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マレーン・サーガ  作者: いのそらん
第4章 引っ越し
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引っ越し その1

・登場人物


晶角士(男 24歳) ガリエタローング・ガリン・エンジジ

王女(女 12歳) ルルシャメルテーゼ・ルルテ・マレーン・ソノゥ

軍角士・司(男 27歳) レパッタナーグ・ナタル・オウジシ

軍角士・司(女 29歳) ササレリアシータ・リア・オウジシ

宮廷晶角士(男 111歳) イクスレンザ・レン・エンジシ

女官A(女 32歳)  ジレルンマーナ・ジレ

女官B(女 67歳)  セラミナーニャ・セル

クエルス大使 ジャラザン・イバレス

衛士 ストレバウス・オウジシ

傭兵 カカゼーノ・ゴッペ


ガリンは、幼少より生活をしていた学院から、自らの荷を新しい居室への移動させるために朝から学院を訪れていた。

もともと、記憶石や書物の類、それと文様術に使う一式の道具以外には、ほとんど身の回りの品がないために、引越しといってもたいした量ではなかった。


記録石とは、紙媒体に情報を残すことがほとんどないマレーン文明で、主に記録媒体として使用されている記録専用の元力石のことである。

もちろん、学院内にはこのマレーン文明のどこによりも紙に記録された書物もあるのだが、記憶石のほうが数倍便利であるためにあまり重用はされていなかった。


一般的に記録石には2種類あり、1つは記録石に施された文様をなぞることにより記録された内容が情報として意伝石をつかって伝達されてくるものであり、もう1つは書物同様に文字情報として空間に情報を映しだすものである。前者は文様を発動させるキーワードがある場合が多く私通や秘匿性の高い記録に用いられ、後者は一般的にだれでもその記録された内容を読むことができる記録に使用される。


学院に内にある記録石もほとんどは後者のものである。


ガリンが研究のために用いているそれらの記録石は貴重なものも多く、またガリンの類稀なる才能の集大成ともいえる物もその中には含まれており、他人の目に触れて欲しくないものであった。そのため、単なる引越しとはいえ、その荷を運ぶために城から荷運び兼護衛役として、衛士をつれてきていた。

また、左翼とはいえ王女の住まいに誰でも入れるわけではない。衛士をその任にあてたのはもっとも適当であるともいえる。


重量軽減の元力石を用いた木箱3つ程度にすべての荷をつめると、ガリンは、衛士にそのままその場への待機を命じ、師であるレンの研究室に足を向けた。


レンはこの学院の責任者としての立場もあるため、研究室はもっとも高いところに配されていた。


ガリンは、扉の前にたつと軽くノックをして中にはいり


「先生、本日居を移すため、挨拶に参りました。」


と述べた。

レンは、入口の扉に背を向けて窓から外の様子を見ていた。


「おお。よく来たの。ここ最近、おまえがこの部屋を訪れることも減ったのでな、寂しく思っておったところなのだ。たまに来たと思ったら居を移す話とはな・・・。」


幾分眉をよせながら、ガリンは


「先生、ご冗談はおやめください。私が喜んで、城内に居を移すとお考えですか?」


と、非難がましい口調で応えた。

レンはゆっくりと振り返りガリンの顔を覗き込むと、そのまま椅子に腰をかけた。


「はっはっ。そう突っかかるな。我が子を送り出すのは幾つになっても寂しいものなのじゃ。」


そう言ったレンの笑顔にガリンも顔を和ませた。


「しかしな、ガリンよ。2人の時は先生でも師でもよいのだが、王宮においてはお主にも護士という立場があり、既に爵位を得ておるのだ。これからは、『イクスレンザ殿』や、『宮廷晶角士殿』と呼ばねばならぬぞ。」


