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幽閉王子と魔剣の国~魔剣に溺愛されたぼくは誰も殺さず伝説の王になる~  作者: キマモリニコ
第1章 箱入り王子は仲間をつくる~魔剣と出会うまで~
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第1話 失われた幸福な記憶 

『護国九剣』ノヴェムグラディア~

王を定める意思を持つ魔剣たちと、彼らに愛された王子リュテの物語、開幕です。




 これは10年ほど昔。ぼくの幼い頃の話だ。 


「ちちうえっ! ぼくは、きしゃまに『けっとう』を、もうしこむっ!」 


 ぼくが泣きながら父上に決闘を申し込んだのは、3歳のときだった。


 王宮の、父上の私室。


 暖炉では薪がよく燃えていて、乾いた栗の木がパチパチ爆ぜていた。とても温かな記憶だ。


「えっ、なに、なんで!? ぼく、リュテ君に嫌われるようなことしたかなぁ!?」


 王さまのくせに気の弱い父上は、ぼくと母上の顔を交互に見比べてオドオドしていた。


「ちちうえのせいれすっ! 

 ぼくが、ははうえと『けっこん』したかったのに! ちちうえもだいしゅきらけど、もう、『けっとう』で、かつしかないんれす!」


「なにそれ、可愛い……っ!」


 いま思うと父上は親バカな人だった。


 おもちゃの短剣を突きつける親不孝なぼくをさっと抱き上げ、さんざん頬擦りしたあとで高い高いしてくれた。


「で、母上には、なんて唆《そそのか》されたの?」


 父上は黒い髪と瞳をしていて、中肉中背。

 これといった特徴もない標準的な顔の優しい人だった気がする。


 一方で母上は「精霊の森」の女王の娘で、

『世界一の美姫』『妖精姫』と謳われた美女。


 月光色の髪、長い睫毛に縁取られた琥珀の瞳。子供のぼくから見ても、ドキドキするほど綺麗な人だった。 


 母は1歳になったばかりの妹のミュゼを抱きながら、艶やかに微笑んだ。


「うふふ。三歳で私に目をつけるなんて、女を見る目があるわぁ。さすがは、エスターさまと私の息子ね。

 でも、残念。私の好みは心身ともに強い男性なの。父上を倒すか、父上より格上の魔剣を手懐けて出直して来なさいね? って言ったの」

 

「ええー、3歳児に変なこと吹き込むのやめてよぅ……。ぼくがヘタレなのは、君が一番よく知ってるくせに。愛する息子に泣きながら『貴様』呼ばわりされて、ちょっと涙出そう……」


 母上は、いつも父上を困らせることばかり言って、父上はたびたび涙目になっていた。


 だから、決闘したらぼくが勝つんじゃないかと思ったんだけど、ヘタレすぎる父上がなんだか可哀相になってきた。


「……ごめんなしゃい、ちちうえ!

 ぼく、ちちうえもだいしゅきだから、ほんとは『けっとう』したくないの。でも、ははうえと『けっこん』したい!

