↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/27

第22話 紅蓮と氷華、闇を裂く

「――仕留める!」


俺は両手の短剣を交差させたまま、真正面から大剣使いへと踏み込んだ。


リンの《氷華・円環》によって足元を完全に拘束されたはずの男は、しかし、その巨体に見合わぬ強引な動きで氷を引き剥がし、自由になった片足を地面へ叩きつける。


バキィンッ!!


分厚い氷が砕け散り、男の身体を覆っていた黒い魔力が一気に膨れ上がった。


「舐めるなァッ!」


振り上げられた大剣が、俺の頭上から一直線に落ちてくる。


まともに受ければ、いくら今の俺でも無事では済まない。


だからこそ、避ける。


俺は踏み込んだ勢いを殺さず、そのまま身体を右へ滑らせた。鋸刃のような大剣が髪を掠め、背後の岩盤へ深々と食い込む。


「そこだ!」


男が大剣を引き抜くより先に、俺は懐へ潜り込んだ。


右手の短剣に朱赤の魔力を集中させる。


オルハルコン・ライトの黒い刀身を覆うように形成された極薄の刃膜が、空気を震わせながら鋭く伸びていく。


狙うのは胸部。


さっきの一撃で分かった。


こいつの防御力そのものは高い。けれど、身体の周囲を覆っている重魔力には、魔力の流れが集中している場所と薄くなる場所がある。


なら、そこを切ればいい。


「――紅蓮閃閃!」


刃が走った。


大剣使いの胸元を覆っていた黒い魔力が大きく裂け、その下の防具まで切り裂かれる。


「ぐッ……!」


浅い。


決定打には届いていない。


それでも男は一歩後退した。


その瞬間、俺の背後から鋭い風切り音が聞こえた。


「レンちゃん、避けて!」


リンの声に反応して身体を捻る。


シュッ!!


魔導矢が頬のすぐ横を通り過ぎ、背後の岩壁へ突き刺さった。


直後、矢に込められていた魔力が炸裂し、岩肌が黒く染まっていく。


「……あの魔導弩、厄介だな」


俺は矢が飛んできた方向へ視線を向ける。


クロスボウ使いは少し離れた場所で、次の魔導矢を装填しようとしていた。


けれど、動きが明らかに遅い。


さっきの戦闘で消耗しているのか、それともあの武器そのものに再装填の時間が必要なのか。


どちらにせよ、今なら隙がある。


「リン、あいつを頼めるか?」


「うん!」


リンは即座に頷いた。


俺が視線を逸らした一瞬を狙って、大剣使いが再び距離を詰めてくる。


「余所見をするなッ!」


「分かってる!」


大剣が横薙ぎに振り抜かれた。


今度は避けない。


俺は短剣を交差させ、刃へ流す魔力を一気に圧縮する。


ガギィィンッ!!


