205話 信長の進む道
東で新たな秩序が形になったという報は、ほどなく尾張へも届いた。
関東の諸将が私戦を抑え、統制のもとにまとまりつつある――その中心にいるのが
上杉謙信であり、調整役として名が挙がるのが里見と桜。
それを聞いた
織田信長は、しばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと笑う。
「……なるほどな」
「東は東で、天下を治める気らしい」
その目はむしろ鋭く光っていた。
信長にとって重要なのは一つ。
背後の脅威が消えること。
関東が統一意思を持つなら、
西へ向ける兵力を削る必要がなくなる。
それは戦略上、あまりにも大きい。
「面白い」
「ならば、こちらも遠慮はせぬ」
信長は家臣に命じた。
「全軍、集めよ」
清洲城・軍議
広間に並ぶのは、織田家の中枢。
最前列に立つのは
柴田勝家
豊臣秀吉
明智光秀
信長は迷いなく言った。
「東はまとまった」
「ならば我らは西を呑む」
ざわめきが広がる。
信長はさらに続ける。
「急ぐ必要はない」
「だが、止まる必要もない」
「道は開いた」
そして言い放つ。
「――攻めるぞ」
その一言で空気が変わった。
家臣たちの声
まず声を上げたのは
柴田勝家
「ははっ!」
「ようやくですな、殿!」
「思う存分暴れられるというもの!」
豪胆な笑い声が広間に響く。
次に、静かに口を開く
豊臣秀吉
「東が安定するのはありがたいことでございます」
「兵糧の流れも安定しますな」
「戦は兵糧がすべて」
「殿の戦は、もう止まりませぬな」
その顔は楽しそうだった。
そして最後に
明智光秀
「関東の秩序……」
「興味深い」
「戦を抑え、民を守る」
「理のある統治」
少し考え、
そして言う。
「ですが――」
「殿の覇道とは、また別の形」
光秀は信長を見る。
信長は笑った。
「だから面白い」
「世には二つの道がある」
「東は守る」
「西は進む」
信長は立ち上がる。
「天下を取るのに、どちらも要る」
そして命じる。
「まずは近畿」
「邪魔なものから消していく」
広間に響く声。
「応ッ!!」
武将たちの士気は、まさに青天井。
その頃、安房。
桜の元にも報が届く。
信長が動いた。
桜は静かに呟く。
(やっぱり……)
(あの人は止まらない)
だが恐れはない。
むしろ安堵していた。
東は守る。
西は進む。
二つの流れが、同時に動き出した。
桜の脳内戦略会議は静かに結論を出す。
(これでいい)
(戦国は終わりに向かう)
まだ遠い未来。
だが確実に、歴史の歯車は回り始めていた。