 ねぇ、ぼく、どうしたらいいの? 『かくうえのまけん』ってなに?」


「うふふ。モテ美女と結婚するとは、つまり、そういうことなの。聞いてる、エスターさま?」


 いま思うと、母上も父上が大好きだったんだと思う。いつも気を引きたくて、からかって遊んでたんだ。


 でも、父上は鈍感だし、いろんなことをいっぺんに出来るタイプじゃない。ぼくをひょいっと抱きあげて歩きだした。


「んー、しょうがないね。そうだ。聖器庫に魔剣を見に行ってみようか?」

「うん!」


「ちょっと! 絶世の美女を放置するのやめなさいよ!」


 ミュゼを抱いた母上も、プリプリしながらついてくる。


 ぼくはこの日、父上に連れられて、初めて聖器庫に行った。

 郊外の少し離れた建物だったから、みんなで馬車に乗ったのも楽しかった。


「いいかい、リュテ。このスミレギスは魔剣の国だ。王族は大人になったら魔剣と契約して、この国を守るんだよ」


「まけんのくに……」 


 四頭立ての馬車のなか、ぼくは父上の横に座り、父上が魔剣を抜くのを見ていた。


 蒼く透き通る氷のような、宝石のような不思議な剣だ。


 じっと見ていたら、


『君には、まだ早いな。危ないから、触るのは剣を振れるようになってからにしなさい』


と、父上そっくりの声で魔剣が言った。


「魔剣は仲良くなると、いろんな話を聞かせてくれる。父上の魔剣は『氷河』というんだ。友達になると、本当の名前を教えてくれるんだよ」


「ぼくも、まけんと、ともだちになれる?」


「たくさんいるからね。なれるといいね」


「でも、それ、『きみには、まだはやいな』っていった」


「……えっ? 魔剣の声が、聞こえたの?」


 父上は目を瞬かせて聞き返す。 


「うん」


「聞こえて当然よ! 樹木の精霊(ドライアド)の血を引いてるんだもの。人の心も生き物の声も、魔剣の言葉だって聞こえるわ。主(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)て(・)も(・)ね!」


 母上がドヤりだした。


「精霊の耳と眼の持ち主なんだから、『心』が聞こえるのは仕方ない。でも、魔剣の声は普通、主にしか聞こえないはずだ。古文書にもそう書いてある。幼いリュテに聞こえるのはまずい。やっぱり引き返そう!」


「大丈夫よ。『氷河』にはまだ早いって、拒まれたもの。ねえ、リュテ。氷河は他には何か言ってた?」


「あぶないから、けんが、ふれるようになってから、って!」


「ほらね。エスターさまは心配性すぎるのよ」


 そうこうしているうちに、馬車は目的地に到着したけど、同時に、さっきまでスヤスヤ眠っていたミュゼが起きて泣き出してしまった。


「ほわぁぁあ!!」


「おしめかな。あっ、そろそろお腹が減ったのかも。

 エスターさま、あとで追いかけるわ。リュテをお願いしていい?」 


「ああ。父上と一緒でいいかい、リュテ?」

「うん、いいよ」


 ぼくたちは、母上とミュゼを馬車に残して聖器庫に向かうことにした。


              *


 騎士修道院。


 ここは神代の遺跡の管理のために建てられ、聖猊教会の修道士たちが暮らしていた。

 王家の魔剣が納められた聖器庫は、その一室にあった。


 灰色の修道士服《ハビット》を着た男の人が鍵を開けてくれた。


 聖器庫の壁の飾り棚(ソード・マウント)には、たくさんの剣が飾られている。


 大きさや材質はさまざまで、それぞれ美しい剣だった。そして、皆がぼくに挨拶してくれた。


『やあ! ぼくは「災禍の黄金」だよ。手にとってよ、主!』

『妾は「栄光」!』

『私は「慈悲」よ』


 たくさんの魔剣たちが賑やかに話しかけてくれるなか、ぼくの目は、黒い大きな魔剣に吸い寄せられた。


「ちちうえ! あれっ!」


 ぼくが指差すと、父上は黒い魔剣の前に歩み寄った。


 黒い魔剣はどの魔剣よりも大きく、神々しくて美しかった。

 鞘や柄には大きな紫の宝石が象嵌され、金で装飾されていた。


「大物を選んだね。これは『雷霆』の魔剣だ。

 特別に立派な王さまだけが触れる魔剣だよ。

 でも、主でない人が触ると死んでしまうんだ。絶対に触っちゃだめだよ?」


「はい、ちちうえ!」

「よし、いい子だ」


 父上はぼくを床におろし、『雷霆』に触れられないようにした。

 飾り棚は父上の腰から上の壁に設えられていて、3歳児のぼくには絶対に手が届かないところにあったからだ。


 ぼくは、下から『雷霆』を見上げた。


 そして、あることに気づいたんだ。


 魔剣の鞘に嵌められた宝石の中には、見たこともない生き物がいて、ぼくと目が合うと飛び出してきた。


 漆黒の長い毛を靡かせた、翼のある大きな獅子みたいな動物だ。


 宝石みたいな紫の瞳に苛立ちを湛えて、こちらを見ている。


 紫電を帯びてザワザワと毛を逆立て、獣が近づいてきた。


 なのに、父上はまったく気にする風もなく、


「楽しみだね。リュテ君は大人になったら、どの魔剣と契約するのかなぁ?」


と、呑気に魔剣を眺めていた。

 

