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戦記13「ドラゴニアのエピローグ」

 エピローグラッシュその1。

 まずはドラゴニア編。

 主人公?

 え、主人公?

 新キャラ(エピローグなのに)はでますよ?

戦記13「ドラゴニアのエピローグ」


 ゴウ竜を中心とした反逆の報は周辺各地にその日のうちに広まり、

 ドラゴニアに新しき王が生まれた報は、翌日のうちに周辺各地に広められた。


「妾、竜姫の名において、ゴウ王を新たなドラゴニアの王と認める」


 父キョウ王との戦いに勝利したゴウ竜は、王となり、ゴウ王と名乗るに至った。

 ゴウ王たちの視点からいえば見事、王の座を勝ち取ったのである。

 とはいえ、あくまで王となっただけだ。王として生きるは、これから。

 問題は多くある。


(―大きくは3つ、といったところじゃな)


 1つ、軍事力の立て直し。

 反逆による損失を計上していないゴウ竜陣営ではなかったが、そのマイナスが予想より大きすぎた。

 まずは竜。ゴウ竜がゴウ王となったためにできた分を除いても、この戦にてドラゴニアは、ドン竜、ヨウ竜、カイ竜、ユウ竜という4人もの竜を失った。ゴウ竜の副官などから何人かが竜へと昇格するだろうが、ただ埋まればいいという問題でもなく、いずれにしろその穴は大きい。

 単純な戦力としてのドン竜、

 ゴウ竜と双璧を成すだけでなく部下に慕われていたヨウ竜、

 開発という部分で大きな貢献のあったカイ竜、

 そして、これはまだ先の話だが、じわじわとその不在による煽りをうけることになるユウ竜。

 続き、兵の問題。多くの兵が死に、反逆に心を痛め退役し、ヨウ竜や剣姫を慕っていた者は逃走し、兵の質も数も平素より大きく傾いた。

 そして、飛空艇。落とされた飛空艇の数、それはすなわち飛空艇を操作するパイロットという専門職の喪失でもある。単純な建造の問題だけなら、時間はかかるがいずれどうにかなる。だがパイロットの育成ともなると簡単にはいかない。

 これら軍事力の立て直しは、他国への侵略はおろか国防にもかかってくる問題で、とりわけ急を要する。


(―とはいえ、ゴウ竜…いや、ゴウ王か。奴の戦話は他国にも届いておる。そうおいそれと仕掛けてくる者は少なかろう)


 2つ目に、政治と金。

 ドラゴニアの国民に広まっている言葉に、こんなものがある。


『ドラゴニアの兵は竜に付き、ドラゴニアの官は姫につく』。


 兵は竜を慕いその配下につき、官僚は姫と国に重きを置きその下につく。という意味だ。

 その言葉通り、竜と共にかなりの数が離れた兵とは違い、下級から上級まで、官僚の多くは避難こそしたがほとんどは国に残った。それゆえ、基本的な国家運営に問題は生じなかろうというのが、政治に明るい大半の考えだ。

 が、ゴウ王にとってはそれこそが問題だ。政治畑の人間が、国のかじを取るべく勢力を増さんとした。ようは、武官と文官の勢力争いの勃発だ。その争いは、単に敵を切ればいいという簡単な理屈ばかりが通る場ではない。交渉、駆け引き、大義のある陥れに、筋の立つ暗殺…

 常にといっていいほど戦場に出ていたゴウ王は、その手の戦いがからっきしだった。文官に対する求心力も同じである。加えて、ユウ竜の穴が後々に炸裂する。


「ユウ竜様だったなら…」


 ユウ竜ならすぐに処理できた問題が、ゴウ竜にはできない。ユウ竜なら言わなくとも手を打ってくれたことも、いちいち伝えなくては行動してくれない。ユウ竜様なら、ユウ竜様なら…

 原因は、ゴウ竜に対して、外遊交友―政治というものに絡んでいたユウ竜は…その職業柄というか、本人がその立場を望んだこともあり、歴代の竜の中でも珍しいほどに政治の世界に影響力を持っていたことだ。武官の中では卑下されることの多かったユウ竜という存在は、文官の中では逆。その言動などは度々問題になることもあったが、頼もしい味方とみる者もいれば、御し難い政敵とするものや、先の楽しみな後輩と思う者もいた。

