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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第3章 メガロポリス分裂編

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戦記103「英雄を求む」

 ここ数話でたびたびでてくる「英雄」の文字。

 これを見て思い出す、半熟英雄。

 上流拳とか好きだったなぁ…


 そんな話についてこれるアナタもこれないアナタも等しく物語りは始まります、103話。


戦記103「英雄を求む」


「英雄…ですか?」


 コウの質問に頷いて返す。


「言葉の意味どおり英雄。それが、滞在が長引くことになった二つ目の理由」

「母上に任された仕事は分かりますが、その英雄…というのは…」

「じゃぁ、それは私から説明しましょうか」


 夫人が、ぽん、と手を叩きところどころ身振り手振りを交えて解説を始め―


「もぅ、これからって時に…」


 ―ようとしたところで、ノックの音が飛び込んだ。

 すでに客人は帰り、館には関係者か家人しかおらず、そのためノックの相手も限られてくる。

 そしてその相手とは…


「どうぞー」


 歌姫の呼び声に応えるようにドアが開いた。

 やってきたのは、グラン家のメイドであるトリノさん。


「お話中失礼いたします。奥様、お申し付けになられたもの、一通り片付きましたのでご報告にあがりました」

「そう、ありがとう。それじゃぁ、明日はまたいつもの通りにお願い」

「畏まりました。それで、明日以降のお食事に関することなどで、ユウ様とグラッセ様にご相談に乗っていただきたいのですが、このお話、中座していただくことは適いませんでしょうか?」


 おや、と何人かが俺と顔を見合わせる。

 主人とその主賓が話をしていることを知った上で中座させる…それも主賓の方を借りていきたいとは珍しいことだ。


「明日からのお持て成し、不足なく勤めたく思いますが、何分神楽月方面のことに明るくなく、御二人からご助言いただければと考えております」


 誰かに聞かれるよりも先にトリノさんがそう説明する。


「なら、私が参りましょう」

「ありがとうございます。しかしコウ様と、それとヤツネ様もグランギニオールは初めてとお聞きしております。存分にこの街を楽しんで頂くためには、打ち合わせなどせずにいるのが一番かと思われます」


 理由はわからなくはない。おそらくは客人としての扱いも、慣れ親しんだ俺より姫の方を高くするよう通達が回っている可能性もある。が、今回はそういう理由というよりは…


「それに明日からも客人が来るかもしれないし、作法的な意味でもどっちも知ってる俺とグラッセが一番いいってことね?」

「…左様でございます」


 俺が出した助け舟を『ありがたい』というよりは『この男は…』的なニュアンスを含んだ声を出したことで、トリノさんの思惑が見えてきた。

 そして俺が気づいたということは、まぁ、夫人も気が付いているだろう…っていうか気づいてるな、あの頬の膨らみようは。


「…ちなみにそれ、今晩から早速の方が?」

「正直なところ、私個人としましては急がなくてもよいかと思わないでもありませんが、打ち合わせを欠いた結果、身内の者が何か無作法を働いてしまうという可能性は排除しきれないかと」


 あぁ、やっぱりそういうことね。

 つまり、グラッセさんは乗り気でないけど、やらないと『誰かが癇癪起こすから困る。呆れてる』と。


「承知致しました。英雄についてのこと、夫人にお願いしても?」


 夫人はため息をつきながら、トリノさんと暫し目線を交わしたあと、頷いた。


「えぇ…そうね、私から説明しておきます。粗相が起きないよう、過不足無くお願いします」

「心得ました」

「いいですね、過不足無く、過不足無く、お願いしますよ?」

「心得ました」

「…はぁ」


 ため息を了承と受け取り、グラッセと共に扉へと足を向ける。


「それじゃぁ、また明日」

「今日はもう帰ってこないの?」

「たぶん。打ち合わせ長引くかもしれないし…ね、トリノさん?」

「左様でございます」

「というわけで、また明日。食事の時間にはちゃんと顔出すから。スフレ」

「畏まりました。明日、食事の前にお部屋に参ります」

「で、コウ」

「はっ!」

「模擬戦、今晩は無理だと思うからまた後日で」

「…はっ」

「そんな露骨にがっかりしなくても…」

「あ、いえ、がっかりだなんてとんでもない!」

「…やっぱりコウさん、うちのこに」

「あげません」

「ちぇー」

「旦那様、行くならテキパキとなさいませ」

「はいはい」


 グラッセに促され廊下へと足を踏み出して、


「あ、っと忘れてた」


 顔だけ部屋に放り込む。


「ヤツネ、手紙は書き終えてる?」

「姉様への?」

「そ」

「書き終わってるけど、なに?」

「明日、それ出しに行くついでにデートするからよろしく」

「…はぁ?」

「勿論俺とヤツネがね。じゃ」


 言うだけ言い、扉を閉める。

 その直後、分厚い扉の向こうから、予想通り姫の怒鳴り声が聞こえてきた。上手くは聞こえないが、まぁ大方「なんでアンタとデートなんだ!」とか「死ね!」とかいってるのだろう。


「まったく…子供のようなマネをなさって」

「いや、だって、おもしろいんだもん」

「自分が面白がるよりも前に、相手を喜ばせる相手におなり下さい」

「承知」

「お話がお済みでしたら、こちらへ」


 俺の行動など意に介さず、粛々と業務をこなそうとするトリノさん。

 しかしその足取りは些か大きく重いようにも見えて…


「…トリノさん、もしかして怒ってます?」

「いえ、ご心配なく。呆れているだけでございます」


 それはご心配しなくていいものだろうか?


