76話 いやぁ、キラーピエロは強敵でしたね
緑と赤の体毛はなるほど、まるでピエロのようだ。
しかし、その狂暴な顔はピエロのそれとは異なる。
何より、彼らは人を餌としてしか見ておらず、加えて女性は性欲を吐き出す対象とみなしている。
正しく人類の敵。
それが類人猿であるキラーピエロであろう。
「この場合、俺だけが連中の敵ってわけか」
ジャックに向けられる殺意が半端ではない。
それは彼だけが男性であり、食べても美味しくなさそうだったからだ。
「ジャックさん、モテモテじゃん」
「俺は猿にもてたくないんだがな」
尚、トウキは食べちゃいたい度ナンバーワンである。
ボンレスハムみたいだから仕方がない。
「なんか、めっちゃ嫌らしい目で見られてるんですが?」
「そのつもりなんでしょう」
そして、デューイとトーヤに対してはエロい視線。
値踏みするかのような視線が乳と尻に向けられる。
特に尻は念入りに観察されているもよう。
そして、両者ともに合格点を頂いていた。
「ぎきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
キラーピエロの一匹が咆えた。
それは戦いの始まりを意味するだろう。
パンッ。
というわけで早速一匹が射殺された。
トーヤの狙撃である。
さっきから尻ばかりを見られて怒りが頂点に達したのだろう。
問答無用の一撃が炸裂した。
本来ならここでキラーピエロが殺到するという映えるシーンだったのだが、それはキャンセルと相成った。
キラーピエロたちもドン引きである。
「おまっ……なにやってんの?」
「不快な視線を送ってくる猿どもは皆殺しだ」
「こえー、ケツデカこえー」
ぶにゅん。
「鉛玉を下から食いたくなければサッサと行け」
「サー! イエッサー!」
トーヤはトウキのむっちむちの尻にハンドガンを突き刺し脅迫した。
今の彼女が激ヤバであることを察したトウキは慌ててキラーピエロの討伐に赴く。
「おまえら食えるのか?」
オーラウィップを手にして、それを群れ目掛けて振り下ろす。
金色に輝く鞭は猿どもには命中しなかったが、代わりに地面に打ち付けられた。
猿どもはそれを小馬鹿にしようとするも、直後に己の愚かさを思い知る。
地面が金色に爆ぜた。
それは鞭に込められた気が攻撃性のエネルギーを解放した証。
要はオーラの爆弾を群れの傍に叩き付けたも同然の攻撃であったのだ。
「ぎぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
爆発と地面が爆ぜた際に飛び散る石片がキラーピエロたちの身体を砕く。
それでも生き残った個体はまだ13匹ほどもいる。
それらは石を拾い上げて投擲の態勢に入った。
彼らの投擲は並のドッペルドールでは回避不能。
したがって防御するか、投擲が外れてくれる事を願うしかない。
「はいはい、やらせませんよっと。Extraスキル【バキューム】!」
デューイの身体が緑色の輝きを放ち上空に黒の渦が発生。
そこにキラーピエロたちが握っていた石、そして周辺の石までもが吸い上げられてゆく。
「前々から思っていたんだが……それって反則レベルのスキルだよな」
「そう?」
ジャックの言う通り、このスキルは反則レベルのスキルだ。
デューイは基本、優しい性格をしているので無茶な使い方をしない。
しかし、このスキル、やろうと思えば何でも吸い上げる、吸い込むことが可能。
なんと、命を吸い上げる事とて可能であるのだ。
仮にこの命令が実行された場合、対象はミイラのように干からびる末路が約束されるであろう。
文句なしの最凶Extraスキルの一つである。
「ま、いいや。そのままで頼む」
「任されましたっ」
下手をすれば、それが人類に向けられる可能性すらある。
しかし、傍にジャックがいる限りは限りなく低い確率であろう。
それは彼がデューイを護るからだ。
また、彼女は彼の行為に甘える。
だから、ジャックがいる限り最悪はあり得無いのだ。
「確か、猿の脳みそは美味いんだったか?」
ジャックはハンドガンの狙いを左胸に定める。
脳ではなく心臓を撃ち抜いて仕留める方針だ。
パン、パン、と数度の発砲音。
一撃では仕留めきれないが数発、心臓部分に撃ち込むと殺すことが出来るようだ。
それだけ、筋肉繊維が頑強である証である。
それは、肉は硬くて食えない事を意味していた。
「肉は食えなさそうだな」
「まじかよー。失望しました」
トウキに勝手に失望された驚異の猿はしかし、デューイの反則スキルによってただの狂暴な猿へと格下げされてしまっている。
こうなるとエンプティングとなんら大差ない存在といえるだろう。
「その代わり、脳みそはいけるかもな」
「うほっ、それは良い情報」
にたぁ、と微笑みながら、すらり、と愛刀三毛猫を抜くボンレスハム。
その不気味さは最早、猿たちにとって食料兼愛玩動物ではなくなっている。
「よこせ……おまえらの脳みそ」
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
どちらが悪役なのか分からない蹂躙劇が始まった。
もちろん全部、首ちょんぱ。
画面全体がモザイクで埋め尽くされる。
何だこれはたまげるなぁ。
「はい、退治完了」
「援護するまでもなかったな」
「だからって猿の股間を撃つのはどうかと思うぞ」
「ふんっ、嫌らしい目で見てくるからだ」
狙撃銃を抱きかかえて身体を隠す素振りを見せるトーヤはエロく見えた。
実際にエロい。
銃と美女はエロいのだ。
「うん、グロ~イ」
「脳みそだけ取り出すか」
キラーピエロの食べれる部分は脳みそのみだろう。
ジャックはノミと金槌を取り出し、手早く猿たちの頭を解体していった。