ガリンは瞬きをすると、


「わかりました。気をつけることと致しましょう。」


とだけ返答をした。

その後、ガリンは報告の意味も兼ね、昨日の王女との出来事を簡単に伝えた。


「そうか、確かにルルテ嬢の相手はやや大変かもしれぬ。が、それはお前にも必要なことなのかもしれないのじゃ。」


続けて


「確かに、お前は晶角士としては優秀ではある。しかし、お前を養子にしてからのわしは、父親として優れていたとはお世辞にも言うことはできない。わしがお主に親として教えることができなかったことはいくらでもあるのじゃ。人は人と関わりを持たずして生きていくことはできん。わしが教えられなかったそれらを、学ぶ機会であり、ある意味お前にとっても1つの試練の時なのかもしれん。」


「・・・。」


「先ほどルルテ嬢の話をするときのおぬしは、珍しく微笑みを浮かべておったぞ。」


ガリンは再び眉を寄せたが、追い討ちをかけるかのように、


「それに、おまえ自身も、それほど育てやすい子とはいえなかったのじゃぞ・・。

因果応報というものじゃ。」


と締めくくった。ただ、レンの声はやさしかった。

再度、椅子を窓に向け、話題を変えた。

その目の先には闘技場が映っていた。


「そういえば、ガリンよ。生誕祭の最終日の闘技大会は、たしかルルテ嬢を伴って観戦の予定が組まれておったはずじゃが?」


ガリンは、


「確かに、その旨は聞き及んでおります。しかし、あのような場所にお連れしても宜しいのですか?」


ガリンはレンの隣りに立ち、闘技場に目を向けた。


「ふむ、確かに危険といえば危険なのじゃが、最終日は、王も臨席される。警備はかなり厳重になろう。

それに、おぬしらはお忍びでの観戦であろう?お前がついていれば問題ないと私は思うておるが・・。」


「しかし・・・。」


納得のいかない様子のガリン。


「それにな、ガリン。王女には王女の能力石があり、その効果は今回もお前の手助けとなるはずじゃ。」


ガリンはそれを聞くと、やや声をひそめて、


「能力石に刻まれている不関心文様のことですか?」


そうつぶやいた。


「!?何故おぬしがそれを知っているのじゃ?

王家を別にすれば、わしぐらいしか知らないはずじゃぞ?

そもそも姫自身もそれを知ってるわけではあるまい?

それに、王族に伝わる能力石の文様は、門外不出じゃ。どうしておぬしがそれを知っているのじゃ・・・。」


能力石は、開封の儀を行わなければ、個人の才能を開花させるという本来の力は発揮されない。代わりに開封の儀、つまり元服を迎えるまでは能力石にもともと刻まれている不関心の効果で幼い王族を守るである。ガリンが読み取っていたものは、開封の儀を行うまでの間効力を発揮しているだろう不関心の効力のことであった。


レンの声は小声ではあったが、その色は十分に緊張を表していた。

しかし、そのレンの問いかけにガリンは、


「先生。私は既に何度もルルテ殿の左手首の能力石をこの目で見ております。

先生は、私の力をお疑いなのですか?

時間をもって分析をさせていただければ、同じ文様を彫ることも可能でしょう。」


そう、落ち着いた声で言った。


『今まで何度となくガリンの才能には驚いてきたものだが、わしですら、能力石はまったく手が出せない領域だったのじゃ。わし自身何度も王の能力石を目にしているし、そもそもルルテ嬢の能力石を手の甲に移植したのはわし自身じゃ。何度もその能力を知るために文様を読み取ろうとしてみたものだ。そしてその度にその努力は徒労に終わり、後日王からお伺いしてはじめてその能力をすることとなったのじゃ。それを1度や2度見ただけで・・・。』


レンは、心の中で真に驚き、そしてなんとか


「そうか。さすがは私の愛弟子じゃの・・・・。」


とだけ絞り出すように返事をして、レンが初めてガリンに出会った時のこと、そしてその才能を目の当たりにした時のことに思いを馳せていた。

後々の物語の都合上、王族の手の甲にあった能力石を、左手首(手のひら側)に書き換えました。

また、王族が元服し、開封の儀を行った後も「不関心」の文様が効果を発揮するのは、人の上に立つ王族としてどうなのだ?という観点から、開封の儀により、この「不関心」の効果がなくなるという設定を追加しました。2025.10.29

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