「ただ、一つ苦言を言わせていただくとすれば」

「やっぱ怒ってない?」

「ただ、 一つ苦言を言わせていただくとすれば」


 一言一句、抑揚まで一切変わらずに繰り返すトリノさん。


「お嬢様の前では、冗談でもそのような発言はしないで下さいませ」


 それは、先ほどと同様抑揚の抑えられた事務的な声だったが…


「トリノさん、うちの子にならない?」

「ご冗談を…グラッセさんのいるところに務めるなど、胃がいくつあっても足りません」

「あなたも、なかなかに冗談が上手くなったようですねトリノ」


(―いや、それは冗談に見せかけた本音じゃないかな?)


「教育的指導」


 振り下ろされた手の平をすんででかわす。


「心の中を読むな」

「ご心配なく。読んだのは表情です」

「俺、そんなにわかりやすい顔してる?」

「はい。よくぞまぁそんなに鍛えていらっしゃると思うほどに豊かな表情筋でございます」


 などとやり取りをかわしている間に、目的の部屋の前まで到着する。


「では、私たちはここで」


 そしてトリノさんは俺に小さな鍵を渡して遠ざかる。


「旦那様」

「わかってる。スフレが迎えに来る前には戻るようにする」

「いえ、そうではなく、少々失礼」


 ポケットから小瓶を…香水の入ったアトマイザーを取り出し、俺の首筋や手首などに少量吹きかけるグラッセ。


「時間の無い時にも、自分のために一手間かけてくれる…そういう男を好く女は多ございます」

「…心得た」

「まぁ、そんな暇があるなら一秒でも早く会いに来いと思う女も多ございますが」

「ねぇ、俺にどうしろと?」

「相手がどういう女か見極めればよろしいかと」


 ごもっとも過ぎて反論できない。


「ちなみに、一応の確認ではございますが…」


 俺の手を見て、


「ご用意は勿論しておりますね?」

「道中、それらしいものをそれなりに」

「よろしい」


 返答に頭を下げ、遠ざかるグラッセ。


「それでは、くれぐれも英雄をお待ちの方に粗相のないように」


 廊下の少し先で待っていたトリノさんと合流し、二人はその少し先の部屋へ…特に誰が使っているわけでもない空き部屋へと入っていった。


「…英雄ね」


 あっちの世界にいる頃、英雄という単語にはひどく憧れたし、英雄と呼ばれるために右往左往しながらお使いをこなす勇者や主人公に疑問も抱かなかったが、さて実際に自分がそうなれといわれると…


「…英雄って呼ばれるのも楽じゃないよな」


 明日から、大勢に英雄と呼ばれるための行動に移る前に、今、英雄と呼んで…思って? くれている相手への行動に思いを巡らせる。

 けして嫌な行為ではない…どころかどっちかといえば好きなわけだが、相手の思いに報いることができるかという点では少々悩ましい。

 なんせ英雄だ。

 英雄、英雄、英雄…


(―柄じゃないよなぁ)


 などと思いながらも、いつまでこうしていてもしょうがない、とキモチを切り替える。


(―さて、と)


 扉の前、一呼吸おいてノックする。

 中から返事は…無い。

 ということは…良いということだ。

 鍵を差込み、回す。

 鍵は小さな音を上げ回り、向こう側に入る許可を告げた。

 この館に出入りするようになってから何度目の許可だろうか…

 この館において、内側から鍵がかかるところは実はそう多くない。

 倉庫や台所など、外から鍵をかけるところは多いが、内側から…中にいる人が鍵をかける部屋はそう多くない。

 そんな、内側から鍵がかかる部屋…

 その部屋を空ける鍵…

 この小さな鍵がたった今開けたのは…


「…こんばんわ」


 扉を開き、声を掛けながら入室する。

 廊下に敷かれたモノもそれなりだが、それとは明らかに違う質を感じるカーペットの感触を受けながら部屋に入る。窓を木枠でしっかりと塞ぎ、ランプ一つの明りだけに頼る部屋には、部屋の主の趣味なのか、それとも主自身のそれなのか…この部屋特有の香りがし、俺が後ろでに扉を閉めるとその香りは逃げ場を失い、余計に強まったような気がした。


「ちょっと待たせた…かな?」


 俺の横を通り過ぎ…いや、脇で立ち止まり、腕を伸ばし、カチャン、と鍵を閉める部屋の主。

 部屋の主は確認するようにドアノブを掴み、ちゃんと鍵が閉まっていることを確認してようやく…


 ―ばふっ、


 と、飛び込んで…抱きついてきた。

 俺のことを


「お兄様!!」


 と呼びながら。



 お読みいただきありがとうございます。


 脳内ではもうこの章が終わって次の○○と××との戦争辺りまで話が進んでいるのですが、書くスピードがおいつかない今日この頃。

 それもこれも楽しいフリーゲームがたくさんあるのが悪いのです。

 あとTRPG。


 そんな感じですが書いてはおりますので、お付き合いいただける方はまた次回。

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