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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第三章 守るべきもの
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第百十九話  闇の森を抜けて 

 ジュンはチェイスを除く青組と森の入り口にいた。

「ワシらは、ジュンと遺跡を目指すだすが、後ろから各軍がついてくるだす。いつものように魔物を引き連れて走れないだすが、足は止めないで行くだすよ」

 面倒見のよいドワーフのアロイスことアロが、リーダーを任されている。


 青組の盾であるチェイスに代わって、ジャコモが盾を持つようだ。

 チェイス信者であるブレイデンことブレが、ジュンのそばに付いた。

「チェイスにジュンを頼まれた。だから守ると決めた」

 無口なブレの言葉に、アロとジャコモが小さく笑った。


「後ろの準備は整ったな。さて行こうか」

 ジャコモが森に向かって歩きだした。


 ジュンたちが魔物を倒し、瘴気が漂う場所に光り魔法を使いながら進む。

 草木に傷を付ける事は、後方を歩く兵のために、極力避けなければならない。

 ジュンたちの後方の兵は、闇魔法を使える者とその魔術師を守る兵が小さなグループを組み、等間隔で立ち止まって魔法を掛けている。そのグループを追い越して、ジュンたちに追い付くグループがまた、立ち止まって魔法を掛ける。


 振り向くと淡い光の道ができていた。

「奇麗なものだな。これが増えて森を覆うと、夜でも明るいかもな」

 ジャコモの言葉に、アロは蛇を倒して言った。

「こんな所で立ち止まってはいられないだすよ。兵がどんどん進んでくるだす」


 闇の森では交代で結界を張り、昼の休憩をとるしかない。その間の移動は遅くなるので、ジュンたちも兵に合わせて昼食をとる。

「食堂のヘルタスから弁当の差し入れだすよ」


 アロが配った弁当を見て、ジュンは笑みを浮かべる。

「懐かしい。初めて青組に連れて行ってもらった、ダンジョンで食べた弁当と同じですね」

「ヘルタスの差し入れはいつも同じだが、そう言えばスープが違うな」

 ジャコモがポタージュスープを一口飲んで言った。


「ああ、ジュンの好物らしいだす」

 アロの説明を聞いて、ジュンは首をかしげた。

「僕の好物なんですね? 初めて知りましたよ」

「なんだ、違うのか」

 ジャコモは不思議そうに聞いた。


「初めて食堂で働いた日に、芋の皮むきをさせてもらったんです。その時、くず芋と余ったネギで、休憩時間に隠れて作ったのがこれなんですよ。ヘルタスさんに見つかって、二人でこっそり飲んだだけなんですけど」

 アロは声を立てて笑ってから言った。

「ヘルタスにとっては、きっと良い思い出なんだすよ。好物のままにしておいて欲しいだす」


「僕にとっても良い思い出です。僕は特務隊じゃなく、食堂の勤務を希望していたんですよ」

 ブレがジュンを見て言った。

「お前はいい奴だ。でもアホウだな」


「ほめられているんでしょうか?」

 ブレは口元に笑みを浮かべた。

「ほめている」

「ありがとうございます」

 ジュンは笑顔でそう告げた。


 その日の夜、兵士たちは交代で道の状態を維持するために森に残った。

 ジュンたちはそれ以上進む事はできないので、報告を兼ねて本部に転移した。

 アロの報告を受けて、アンドリューとチェイスはしばらく押し黙った。

 闇の魔法を使える者は少ない。おまけに彼らは下水場を管理しなければならず、これ以上の増員は望めないのである。


「下水道は闇の魔石を利用しているんですよね? それなら、その魔導具を設置できないでしょうか? 魔物を狙う訳でもありませんし、魔導師と彼らを守る兵士の数がもったいないです。それができれば、進む速度を上げる事ができます」


