戦記14「とある森でのエピローグ」
エピローグラッシュその2。
ドラゴニアから脱出した主人公たちの選択をお楽しみください。
戦記14「とある森でのエピローグ」
ゴウ王誕生やキョウ王の願い、剣姫行方不明など、ドラゴニアでの様々な報がボウやユウ竜たちに届くのは、まだもう少し先の事である。
ドラゴニアを脱出したユウ竜達の乗る飛空艇は、大陸の中央より南に下がった辺りに広がる森林地帯の一角にその身をひそめていた。逃げの一手に出たカイ竜の戦闘機に追い付ける機体はなく、ほどなく追手は振り切れたのだが、集中力の必要な運転が続いたカイ竜を休ませることや、物資や燃料の補給に時間が必要だった。
ドラゴニアとは交流の無い国に属する村に赴き、物資の手配を済ませたユウ竜とボウが飛空艇まで戻ってくると、やがてヨウ竜が目を覚まし、ことの経緯を聞き終えた。
「さよか。カイ竜にも世話になったな。おーきに」
「ま、減るもんじゃねーし、きにすんなよ」
少し照れたように笑うカイ竜に、恩人恩人といってた時の下心や敵意は感じない。瞬間瞬間炸裂的ではなっても、収まってしまえば後を引くことはほとんどない。素直といえば素直な性格なのだ。
「じゃ、今度はこっち。先輩、どうしてゴウ竜に協力してたの?」
痛いところを、と明らかに顔をしかめるヨウ竜。しかし言わないわけにはいかないとは思ってたいのだろう。声のトーンを下げながらもその理由とやらを口にした。
「賭けっちゅーか、勝負に負けたんや、ゴウ竜の奴に」
「先輩が!?」
「いうても、酒や。どっちが飲めるかってな」
「…先輩が?」
剣の勝負で負けたというのも信じがたいが、酒飲みで負けたというのは猶更信じられないユウ竜。記憶をどれだけまさぐっても、ヨウ竜が酔って倒れたところなど覚えにない。酒に弱いユウ竜はもちろん、兵や将やキョウ王とですら酒飲みで後れを取ったことはなかったはずだ。
「一服盛られたましたね」
ボウの発言に、ユウ竜とヨウ竜、互いに頷く。
「せやろな。十杯目あたりから、なんか妙に味の違う酒になったんや」
「なんで飲むんだよ、バカなのか?」
「しゃーないやろ、なんつーかこう…めっさ旨かったんや」
「先輩がめっさうまく感じて、しかも倒れるって…鬼殺し?」
「だと思います」
鬼の大酒飲み伝説が各地に残るほど、鬼族は酒に強い。
そんな鬼族を酔わすために神族によって作られた酒、それが文字もそのまま『鬼殺し』である。
「その酒聞いたことあるぞ。コップ一杯で戦闘機ぐらいしなかったか?」
「ほんまか!? うち、樽で飲んだで?」
「さすがに研究が進んで、今はそこまででないでしょうが…それでも安いものではないですね。ドラゴニアでは手に入れるのも難しいと思います」
まっとうに言っても協力しないヨウ竜を仲間に…というよりは、敵対を封じるために用意したのだろう。酒飲みで負けるはずがないと自負があったヨウ竜はそれを受けた。そして負けた。
本来なら、強いことが分かっているゴウ竜が、ヨウ竜に酒飲みを挑むこと自体をいぶかしむのだろうが、火の付きやすいヨウ竜である。酒とは関係ない煽りに怒りを覚え、まんまと勝負に乗ってしまったわけだ。
「だからって、たかが酒で国が傾くほどの約束するか、ふつー?」
「しゃーないやろ。賭けは賭けや。負けといて約束破るなんぞ、負ける以上の恥さらしや」
カイ竜の発言に、むぅっと膨れるヨウ竜。
ユウ竜はヨウ竜を宥めるために、角を避けるように頭を撫でておいた。
「あ、アホか! 子ども扱いすな!」
「おま、その、バカめ!」
といいながらも手を払いのけないヨウ竜にかわり、カイ竜が思い切りユウ竜の手を払おうとしてつっこんだ…ところ、ヨウ竜のパンチがカイ竜の腹部にめり込んだ。