 もちろん、ユウ竜本人が全てを手配したわけではない。ボウや、協力的な文官の協力などがあってのことだ。情報収集や意思決定と行動までのプロセスの構築があればこそだ。が、その重要性を悟り、必要な環境を作ったのはユウ竜なのだ。

 そしてその『ユウ竜様なら』は、ひっそりと国民にまで広がっている。それはそうだろう。戦場にばかり赴く竜よりも、町に降りて町の発展に関わり、町並みや市場に並ぶ他国の雑貨や食品として目に見える形で貢献を表していたのはユウ竜の方だ。

 物語としては、戦場で華々しい活躍のあるゴウ竜に軍配があがる。それは、豊な時には人の気持ちを惹きつける。が、ほどなく国民の生活は苦しくなる時期がくるであろう。飛空艇損失によるインフラ面へのダメージ、文官と渡り合う人物の不在による政治的暴走や圧力、外交摩擦により生まれる輸入品の減少。

 竜姫も優秀な文官もいる。政治的な問題に気が付いていた細身の剣を扱う副官などもいる以上、亡国とまではならないが、ゴウ王は『ユウ竜だったなら』という言葉を口にする、国民や文官と向き合わなければならなくなる。


(―ユウ竜の奴が作っていった仕組みをどこまで壊さず使いこなせるか、または新しく構築できるかが焦点じゃな)


 そして3つ目、お家問題。

 妻となる姫の選出と、世継ぎの問題。

 竜姫はドラゴニアの倣いに従い姫となったが、あと二人分の妃の席が空白だ。竜が軍事的な他国への顔だとしたら、姫は国内外に対する顔だ。竜以上に誰でもというわけにはいかない。政治力か、軍事力か、それとも物語性か…よりふさわしいモノを選ぶには、それなりの労力と時間がいる。

 また、キョウ王と違い色事に積極的ではないゴウ竜は、妾や情婦の類もおらず、世継ぎの部分に的を絞っても事態は深刻だ。別段ドラゴニアは世襲制ではないが、いざというときに王族がいるかいないかでは取れる行動がかわってくる。

 そして、これはほとんどの者がしらないことだが、竜姫はこの世継ぎ問題の責任者にのみ伝えた。それは『ゴウ王の血筋は、先天的に子供ができにくい体をしている』ということ。

 実際、キョウ王があれだけの姫や妾を有していても、王子として生まれたのはゴウ竜だけだ。そしてゴウ竜を生んだ姫は、息子を生んで暫くした後死亡。その後、剣姫が新たな妃となったが、それ以上子どもは増えなかった。


(―まぁ、いざとなったら秘術でもなんでも使ってやらんでもないが、理を曲げるのはなかなかな。ともかく…)


 主人公が、王と成って終わる物語は多くある。

 だが、王と成って終わるのは物語だけである。

 現実はここから…ゴウ王戦記は、今はじまったばかりなのである。




 そんなゴウ王に協力し、ドラゴニアの竜として残ったホウ竜には、褒美…というと語弊があるが、1つの希望が叶えられた。むしろ、この為だけに謀反に参加したのだ。

 ドラゴニア城の一角…湿気のこもる地下のとあるところに、ある女性のための部屋があった。

 数人の専属従者の他は、キョウ王ですらめったに立ち入らなかった場所に、ホウ竜が足を踏み入れる。


「お待たせしました、骨姫様」


 地下だというのに水が流れ、芝生があり、魔法生物とはいえ虫や鳥が住まう広いホールのような空間…そこにいたのが、かつてキョウ王の妃であった骨姫。

 質素な木製のイスからホウ竜にむけた骨姫の顔は、血が通ってないかのほどに白く、実際に触れてみれば驚くほどに冷たい。皮と骨に最低限の肉を付けたような体は、強く抱きしめれば折れてしまうかのようだ。が、それらは他のもっと印象深いものに比べればどうということはない。