 ジュンの提案にチェイスは考えながら告げる。

「魔石の予備はあるだろうが、魔導具を作るとなると時間がなぁ。なにしろ下水場でしか使わない特殊な物なんだ。作りは簡単な物なんだが……」


 アンドリューが重い空気を払うように言った。

「考えていても仕方がない。とりあえず世界中から在庫を集めよう。魔術師たちの負担を考えると、二の足を踏んでもいられない」


 ジュンはジェンナに通信を送った。

 それを受けてギルドが動いた。ギルドは二十四時間体制で動いている。

 明朝には商業ギルドの陣に、在庫分の魔導具と魔石が届いたのである。

 ジュンはそれを持って、コール・スミスを訪ねた。


「コール、朝早くにごめん。ちょっと見てくれる? これって作れない?」

「鍛冶屋に魔導具を作れっていうのかい?」

 そう言いながら、コールは魔導具を受け取った。

「無理かなぁ?」

 心配そうにのぞき込むジュンに、コールは笑顔を向ける。


「最近の魔導具は精巧だから無理だけど、こんな古い形ならできるよ。魔導具の部品を専門に作っている鍛冶屋もいるからね。皆、作り方は知っていると思うよ」

「忙しいのに、畑違いの仕事を持ち込んでごめんね」

 申し訳なさそうに言うジュンに、コールは告げる。


「武器や防具の修理はそんなにないから、大丈夫だよ。戦えないボクが、ジュンの役に立ちたくてきたんだから、気にするなよな」

「助かるよ」

 ジュンの言葉に、コールは満面の笑みを浮かべた。

「任せとけって」


 鍛冶師たちの家をでたジュンは、急いで青組に合流した。

 ジュンとアロたちは、昨夜の場所まで転移して、後方の部隊と打ち合わせをしてから遺跡を目指した。

 魔導具を設置する後方部隊は、余裕もでてきたようで、ジュンたちとともに魔物を倒しながら進んだ。


「見えてきただすね」

 アロが目印とされている、一本の白い柱を指差した。

「ああ。早く中を見たいな」

 ジャコモが顔を上げる。


「慎重に行くだすよ。できたてのダンジョンじゃないだす」

「分かってるさ。腐った神の住み家ってところか」

 アロの言葉にジャコモは好戦的な笑みを浮かべた。

「腐っていたら嫌だ……」

 ジュンは本当に嫌そうな顔をして、小さく息を吐いた。


 怪しげな植物も生えていない遺跡と言われるその場所は、塀でもあったのだろうか、積み上がった石が点在しており、床だったと思われる平らな石が風雨にさらされ、ザラザラになった表面を見せていた。


「ここは……」

 ジュンが次に口にする言葉をアロが言った。

「ダンジョンじゃないだすね。明らかに誰かに作られた物だす」

 アロはしゃがみ込んで、石に触れている。


「まあ、それは確かだな。目の前に階段があるからな」

 ジャコモの言葉にジュンが振り返った。

「え?」

「ブレが魔法で石をどけちまったんだよ」

 あきれたように言うジャコモに、ブレが不服そうに言った。

「だって行くんだろ? 狭かったからな」


 中の様子が分からないので、後方部隊をいきなり引き連れて、入る訳にもいかず、アロは部隊から三人を連れてきた。

 不測の事態が起きた時、守れる人数なのだろう。


「ジュン様、お久しぶりです」

「カルロさん?! エイデンさんも。なぜ?」

「われわれ二番隊が偶然一番近くにおりました。リック様が来ると大騒ぎでしたが、アロイス殿が止めてくださったのです」

 エイデンが困った顔で小さく息を吐く。


「なるほどね。隊を守るのはあなたしかいないだすよ、とか言ったの?」

 ジュンはアロの真似をして言った。

「まるで、見ていたみたいですね」

 ゼクセン国の騎士団長が、面白そうに笑った。


 七カ国は兵の人数により四つの隊に分かれている。

 一番隊は人数の多いマドニア軍。二番隊はコンバル軍とゼクセン軍。三番隊はカブラタ軍とアルトロア軍。四番隊はヘルネー軍とテンダル軍となる。


「それじゃあ、行くぜ!」

 ジャコモが勇ましく、先頭に立って階段を下り始めた。

「おお! くらいは言ってあげなくちゃね……」

 緊張している皆が、それを聞いて表情を緩める。


「なんだこりゃ?」

 階段を下りたところで、ジャコモが立ち尽くす。

 皆もその光景に目を奪われているようである。


 天井の中央から広がる、透明感のある青い石。床の所々にある四角い石を避けて、膝丈ほどの薄い青紫の草が一面に生えていた。


「日の光が要らない草かよ」

 あきれるジャコモにアロが言った。

「洞窟などで育つ薬草だす。それより、この虫の数。焼くしかないだすね」

「待ってください。駄目です。あの天井の石は熱で溶けます」

 慌てて止めたのはジュンだった。


「落ちてくるのか?」

 天井を見上げているブレに、下を見ているジュンが答えた。

「いいえ。そこにあるような水たまりのようになりますよ」

 ジュンは倉庫から、外で狩った蛇を投げ入れた。

 音をたてて、一瞬で溶けた蛇。残ったのは目にしみるような悪臭だけだった。

「最悪な物を降らすのな」

 ブレはため息をついた。


「ジュン、出口は分かるだすか?」

 アロの質問に皆は驚いた顔をしたが、ジュンは答えた。

「うん。対角線上を真っすぐ行くと出口だけど、中央に大きな水たまりがある。それより、蛇がたくさん草に隠れているよ」

 ジュンの答えを聞いて、アロはうなずいた。

「壁沿いに行くしかないだすね。青い石も少ないだす」


「ちょっと、実験してみていいですか?」

 天井を見ながら聞くジュンにブレが笑みを浮かべる。

「ジュンの実験は歓迎する。前に命を救ってもらった」

 アロはブレの言葉で、思い出したように笑顔を向けた。

「ああ。そうだすね」


「ブレとカルロさん。少し進みますので、虫と蛇をお願いします」

 ジュンは少し歩くと、壁を背にして中央を向いた。

 幾度か魔法を放ったようだが、変化が見られない。

 誰もが、ジュンと天井を見ていたが、次の瞬間、驚きの声を上げた。壁側にあった青い石が、天井から剝がれ、部屋の中央に飛んでいったのである。


「おお、それは風の魔法だすね?」

 アロの問いにジュンはうなずく。

「うん。風で天井の土ごと削って吹き飛ばしてみたんだよ。これならどの魔術師でもできるでしょ?」


 魔術師であるエイデンが口を開いた。

「ジュン様。誰にでもは無理ですよ。そもそも、風魔法は制御が一番難しいと言われております。イザーダ軍にきている各国の魔術師で風を使える者は少ないでしょう。火魔法の使い手が圧倒的に多いのです」


「そうなの? 部屋の端を歩くなら、それでも十分だよ。エイデンさんもやってみる? こつをつかんだら皆に教えられるでしょ?」

 ジュンの言葉にエイデンは嬉しそうにうなずいた。


 エイデンも石を飛ばせるようになると、部屋の出口までは中央からくる蛇と虫を片付けるだけだった。七人は何とか階段までたどり着いた。

 ジュンたちは階段を下りて次の部屋に向かった。







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