凄まじい衝撃が腕へ伝わった。


重い。


さっきまでの攻撃とは比べものにならないほどの重量が、両腕を通して身体へ食い込んでくる。


「どうした、小娘! その程度か!」


「……小娘って言うな!」


俺は歯を食いしばりながら、大剣を受け止めていた短剣をわずかに傾けた。


真正面から受け止める必要なんてない。


力を受け流してしまえばいい。


ライカさんとの訓練で何度も叩き込まれた感覚を思い出し、俺は大剣の軌道に合わせて身体を回転させた。


刃が滑る。


男の体勢が前へ流れた。


「な――」


その懐へ、俺は一気に踏み込む。


「今度は、こっちの番だ!」


右の短剣が脇腹を斬り、続けざまに左の短剣が肩口を捉えた。


黒い防具が裂け、男の身体から血が飛び散る。


「ぐあああッ!」


大剣が手から離れた。


そのまま倒れるかと思ったが、男は片膝をついた状態からこちらを睨み上げ、残った魔力を無理やり身体へ集めようとする。


まだ動けるのか。


その執念に、俺は思わず息を呑んだ。


けれど、次の瞬間。


「レンちゃん、下がって!」


リンの声が響いた。


俺が横へ飛ぶと同時に、男の足元から巨大な氷柱が突き出した。


「《氷華・円環》!」


大剣使いの身体を囲むように氷の棘が次々と形成され、逃げ道を塞いでいく。


「くそッ……!」


男が大剣を拾おうと手を伸ばす。


その腕へ、細い氷の杭が突き刺さった。


「動かないで!」


リンがレイピアを構えたまま叫ぶ。


大剣使いは氷に拘束された身体を無理やり動かそうとするが、すでにまともに力を込められる状態ではない。


俺はその正面へ歩み寄った。


「終わりだ」


「……まだ、終わっていない」


「いや」


俺は短剣を構える。


「俺たちは、お前たちみたいな連中に二度と追いつかれないために、ここまで強くなったんだ」


短剣へ朱赤の魔力が集まる。


今度はさっきのように力任せにはしない。


刃膜を極限まで薄くし、魔力の密度だけを高めていく。


大剣使いの周囲に残っている黒い魔力が、わずかに揺らいだ。


そこに狙いを定める。


「――終わりだ!」


二本の短剣が交差した。


黒い防御魔力が弾け、大剣使いの身体が後方へ吹き飛ぶ。


岩壁に激突した男は、そのまま力なく崩れ落ちた。


静寂が戻る。


「……終わった?」


リンが小さく呟いた。


「たぶん」


俺が答えた直後、奥から金属音が響いた。


カチャリ。


俺とリンが同時に振り向く。


クロスボウ使いだった。


すでに魔導弩への装填を終えている。


「まだやる気か……!」


俺は短剣を構え直した。


しかし、男は俺たちへ向けて弩を構えたあと、なぜか引き金を引かなかった。


仮面の奥からこちらを見つめたまま、数秒ほど沈黙している。


「……?」


何を考えている。


そう思った瞬間、男は突然こちらではなく、頭上へ魔導弩を向けた。


「何を――」


シュパッ!!


放たれた魔導矢が天井へ突き刺さる。


次の瞬間、岩窟全体が大きく揺れた。


「きゃっ!」


「リン!」


俺は咄嗟にリンの身体を引き寄せた。


頭上から大量の岩石が落下してくる。


魔導矢によって天井の岩盤を崩したのだ。


俺たちが落石を避けている間に、クロスボウ使いはすでに走り出していた。


「待て!」


追おうとした。


けれど、目の前へ落下した巨大な岩塊が完全に通路を塞いだ。


「……逃げられた」


リンが悔しそうに呟く。


「うん。でも、今は追わない方がいい」


俺は崩落した天井を見上げた。


無理に進めば、さらに崩れる可能性がある。


それに、さっきからどうにも引っかかっていた。


あの男は最後の一撃で俺たちを狙わなかった。


わざわざ天井を崩して逃げ道を作った。


まるで――最初から、自分がここで倒されることまで計算していたような。


「レンちゃん?」


「……なんでもない」


俺は短剣を下ろした。


三人の刺客。


一人は重傷で動けず、一人は倒れ、もう一人には逃げられた。


俺たちの勝ちだ。


少なくとも、目の前の戦いだけを見れば。


けれど、胸の奥にある朱赤の核が、さっきから妙に熱を持っている。


「……何だ?」


無意識に胸元へ手を当てる。


以前にも感じたことのある感覚だった。


けれど、今までとは少し違う。


誰かに触れられたわけでもない。


外から魔力をぶつけられたわけでもない。


それなのに、核そのものが何かを警戒しているように感じる。


「レンちゃん、大丈夫?」


リンが心配そうに顔を覗き込んできた。


「大丈夫。ちょっと変な感じがするだけだ」


「……本当に?」


「ああ」


そう答えながら、俺は周囲を見渡した。


配信端末からは何の音も聞こえない。


ドローンも戻ってこない。


隔離エリアへ入ってから、外との通信は完全に途絶えている。


ここには俺とリンしかいない。


……そのはずだった。


「帰ろう、リン」


「うん」


俺たちは来た道へ向かって歩き出した。


その背後。


崩落した岩の向こう側で、誰にも気づかれないほど小さな魔力の光が灯った。


それは紫色にも見えたし、黒色にも見えた。


やがて光はゆっくりと広がり、岩壁に刻まれていた古い術式を浮かび上がらせる。


その術式は、先ほどの戦闘で使われたものとは明らかに異なっていた。


そして、誰もいないはずの岩窟の奥から、低い声が静かに響いた。


「……予定通りだ」


その声を、レンたちはまだ知らない。


この戦いが終わったのではない。


本当の目的は、ここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。