 足元まで伸びた青い髪から時折生まれる、小さな青い光の塊…まるで人魂のように生まれてはやがて消えるそれは、魔力の塊で、力なきものが触れれば、それだけで肌が焼けただれる。そしてそれよりも目を引くのが、骨姫の骨姫たるゆえん…皮も肉もそぎ落ちた、骨だけの左手。

 ヨウ竜と同じく、妖怪族の姫、なかでも例や死体などが属する死霊族の姫…それが骨姫である。


「事を…成したのですね?」

「お待たせして申し訳ございません」

「いいえ、いいえ…私などのために、心を痛めさせてしまいましたね」

「それは違います。これは、全て私のために行ったことです」


 魔力の塊など意にも介さず、

 骨の左手など意にも介さず、

 ホウ竜は駆け寄り、骨姫の両手を握った。


「私の心は変わりません、骨姫様…私だけの姫となってくださいますか?」

「私は、生まれてこのかた選ぶことなどできない身…大切と思われるなら、お尋ねなどしないでください」

「ならばあえて不躾に申します…私だけの姫になって下さい。骨姫」

「喜んで…アナタ様のものとなります、ホウ竜様」


 そして二人は口づけをかわし、夫婦の契りを結んだ。

 親友を殺すことになってでも欲しかった姫を手に入れ、元夫を殺してでも抱きしめてくれる男を旦那とした、それは観る人が見れば切なく苦しい、そして罪に満ちた夫婦の誕生だった。




 それぞれが王という立場や、骨姫という目当てのものを手に入れてる頃、反逆に加担した最後の竜ドク竜もまた、目当てのものを手に入れる為、さっそく城から離れていた。やってきたのは、ドラゴニアと隣接する地域にある田舎村。分類上は、隣国の所属となっている小さな村。


「うふふ、こんにちわ」


 と、ドク竜が挨拶すると、村の男たちは顔を上気させ、


「じゃ、もらうわね?」


 そして顔を青ざめる暇なく昏倒した。起きたころには拘束され、またあるいはすでに薬付けになっているだろう。そして同じく、なんらかの薬漬けになった女たちをあてがわれることになり…村一つが、牧場であり実験場であり、そこに本来の意味での人間はいなくなっているであろう。ドク竜達を除いて。


「もしかしたら、戦争になっちゃうかもだけど…まぁ、ゴウ王ちゃんになんとかしてもらいましょ」


 国の基盤がまだ固まらない中での、他国にとっては侵略以外の何物でもない行為に、やはりドク竜は悪気を覚えることなく、楽しそうに実験の準備を進めるのだった。




(―荒れるな、ドラゴニアも)


 新しい時代には荒れが付き物だ。取捨選択無くして新たなものは作れない。


(―お前の時もそうであったな、キョウよ)


 死に際のキョウ王の最後の願い。歴代のドラゴニア王が眠る墓ではなく、大地と空に―その願いを叶えるべく、竜姫はドラゴニアの上の上…はるか上空へとその身を浮かべていた。


(―必ずしもいい王ではなかったかもしれぬが…妾にとっては、面白い男であったよ)


 そう心の中で別れを告げ、竜姫はキョウ王だったものを…灰となったその体を空へと巻いた。灰は風に運ばれ、上へ下へ横へと乱舞しながら、やがて視認できないほどに別れ、どこかへと消えたいった。それはキョウ王という人間を知るものが見れば、その男の波乱の人生を描いているように見えたかもしれない。


(―剣よ、みておるか?)


 キョウ王を知る、同じ姫である剣姫に心で呼びかける。

 竜姫に心で語りかける力などはないのだが…呼びかけずにはいられなかった。

 自分などよりも遥かに塵となった夫を思い、苦悩していた者を労われずにはいられなかった。


(―なぁ、剣よ。お主、どこに消えた? 侍女共と無事逃げおおせたのか?)


 その呼びかけは届かない。

 竜姫の千里眼でも見つけられない。

 見えるのはただ、何百年と変わらない、ドラゴニアの高く青い空だけだった。



 お読みいただけありがとうございます。

 ゲームのエンディングとかにある、各キャラクターのエピローグあるじゃないですか、あれ好きなんですよね。

 というわけで、次回もエピローグラッシュの2。今度は主人公ちゃんと出ます。

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