はじめての町 その17 幼女事件
サラは、それらの噂を聞いて声を上げて笑っていたが、ルルテは極めて不機嫌そうに顔をしかめていた。
自分の伴侶であるガリンが、『強い』だとか『魅力的である』というのは、良い。
実際、この時代では、強い個は男性でも女性でも魅力があるとされ、求愛されることも当たり前だ。『鬼畜』という表現も、嫉妬からくるものであれば甘んじて受け入れよう。
だが、『幼女』というのは我慢できない。
レイレイの肉体年齢は10歳程度である。
自分は、肉体年齢は置いておいて14歳であるのだ。元服もしている。
マレーン文明では、基本15歳で元服し成人する。14歳は一般的にいえば成人はしていないが、それでも成人一歩手前ではあるのだ。
それが、10歳のレイレイと同列で、『幼女』という括りになっているのだ。
これは、一体どういうことなのだ。
『自分の着ている服が子供っぽいのだろうか・・・』
ジレにも聞いてみたが、貴族の子女であればこんなものだろうということだ。
『身長か』
ガリンと比べても自分はそんなに小さくはない。
確かに、ジレやサラと比べると多少小さいが、それでも年齢的には平均的であるはずだ。
そうすると認めるのは嫌だが、
『身体つき』
なのだろうか。
普段ゆったりとしている服を着ていることが多いのだ。
サラの様に凹凸を主張しているわけではない。
まあ、ジレほどの迫力があれば、何もしなくても主張はするのかもしれないが、とにかく体格など人ごとに違うのだ。
『それではなぜ・・・・。』
ルルテは気付いていないのだ。
確かに身長や体格は歳なりではあったが、自分がいままで暮らしてきた環境が、ルルテを幼く見せているのだ。
一般的な国民の家庭では、10歳にもなれば家業を手伝ったり、家事も手伝ったりする。しかし、ルルテは王族であり、貴族としての義務以外のことは何もしない。
もちろん勉強もしていたが、学院にはほとんど通わず、ガリンに屋敷で教えてもらったのだ。また、他の子供たちと遊んだこともない。
簡単に言ってしまえば、あまりに世慣れていないため、雰囲気そのものが幼く見えるのだ。
そして、ルルテは鍛錬は積んだとはいえ、まだまだ線が細い。
逆に、すぐ横にいて、同じぐらいの体格をしているレイレイは、細いながらもたくましい。
もっとも、レイレイは竜とのキメラであり、あれはあれで別枠である。ああなりたいわけではない。
ただ、横に並ぶとどうしても比較されてしまうのだ。
ルルテは、ふとガリンの隣に立つ自分の姿を思い浮かべた。
その瞬間、胸の奥がきゅっと縮み、思わず唇を噛んだ。
自分は、彼の隣に立つにふさわしいのだろうか――そんな不安が、ほんの一瞬だけ胸をかすめた。
サラもジレも何度もこの質問をルルテにされてきたが、上手く答えられないのだ。
一番簡単なのは急に身体が成長すれば、少なくとも『幼女』とは呼ばれることはなくなるだろうが、もちろん急に身体は大きくならない。
ガリン達は、執拗なまでに絡んでくるルルテに、皆で説得するための方便を話し合い、結果、ストレバウスの
『鍛錬が足りず、侮られたのです。』
という案を採用することになった。
それでもルルテは納得はしていなかったようだが、確かに盗賊に襲撃されたときにも、基本的には戦いに参加しなかったこともある。
また、たった4日間であったが王都からセルナの町までの道中も、風力車に乗りっぱなしであったことも間違いはない。
今後は、もう少し歩いたり、真面目に戦闘訓練をするということで一応の決着を見たのだった。
傭兵斡旋所を出てからも、ルルテの癇癪は続いた。
しかし、セルナの町の露店から漂う焼き菓子や香草、肉の匂いが混ざり合う空気に触れると、ほんの少しだけ気が紛れた。
それでも『幼女』という言葉への憤りは消えなかったが、香りに意識を奪われる瞬間だけは、胸のざわつきが和らいだ。
露店で昼を食べたり、レイレイの焼き菓子を買ったりと、あちこちセルナの町を歩いていたのだが、ようやくルルテが渋々納得したところで、宿に戻ることになったのだった。
一行は宿に戻ると、サラの指示でこの4日間で消費した食材などの消費物資の確認を始めた。
「なんで、こんなに食材がなくなっているんさね。」
とサラがぼやく中、宿でコンシェルジュとしてガリン達の対応をしているバラクが、帳簿を抱えて現れた。
絹製品を中心に扱う商会の息子ではあるが、商会として幅広い物資を扱っていることをさりげなく示すように、必要な物資の候補を次々と挙げていく。
丁寧な口調の裏に、商人の子としての抜け目なさがちらりと覗く。
その場で次々とバラクに注文を出すルルテに、サラはついに頭を抱えた。
ストレバウスは苦笑いを浮かべ、レイレイが受け取った絹布を首に巻いて微笑んでいた。
ガリンはその様子を見て、一瞬だけ『覚醒しているのでは?』と訝しんだが、誰も気づいていなかったので、そのまま放置することにした。
そんな、ガリンはといえば、物資の調達にはほとんど無関心で、ただ静かにその光景を眺めているだけであった。
「そんなもの持って行けないさね。荷物ばかり増えてしまうじゃないかい・・・。」
サラが注意を出すも、ルルテは止まらず、場はさらに混乱していくのだった。
ようやく夜までには、セルナの町で補充する物資もあらかた決まり、明日はそれらの物資を購入することになったのだった。
また、バラクからは町を出る前に、バラクの父が経営するウルバナ商会の頭取であるベラクが挨拶をさせてもらいたいという申し出があった。
こちらも、明日面会をすることになったのだった。




