第34話 閑話 王都 配下たちの視点
雷霆復活後の王宮の話です。
飛ばしても大丈夫ですが、読んでおくと後でわかりやすいです。
王宮。
「雷霆の件について、ご報告申し上げます」
伝令が跪くと王は鷹揚に手を振って続きを促した。
「まず、鐘楼に落雷し万雷の大鐘が鳴ったことは、事実でありました。
当時、修道院には雷霆を盗もうと侵入した者が六名。二名は番犬に殺され、残りは雷霆に焼かれたと院長ギルフェレスから報告あり。炭化した死体を確認済みです。
雷霆の保管されていた騎士修道院は、聖器庫も含めほぼ壊滅。雷霆含むすべての魔剣が、行方知れずでございます」
『雷霆』はその苛烈さで恐れられる魔剣。
スミレギスの人間なら子供の時から聞かされて育つ伝承だ。
だが、長きにわたる雷霆不在が伝承の恐怖を薄れさせ、金に目がくらんで盗み出す輩がいたとしても不自然とは言いきれない。
問題は、そこではない。
雷霆と現存する五本の魔剣すべてが、
「自らの意思で消えた」――――――――!!
それは彼らが現王を主に相応しくないと認め、新たな王を既に見つけたということ。
言及すれば、間違いなく王の逆鱗に触れる!
「報告は以上でございます」
伝令は賢い。
事実のみ伝え己の意見は差し挟まない。
この件で、雷霆の話題は禁忌となった。
いわば自らの命を賭けたババ抜きの、雷霆はババそのものである。
「なんと……では、雷霆のみならず全ての魔剣が主を選び、飛び立ったとでも言う気か!?」
空気の読めない新宰相が伝令を急きたてた。
「それで、その主はどこの誰なのだ? まさか廃王子リュテではあるまいな?」
「雷霆の拒絶により廃王子リュテは瀕死の重傷。その後、雷霆がどこかに飛び立つのを確認しました。
ご命令どおり、院長ギルフェレスには治癒せず見殺しにせよと申し伝えてあります」
伝令は顔色を変えることなく一息に告げ、頭を垂れて下がる。宰相の失言に巻き込まれるわけにはいかない。
王は苛立っている。
その小心さから態度に表すことはしないが、呼吸がやや乱れ、握りしめた拳が震えている。
何が原因で言いがかりをつけ、処刑されるかわからない。
まだ幼い廃王子。
しかも実の甥にあそこまで酷い処刑をせずともと内心では思っていても、まずは我が身大事である。
「で、あろうな。雷霆は「王権」そのもの。陛下を差し置いて子供が選ばれることはまずなかろう。
で、簒奪者の目星はついておるのであろうな?」
宰相は王の顔色を窺い、言葉を慎重に選んでいるつもりである。
王の太鼓持ちに徹する気でいながら、雷霆の名を使い、現王の王権を自ら否定したことにまだ気づいていない。
先日も王に忠言した者、不興を買った者らがまとめて処断された。
自身もその空いた席に繰り上げで据えられたということは、わかっていた。
ただ、王の病的な狭量さに配慮する能力が無いだけだ。
有能な者たちは徹底した処世術で、危険な役職を避けつつある。宮廷の上層には彼のような無能者が蔓延りだしていた。
続いて書記官が、魔剣献上会当日の調査結果を述べる。
「当日、修道院の裏手の騎士教会では魔剣献上会がなされており、十二名の冒険者と七人の工房主らが訪れておりました」
「ではその者らが容疑者だ。探しだし捕らえよ!」
王は目を瞑り、ただ沈黙している。
この国は古来から覇王の国と呼ばれてきた。
「護国九剣」は建国神話に登場する九振の剣で、国王は王位継承にあたり、九本のうちどれかとの契約を結ぶのが決まりである。
国の行事に魔剣の威力を提示する慣習は、魔剣を操る器でないものが王位につくのを防ぐためだ。
つまり九剣すべての魔剣が、いわゆる『戴冠宝器』であり、新王の選別器の役割をしている。
中でも雷霆は異質の存在。
『雷霆の所有者は血統に拘わらず王と認める』と国法に明記されているため、王家にとって非常に厄介な存在。
もし、魔剣献上に集う冒険者の中にその主がいたならば、今後雷霆の威力を盾に王位継承を迫る、とんでもない下克上が起こり得る。
王は兄から王位を奪い、現在どの魔剣にも主と認められていない。
だからこそ王位継承の正統性を示すために、雷霆の偽物がなんとしても必要なのだった。
これまでにも、雷霆の所持者と疑わしい多くの冒険者が、魔剣献上という罠で命を落とした。
失策や失言で王の不興を買った役人たちも、次々と処刑されていった。
宰相の失言で、立ち合いに列席した大臣や事務官らも背に冷や汗を覚えている。
ここに至って、もう王に提言するものはひとりも無かった。
――――
町のいたるところに貼り出された王の公布は、現在の王政に不満を持つ民の格好の餌食となった。
「なになにぃ?『護国九剣』の魔剣を探しだして献上したものには報奨を与える……って、どういうこと?」
「王家が保管してた九本の魔剣が、全部逃げていなくなったんだってさ」
「それってつまり、今の王様は王座にふさわしくないから魔剣が一斉にボイコット的な?」
「しっ、王様の密偵がうろついてるんだろ? 聞かれたら……」
「密偵も王様の悪口は、怖くて報告できないって話らしいよ」
「『万雷の大鐘』が鳴った日があったろう?
あの日、幽閉されてた前の王子様があそこにいたらしいわね」
「そうなの? ああ、今のブタ王子は無能なうえに性格も残忍らしいな。前の王子が生きてるなら、そっちが王さまにならないかな」
「ブタ王子って?」
「ハイル王子は夜な夜なブタになって、城の女子寮を徘徊する癖があるんだって。俺の姉ちゃんがメイドだけど、みんな気味悪がってるって」
「なにそれ、怖い!! どんな性癖だよ」
「王子っていや、前の王子のリュテさまはお元気かね。お姫さまみたいに可愛い子だったが」
「ああ、今思うと前の王様は立派だったよ」
「今の王様は何かにつけて冒険者を処刑してばかり。うちは彼ら相手の宿屋だってのに、商売あがったりだ。もどってきてくれないかな、リュテさま」
「まったくだ。精霊狩りや魔物狩りの遠征で税金もどんどんあがる。暮らしにくいったらありゃしない!」
王の密偵たちは民に紛れて市井で暮らし、王への侮蔑や謀反の兆しがないかを見張っていたが、民の実情を訴えることはない。
伝えた時点で自分の処刑が確定するからだ。
町の誰もが王を憎み、廃された王子の復帰を心待ちにしている、などと口が裂けても言えるわけがなかった。
☆ハイル王子の意外な性癖が露見
次回、ミュゼ回




