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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第4章 引っ越し
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引っ越し その3


レンに質問に対してガリンは、ランタンを眺め、しばらくの間、小さな手のひらでランタンを弄ぶかのようにくるくると回しながら考え込んでいた。

なかなかガリンが答えを導き出さないのを、しばらくは見守っていたレンも、


『難しすぎた。分からないからといって、適当なことを言う子ではないのだ。別の質問をしてみよう・・・』


そう考えて、口を開きかけた瞬間である。

ガリンは、ランタンを回していた手を止めると、レンに視線を移し、


「ランタンの中に永続的に回転エネルギーを保存する、つまり回り続ける元力石を配して、回転による生み出されたエネルギーを、中央の光への変換をする元力石に放射させればよいのではないですか?」


大人びた口調で自分なりの回答を口にしたのだ。

レンは、息を飲んだ。ガリンの答えはそれほど衝撃的であり、期待以上に、いや期待すらしていない次元での、『自分なり』の回答だった。


まず、既存のエネルギー蓄積の元力石とは、その考え方、理論がまったく異なっていた。

元力石のエネルギーは、基本的には人の意思の放射によって行われる。しかし、ガリンが提案した方法は、回転エネルギー、つまり運動のエネルギーをその蓄積に使用するというのだ。まったくの常識外である。

事実、レンにとっては、ガリンが口にしたその時までまったく考えたことすらなかった概念である。

まず発想に驚いた。


レンは、相手にしているのが年端もいかぬ子供であることを忘れて、先程の興味本位のような口調ではなく、素直な興味から、ある意味尊敬の念すらこもっていたまもしれない、そんな口調でガリンに議論を持ちかけたのだった。


「しかし、ガリンよ。それでは、その最初の回転に必要なエネルギーはどこから得るのじゃ?結局は、その回転を生み出すためのエネルギーを蓄積するための元力石が必要になってしまうのではないか?」


ガリンは、その質問を聞くと、面白そうに、


「最初の回転は、自ら手で回してあげればいいんです。そして先程言ったように、手で与えた初動のエネルギーで石を半永続的に回転させて、その回転そのものにより増幅されたエネルギーを光にすればいいんです。万が一、止まってしまったら、また蓋はずして、元力石を回せば良いではないですか?

これは街頭ではなく、身近にあるものなのですから。」


そう笑顔で答えた。

レンは更にその発想と理論体系に衝撃をうけた。


ガリンは、エネルギーの初動を、『意思』でなく『手』つまり、人力でと言ったのだ。

そんなことは、学院中の記録石や書物を読んでも見つけることはできないだろうし、そもそも元力石は意思の力で働くものである、エネルギーの元になるものを人力で生み出すなど、常識的な文様術では考えることすらしていない概念であったからだ。


驚くべき点は、常識外ではあっても、そのガリンの考え方は、極めて科学的であり、文様術の理論に適合しているのだ。

そしておそらく、実現可能な技術のように思えたのだ。


この新鮮さと奇抜さ、そして、その理論性の特殊さは、現在のガリンの文様術にも繋がっており、これが王国随一といわれる今日のガリンの技術の根幹であったのだ。


ガリンの文様術はある意味、独特であり唯一のものであったのだ。


レンは、この時にガリンの限りない才能に驚嘆を覚え、その後は自分の研究の手を止めて、ガリンに学業を教えることに多くの時間を費やすようになったのだった。


レンが学業を教え始めてからは、予想通りに驚くべき早さで全てに理解を示し、翌年の試験では初等教育、准晶角士としても角士養成課程も終了させてしまった。もちろん、この異例とも言える短期間での履修は、王国始まって以来の早さであったし、今後もなかなか出てくるとは思えない偉業といえた。


周囲の人は、レンがガリンを養子にして以来、徹底的に学問を叩きこんだのであろうと、レン自身に感嘆の意を評したが、事実は違い、レンが教えたのは本当にわずかな期間であり、更に付け加えるのであれば、その時点までにほぼ独力でその程度の学力は既に身につけていたのだ。


ガリンが准晶角士になったのは、16歳、もちろん最年少であった。

そして、今は24歳、やはり最年少で晶角士に叙勲されていた。


ガリンは、頭脳は明晰で思慮も深い、一見手のかからない子供のように見えたが、だからこその欠点も多数あり、その点ではルルテ嬢におとらない、育てにくい子供ではあったのだ。


純粋に欠点と呼んでよいかはわからないが、ガリンはあまり表情を表に出さない、あるいは感情そのものが乏しい子であったのだ。親代わりのレンであっても、ガリンが何を考えているのかがあまりわからいことが多々あったし、そして、そんなガリンが、周囲の人間と親交を深めることや、友情をはぐくむようなことはまったくといいっていいほど皆無だった。


レンは、親としての愛情はそれなりに注いできたつもりであったが、そのレンにさえ、最初の頃はガリンが笑顔をみせることは滅多になかったほどである。


逆に、怒っても静かに泣くだけであり泣き叫ぶこともなかった。

ただ、一度そうなると機嫌だけはなかなか直さず、その度にレンはご機嫌取りに苦労をしていたのだ。


また、人との接触をあまり好まなかった所為か、遠慮がなく、特に自分に非がない場合は、まったく妥協をしなかった。

そしてこの点については、何度窘めても、結局治らなかった。


そのガリンが、今は、逆にルルテ嬢のことで苦労をしている話をしており、また不器用ながらも笑みを浮かべている。

レンは、それがとても嬉しかったのだ。


一部の問題を除けば、晶角士としては既に文明最高といえるほどの力を持っている。それに加えて、ルルテや周囲の者を気遣う、優しさや気配りがガリンに備わるのであれば、護衛としてこれほど頼もしい者はいないだろうし、人としての大成するだろうことは間違いなかった。


文章の荒い部分や、表現がおかしいところなどを修正しました。2025.10.29

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