はじめての町 その16 噂の内容
登記所につくと、サラが皆に入口で待つように伝え、ガリンと2人で中に入っていった。
王都の登記所で登録したように、傭兵団も登記所で登記されて、初めて傭兵団となる。
1つの職業であるのだ。
マレーン王国の職業は、基本『位』という職位で扱われているが、この傭兵団はその例外の1つであった。
食事を作る料理人が食位であり、農作物を育てる農業従事者が農位となるが、傭兵団は、傭兵団としてそのままであるのだ。
代わりに、傭兵団にはリーダー的な責任者、つまり登記簿の筆頭として発起人が登録される。
ガリン達の『護国の騎士団』においては、ガリンがその『発起人』であり、頭目として登録されていた。
また、頭目が動けない場合には、副頭目として登録されている者がその責任を負う。『護国の騎士団』においては、サラがその役を務めていた。
本来は、ルルテでも良かったのだが、傭兵団の活動には荒事も多い。かといって、貴族がいるのに頭目をサラが務めるわけにはいかない。
苦渋の選択として、ガリンが頭目、サラが副頭目となったのだ。
今回は、サラが今後あるかもしれない盗賊の懸賞金をもらう方法を教えるために、2人で登記所に入っていったのだった。
登記所には、その規模によって、2~4ぐらいの窓口が設けられていた。
戸籍などの閲覧や証明書を発行してもらう窓口と、婚姻や傭兵団などの登録、家の所有権を登録する登記作業を行う窓口、そして生力石に関する情報を照会・証明してもらう窓口である。最後の1つは相談の窓口である。
規模が小さい登記所では全部が1つになっている場合もあるが、このセルナの町では、ちゃんと4つに分かれていた。
サラは、ガリンに生力石に関する窓口に行くよう指示を出した。
ガリンが窓口に近づくと、
「どのような御用でしょうか?」
と、整った顔立ちの妙齢の女性職員が声を掛けてきた。
サラが、
「関所からこちらに盗賊たちの懸賞金の確認で、7つの生力石が持ち込まれているはずさね。」
と伝えると、受付の女性と周囲の職員の顔が一気に青ざめるように曇った。
ガリンが無表情のまま立っているだけで、周囲の空気がわずかに張り詰める。
職員たちは、まるで巨大な獣の前に立たされたかのように、息を呑んでいた。
ガリン自身は困惑しているだけなのだが、その無表情が、彼らには何より恐ろしく映っていた。
「も、も、申し訳ございません。生力石の色を確認して・・・いえ、確認をさせていただいてもよろしいでしょうか。」
詰まりながらも、受付の職員がようやく声をひねり出した。
「わたしですか?」
ガリンが淡々と聞き返すと、
「ひゃい。そうでございますです。」
もう、まともな言葉にすらなっていなかった。
ガリンがサラに視線を向けたが、サラも理由がわからず肩を竦めるしかなかった。
ガリンが左肩をめくり上げ、自身の男爵としての緑の生力石を見せると、登記所の中に波が引くように静寂が訪れた。
あとでわかったことだが、関所のトレムルホンゴと呼ばれる官が、ガリンの恐ろしさについてかなり誇張して伝えたらしく、全員が黒髪の悪魔を見た瞬間に委縮してしまったのであった。
それでも確認作業は言伝通りに終わっており、襲撃者のうち4人に懸賞金が掛けられていて、それなりの金額が払われるとのことだった。
そのうちの1人は、生きたまま捉えた商人に扮していたウクバルのものであった。
意外にも懸賞金が一番高かったのは別の襲撃者であり、ウクバルの懸賞金は4人の中ではもっとも少なかった。
おそらく汚れ仕事は他人に任せ、自分は釣りの役目を引き受けていたからだろうと、サラは理由を説明していた。
とにかく、恐れられながらも懸賞金をもらうための証明書を受け取ることができたので、次は傭兵斡旋所に行くこととなった。
そして、ここでもガリン達一行は注目の的になってしまった。
主に、レイレイが。
昨日のレイレイの雄姿が斡旋所の中で噂になり、『剣を素手で砕く子供』として広まっていたのだ。
もちろん身の覚えのある話だ。
こちらは売名行為のためサラが演出したものではあったが、若干やり過ぎてしまったようである。
そしてもう1人、注目の的になったのがガリンであった。
当然、朝の決闘の件である。
斡旋所の扉をくぐった瞬間、ざわ・・・と空気が揺れた。
ガリンが一歩踏み込むたび、周囲の傭兵たちがわずかに身を引く。
無表情のまま歩くガリンの姿は、彼らには『何を考えているかわからない恐怖』として映っていた。
中には、ガリンと目が合っただけで、慌てて視線を逸らす者もいた。
レイレイを見た傭兵が、腰の剣に触れかけた手をそっと引っ込める姿もあった。
決闘は宿に許可を取って行ったものであり、誰にも口止めはしていない。
いや、むしろ口止めをしてしまえば、勝った者の権利を主張する助けにはならない。
そう思ってそのままにしていたのだが、当然宿には護衛の傭兵たちがいる。
そして、この町の代官であるオルレンは、かなりの手練れとして有名であった。
そのオルレンを、小さな短剣だけで寄せ付けもせず、軽く投げ飛ばしたというのだから、良い話の種になるのだろう。
まだ午前中だというのに、傭兵たちにはその話が広まっているようであった。
そこに来て、襲撃者の腕から顔色一つ変えずに生力石をえぐり取る猟奇的な男・・・それが加わるのだ。もう噂にするなという方が無理なものだ。
傭兵たちが遠巻きに彼らをジロジロと見る中、なんとか懸賞金を受け取るのだった。
ガリンの左肩をここで見せるわけにもいかなかったため、傭兵団の副頭目であるサラの生力石で懸賞金を受け取ったのだった。
ガリンが注目を浴び、盛大に眉間に眉を寄せながら傭兵斡旋所を後にした。
すると、ガリンの噂に、
『凄腕の女剣士や召使い、さらには見目麗しい幼女2人を毒牙に掛けて従わせている鬼畜男』
という尾ひれが付いて広まっていったのだった。