「お、まっ」
「す、すまん。急に来たもんやから、クセで!」
口の端から涎を垂らし、額からは汗をだらだらと流すカイ竜に、わたわたと回復薬を与えるヨウ竜。冗談のように見えなくもないが、引きこもりのゆるゆるな腹部に金属の塊を打ち込んだようなものだ。内臓の状態、推して知るべし。
「も、だ、め。ユ、リュ、最後にいっておきたいことが」
「しっかりせい! 恩人殺しとか、しゃれにならんわ!」
「あ、もう、喋るのも、めんどう…」
「あかん! おまえは、やればできる奴や! 自分を信じぃ!」
ヨウ竜の回復薬連投は、カイ竜の呼吸が落ち着くまで行われた。
ユウ竜とボウはそんな二人を見ながら、それぞれに考えをまとめていた。
非道というなかれ、少なくともヨウ竜の拳を腹に受けたことのあるユウ竜は、回復薬さえあれば死なないことは体験済みである。
(―考えるべきことは多いけど…いずれにしろ、行動再開すべきか)
「生きてる…あたし、生きてる!」
「よーやった! うちは信じてた! 信じてたで!」
「お前のおかげだ。お前が必死に呼んでくれたから!」
「カイ竜…」
「ヨウ竜…」
二人はしっかりと握手し、そのせいでカイ竜の手が潰れそうになったので再び回復薬の出番となった。
ボウは痛む頭痛を和らげるため、こっそりとため息をつき、ユウ竜は二人の寸劇が落ち着くのを見計らってから切り出した。
「先輩は、この後どうします?」
「ユウは、王を目指すんやろ?」
「そうなりますかね?」
「なら、もちろんうちも付いて行く!」
そういってくれるだろう、と内心思っていたユウ竜が口を開くよりも前に、ヨウ竜はいった。
「と、言いたいとこやったんやけどな。ダメや」
ざわりと、森に潜んでいた小動物が思わず逃げ出すほどに、ヨウ竜から殺気がもれる。
ただしその殺気は外ではなく、内に…自分へと向けられた殺気だ。
「うちは、うちのことが許さへん。賭けに負けたんも、部下ぎょーさん殺したんも、クソババァにやられたんも、全部うちがへぼかったせいや…せやろ?」
違う、というのは簡単だ。
優しく接して弱みに付け込むのも簡単だ。
歯ぎしりする牙が傷つかないように頭を撫で、獣を手なずけるように飼いならすのも、今ならできるだろう。
だから、ユウ竜はいった。
「弱かったせいですね。先輩も、俺も」
責任を無かったことにせず、だからといって押しつけもしない。
竜であることを、鬼族であることを、ヨウ竜の気持ちを本当に分かろうとした上で、かつ相手の気持ちを慮ろうとして…そんな選択をしたユウ竜に、ヨウ竜は少しだけ笑って見せた。
「アホか…ほれてまうやろ」
「先輩に惚れられて悪い気はしないからいいんですけどね?」
「むしろ、とっくに惚れてんじゃねーかよ」
「くぅぁっっっっ!!」
ヨウ竜のボディブローがカイ竜を襲い、ボウがその回復に付き添った。傷は先ほどより深刻だ。
「い、いまのは、ちゃう、あれや、そこのボンクラのたわごとで、うちはユウのことなんてなんとも」
「俺は好きですよ?」
さらりと…しかし冗談には聞こえないトーンでいうユウ竜。
あんぐりと牙を覗かせながら、ヨウ竜が言葉の意味を飲み込んでいく。
「…ホンマか?」
「さすがに先輩相手に冗談で告白できません」
出会って間もない頃、まだヨウ竜を知らなかった頃にそれをやったがために、ユウ竜は腹部にダメージを負う危険性を身を以て知ったのである。
「じゃぁ、なんで手ーだしてこんかったんや?」
ユウ竜の女好きはそこそこ有名である。城で働くメイドやら、なじみの店の看板娘やら、こっそり王の侍女や、他の隊にいた女兵士や、娼婦の類と、プロから素人まで幅広く手をだしているし、外遊先で袖の下の代わりにあてがわれることだってある。
