハンバーガーだろ。猿なんて放っておけ」
「それもそっかー」
トウキはトーヤに窘められて興味をハンバーガーに戻した。
キラーピエロは許されたのである。
幸運山を登る。
ドクター・モモの話では山頂付近にハンバーガーが湧き出る泉というか穴があるらしい。
幸運山は低い山であり、山頂までは三十分ほどで到達できるだろう。
妨害が無かったら、の話であるが。
「ハンバーガー、ハンバーガー」
ルンルン気分で登山をするトウキ。
しかし、そんな彼女が突如、動きを止める。
「……」
周囲を警戒しだす。
キョロキョロと周囲を窺う動きは小動物のようだ。
「……」
トーヤもトウキ同様、周囲に気を払っている。
「ど、どうしたの? トウキちゃん、トーヤちゃん」
「しっ……何かに見られている」
どうやら、暢気なのはデューイだけのようだ。
ジャックも違和感を感じて既に警戒態勢に入っている。
周囲には遮蔽物が無く、何者かに見張られているのであれば姿は丸見えになろう。
しかし、視線は感じても姿形はどこにも見当たらない。
「おいおい……透明人間でもいるってのか?」
「そうだとするなら厄介だな」
トウキとトーヤはたとえ透明でも気を察知して、どこに何がいるのかをおおよそ把握することが出来る。
しかし、今回の視線の持ち主は気が散漫であり、どこに居るのかが特定できなかった。
「気の質も複数じゃない。同じ波長だ」
「同一人物が十人以上もいるってか? 冗談だろ」
「……」
トーヤが狙撃銃に手を掛けたところで、謎の気配はこの場から遠のいて行った。
「行った……?」
「ただの様子見か?」
「かもしれない」
トーヤは狙撃銃を担ぎ直す。
トウキもオーラウィップから手を放した。
「随分と不気味な気配だったが……いったい何だったんだ?」
「そんなの、こっちが聞きたいよ、ジャックさん」
ジャックは額を伝う汗を手で拭い取る。
トウキもまた彼同様に嫌な汗を流していた。
「なんだかよく分からないけど、さっさとハンバーガーをゲットして帰った方が良くない?」
「それがベストだな。出来れば、の話だが」
「ちょっと、ジャック! 嫌な事を言わないでよっ!」
「可能性は高い。気を緩めるんじゃないぞ」
ぺしぺし、とデューイの腰を叩くジャックは感じ取っていた。
背後から向けられる嫌な視線を。
遠くに行ったのではなく、背後に回っただけであると。
しかし、それはただ観察しているだけ。
殺気は無い。
だからこそ不気味。
デューイを促して先に進ませたのは背後からの襲撃に備えての事。
「トウキ、後ろ、気付いているか?」
トウキに近付き小声で語る。
「気付いているよ、ジャックさん」
「取り敢えずは気付かない振りでもするか?」
「それで行こうか」
パンパンパン、ずびゅーん。
……どさ。
何者かは死んだ。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
「人の尻を舐め回すように見るからだ。変態め」
地面に広がる血だまり。
その中心から徐々に何者かの姿が浮き彫りになる。
それは沢山の眼球が顔面に張り付いた人型の何か。
トウキたちはそれが何であるかを知っている。
「フォールンドールかっ」
ジャックは懐のハンドガンに手を伸ばしたが、途中で行動を取り止める。
それは頭部に大きな風穴があいているのを認めたからだ。
ヘッドショット。
ビューリフォー、である。
「僕の尻に視線を向けたのが運の尽きだ」
「どんだけだよ」
トーヤは変態絶対殺すウーマンであることを証明した。
気を察知することは困難だったが、視線を察知するのは容易であったのだ。
フォールンドールの眼球は多数あったが、それらが全てトーヤの見事なおヒップに向けられたのが運の尽き。
その気配を察知され、鉛玉とビームの熱線を叩き込まれて絶命した。
尚、複数の気配は複数の眼球を用いて気をばら撒いていたもよう。
つまり、このフォールンドールもまた気の使い手だったということになる。
「まさか、フォールンドールが僕らを見張っていたとはな」
「俺たち、有名人になってる?」
「嬉しくはないがな」
想定外の脅威を排除したトウキたちは遂に幸運山の山頂に到達。
そこには目を疑うような光景が待ち構えていた。




