王都出発 その8 レイレイ登場
サラが、階段の上までようやくたどり着くと、階段の長さに似合わない、こじんまりとした門が構えていた。サラが門に近づくと、門の脇にあった小さな詰め所から1人の衛士が出てきたのであった。
身体の大きさは、かなり大きい。カカノーゼほどではないとはいえ、先程屋敷の下まで案内をしてくれたナタルの二回りも大きい。ストレバウスであった。
着けている装備は、軍角士であるリアやナタルが木を樹脂で固めた軽装備なのに比べて、軽装備というよりは制服のような、青地に黄色の縁取りがされたピーコートを着ていた。王族の衛士を示す伝統ある装束である。単なる服のように見えるが、ピーコートの裏には皮が樹脂で固められた裏張りがされており、剣やナイフを簡単に通すようなものではなかった。
ストレバウスはサラに近づくと、
「サラニュートという傭兵があなたですか?」
と、サラの身分を確認するために声を掛けた。
「ああ。そうさね。レンという学院の関係者に、この木片をもらって、昼過ぎにこの屋敷にいくように言われたさね。」
ストレバウスは軽く頷くと、
「伺っております。」
そう言って、頭を下げた。
「なんかこそばゆい言い方だね。木片はいいのかい?」
「はい。大丈夫ですよ。そもそも木片が無い限り、階段を上まで登ることができないとガリン殿が言っておられましたので。」
サラが驚いて木片を凝視した。
「ああ、まったく・・・。そういうことかい。」
「はい。」
ストレバウスが笑顔を返した。
「じゃあ、あの黒い護士さんのところに案内してくれるかい?」
「ええ。もちろんです。」
ストレバウスは、門に設置している元力石に、自身が持っている木片を近づけると門が内側に開いた。この木片を使った門の開閉については、7大文化圏会議が開催されるちょっと前に、ガリンが実験的にといって設置したもので、今は屋敷の全員がこの木片を持って移動している。屋敷の防御結界とも連動しており、この木片のおかげでストレバウスをはじめ、門を守る衛士たちは実質的には何もすることがなかったのだ。
いずれは、各都市の関所や、次元接合門の出入りにこの技術を応用して、より意図しない不法侵入を防ぐ手立てにするとガリンは説明していた。ストレバウスには詳しい理屈はわからなかったが、仕事がかなり楽になったのは間違いなかった。
門が開き、ストレバウスが手招きした。サラはその門をくぐり抜け、やっと屋敷に足を踏み入れたのだった。門から一歩入ったところでストレバウスは足をとめ、サラに庭のテラスの椅子に座って待つように伝えた。
外の生誕祭の喧騒が嘘のように、屋敷の中は落ち着いた空気に包まれていた。
サラは一度辺りを見回し、椅子に座ろうとしたところで、ストレバウスがサラに向かって小声で、
「あなたが、先程レンと呼ばれた御仁は、この国の宮廷晶角士の長であり、学院の長でもあるイクスレンザ様ですよ。あまり他の王城関係者の前で、軽々しく『レン』などと呼ばないほうが身のためかと・・・。」
と忠告してくれたのだった。
「!!!」
サラが目を丸くして驚く。
「・・・・。わかったさね。」
頭を掻き、ため息をつきながら椅子に座るのだった。サラは、
『この前、護士とお姫様に会ってから、あたしの人生はどうしちゃったんだろうね・・・。』
と心の中で、もう一度ため息をついた。
サラがテラスで待っていると、酒場で会った護士とお姫様が、小さな7、8歳ぐらいの少女を連れて近づいてきた。酒場で会った時のような派手な白づくめの出で立ちではなく、護士の方は全身真っ黒のローブ姿で、お姫様の方は、若草色の袖のないワンピースで身を包んでいた。
サラは、
『酒場では真っ白、今は真っ黒って・・・。それにお姫様の方も、今は真冬だというのに・・・。』
呆れるしかなかった。
そして、今度はガリンの横にいる少女に目がいく。白い肌着と足にぴったりとした収縮性のある黒いズボン。そして、その上から木を樹脂で固めた胸当てと腰鎧を着けている。手に打剣を持っているところを見ると、剣の稽古でもしていたのだろうか。
そして、艶やかな黒髪と、両耳の上にある小さな角が見える。まだほんの親指ぐらいの大きさの角である。おそらく黒い髪は、あの護士からの遺伝なのだろう。額には、小さな赤い色の元力石が埋め込まれており、そこに彫られた文様が、額の石を3つめの眼のようにも見せていた。
その下にある瞳孔は縦長で、やはり黒に近い。袖のないシャツに籠手だけをつけており、前腕部にある鱗が良く見えた。その少女が、護士の方に向かって何かを話しかけると、背中に小さな皮膜のある翼が見える。せわしく動いているところを見ると、緊張しているのかもしれない。
サラは、確信した。
『あの方が、竜鱗を持つお方』
だと。
まだ遠くで、鱗の形までははっきり見えないが、ひし形ではない。なにより、身体的な特徴のいくつかが完全に竜族のものだ。
胸の奥がざわりと揺れた。恐れとも、興味ともつかない感覚だった。
サラがレイレイを見て色々と思考を巡らせているうちに、3人がテラスのサラの前に到着した。