のわりに、ヨウ竜にその手のことはしていない。最初の冗談めかしたものだけだ。だから、ヨウ竜はユウ竜に女にみられていないと思っていた。が実際は、
「鬼族の女性にとって、そういうことするのは、自分より強いと認めた相手だけと聞いたので」
鬼族としての誇りを大事にするヨウ竜を尊重してのことだった。
兵として、将として、竜として、戦う者として、兵を率いる者として、先輩と呼ぶべきモノを持つ者として尊重した結果の事だった。
「…いつからや?」
「結構前からですよ」
「マジか? こんな凹凸のないうちに、なんていうか…欲情するんか?」
「するかしないかでいわれれば、めっさします!」
「へ、変態か!」
「わりと!」
食い気味の即答である。
「うそやないんやな!」
「なんなら今確かめますか!」
「アホか、やめい!」
「承知!」
「そういうのは、あれや、その、初めてやし、もっと、ちゃんとしたとこがええ」
「はい。先輩がいいと思った時に」
ボウの視線が冷たいことなど、ユウ竜とヨウ竜には些細なことだった。
カイ竜の体温がやや冷たいことも、もしかしたら、些細に感じたかもしれない。
「…その言葉忘れんなや?」
顔を赤くしながらも、ヨウ竜は声を整え仕切りなおした。
「教えといたる。鬼族の女がそういうことするんは、別に自分よりも強い相手だけやないわ。認めればええねん。そいつが必要とか、こいつには敵わんとか、そういうのでええねん。んで、あれや、うちは…ユウなら大丈夫や。ぼこるだけが全てやあらへんて思えたんは、お前のおかげや。せやから…うちの男として胸張って待っとけ」
どん、とユウ竜の胸元に拳をぶつける。身長差から自然と下がりがちになる姿勢が伸び、ユウ竜は黙って続きの言葉を受けた。
「待たせる分、お前の女でも、竜でも、嫁でもなんでもえーわ。お前が望むもんになんでもなったる。でも、ちょいと待っててくれ。もーちょい、いい女になってから戻ってくるわ」
「先輩は今でもいい女ですよ?」
「わーっとるわ。せやからいうたやろ、もうちょいいい女になるって」
「それは…楽しみですね」
「せやろ? せやから…そんな寂しそうな顔すんな、行きたなくなる」
苦笑いしながら離れたヨウ竜はユウ竜に固めた拳を向け、ユウ竜もまた固めた拳を拳にぶつけた。
「武運を、先輩」
「武運を、ユウ」
ユウ竜が右手から、ヨウ竜の大剣を取り出し、渡す。
ボウが、自分のカバンから回復薬やある程度まとまった硬貨をヨウ竜に渡す。
カイ竜は追い払うように、手を振った。
「カイ竜も、おーきにな」
「はいはい、いいから、いけいけ、このバカ力め」
「褒め言葉とおもておくわ。今度、一緒に酒でも飲もな」
「ふん…気が向いたらな」
「あぁ、向いたらな。それと、あれや、ユウ。うちな、もう竜やないから、その、さっきのな…」
「武運を、ヨウ」
「…おう」
最後に牙を見せてと笑うとヨウ竜は…いや、もはや竜ではないヨウは駆け出し、すぐに見えなくなった。
彼女がどのような物語の果てにユウ竜と再会するか、それはまだこの場にいる誰にもわからない。再開できないことだってあるのだ。それでも、ユウ竜は見送った。
共に居続けることだけが、物語の全てではないのだと思って。
お読みいただきありがとうございました。
最近は、増えるブックマークとアクセス数を見るのが楽しみの1つになってきました。おかげさまで、ドラゴニア編自体は次でラストですが、その後も続けようと思える今日この頃です。
それではまた次回お会いしましょう。