『……我が見えるのか、小童《こわっぱ》?』


 そ(・)れ(・)が囁くような小さな声で聞いたから、ぼくもつられて小声になる。


「こわっぱじゃない、リュテだよ。ねこしゃんは、なんてなまえなの?」 

 

『……貴様、まだ若いようだが、我の真名を得る意味がわかっておるのか?』


「うふふ。くろいから、クロちゃん!」


『クロちゃんではないっ! 我は雷霆《らいてい》、ミレグラディア・トニトルスなり!』 


「らいてい、みれぐらぐら………とにとりしゅ……?」


『違う! ミ・レ・グ・ラ・ディ・ア!』

「みれ、ぐらでぃあ」

『ト・ニ・ト・ル・ス!』

「とに、とるす」


『うむ! ……うん? ああっ!? 

 我としたことが、うっかり真名を教えてしまったぁあ!?』 


 黒い大きな獅子は表情がコロコロ変わる。

 頭を抱えたり、悶絶して転げ回ったりしていた。

 ぼくはその様子が楽しくて、我慢できずに笑ってしまった。


「あはははは!」


「くっ、笑うな、小童ぁ!」


 そいつがぼくの頬を甘咬みした瞬間、不思議な映像が脳裏を駆け巡った。


 見たこともない景色!

 見たこともない魔法!


 世界を一新する未来の知識と、過去の叡知!


 その感覚は、獣も同じように不思議だったらしく、なにかぶつぶつ言ってたように思う。


『これは、まさか……この小童、いや、あなたさまが、我のあるじなのか――!?』


「ねこしゃんの、なまえはぁ」


「なんだい、迷い猫でもいたの……あっ?」


「みれぐらでぃあ……」


 父上は振り返るとはっとした顔をして、ぼくの口を塞いだ。

 いつの間にか、大きな黒い魔剣が壁際で紫の光を放ちはじめていたからだ。


「エスターさま、どうしましょう!?」


 ちょうど戸口をくぐろうとしていた母上が、ぼくに駆け寄って抱き寄せた。さらに、父上が母上とぼくを抱く。母上の腕のなかでは、ミュゼがご機嫌そうにしていた。


「ああ、まさかこの幼さで『真の王』に選ばれるとは! 『雷霆』の魔剣よ、この子はまだ幼い! もう少し大きく、せめて剣が振れるようになるまでは待ってください!

 グラキアリス、仲介を頼む!」 


『我は―――!』


 黒い獣がなにかを言いかけたけど、グラキアリスと呼ばれた氷の剣が、それを遮る。


『幼子には君を御しきれまい。その子が死ねば、君はまた独りきりになるぞ?

 一人前の男になるまで待とうではないか。

 何百年も待ったのだから、数年など目をつぶるほどの間だろう?』


『ぐぬぅう……』


『エスター、雷霆の気がする変わらぬうちに

王子の記憶を消すがいい』


「うん、ありがとう。シアエ、リュテの記憶を消してくれるか?」


 氷河の声に父上が従う。

 

「ええ! トランキリタス!」

『任せて!』

  

 母上は小さな黄金の魔剣をぼくに翳す。

 緑色の閃光が拡がって、ぼくを包んだ。


『過程はどうあれ、契約は成りましたぞ!

 我を扱える年頃になったら呼んでくだされ!

 待っておりますぞ、あるじよ!!』

   

             *


 黒い獣はぼくを主と呼んだけど、現在のぼくはそのことをもう覚えてはいない。


 この時、母上の持つ『平穏』の魔剣に記憶を奪われたからだ。


 十二歳になったぼくは、愛おしくて温かかった全てを失い、今は監獄に幽閉されている。


          

☆お読みくださりありがとうございます。

 次回は、リュテの過去が明らかになる訓練編です。

 人を傷つけることが嫌いなリュテが、魔剣に振り回されながらも立派な王になれるのか。

 成長を見守っていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
Xの企画から来ました。 ほんわかとした世界観が良いです!
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