王都出発 その9 レイレイからの新しい情報
「今日は、良く来てくれましたね。」
ガリンがサラに声をかけ、ルルテとレイレイに座るよう促そうと視線を落としたとき・・・。
いきなり、サラがレイレイの前に膝を落とし、頭を下げた。
気づけば身体が動いていた。巫女としての本能が、頭より先に膝を折らせた。
「竜鱗を持つお方よ。わたくしが今代の竜鱗の巫女、サラニュート・ヨークでございます。」
サラが、最上位の礼をもって挨拶を始めたのだった。
「ヨークは、部族名でございます。」
「ちょ・・・」
ガリンがサラに、
『ちょっと待ってください、まずは席について話しましょう。レイレイがおびえてしまいます。』
と声を掛けようとしたところ、すぐ横から別の声が割って入る。
「うむ。おぬしが、当代の巫女か。大儀であった。」
覚醒したレイレイである。
幼い声なのに、胸の奥に響くような重さがあった。
「はっ。」
サラが短く応える。
「我は、レトマルレインザ。王国の身分に従って言うのであれば、レトマルレインザ・レイレイ・ララス・ナシジだったか。呼ぶときはレイレイで良い。」
「はっ。かしこまりました。」
「レイレイっ・・・。」
ガリンがレイレイに声を掛けようとすると、レイレイが手で制止する。
「先代のミアンの残した予言を今でも守っておったのじゃな?」
レイレイが確認するように尋ねる。
「先代?ミアン?」
サラが口の中で初めて聞いた言葉を転がして、考え込む。
「ふむ。まあよい。そこまでは伝わっておらぬのだな。予言とはそういうものかもしれぬな。」
「申し訳ございません。」
サラが、再び頭を下げる。
「そう、畏まらんでよい。我も、その残り香のようなものじゃ。我の父が身体を与えてくれんかったら、今も地下書庫をうろついていただろうからな。」
「はっ。尊父のことは存じております。」
「いや、父は、尊父というよりは・・・・。まあ、これは今は良いだろう。」
「・・・・。」
何のことかわからず、サラが沈黙する。
「そこの護士は、いろいろな意味で、我が父であることには間違いはないのだからな。」
「はっ。かしこまりました。」
サラは、態度を崩さない。
「それとな。まだ我は半分微睡んでいるようなものなのだ。自由に言葉を交わすことができるようになるためには、我が身体の主が、竜化できる程度までは育つ必要がある。私のこの額の元力石がちゃんと作用すれば、もう少し頻繁には顔を出すことができるかもしれんが・・・。」
レイレイはそう言うと、急にガリンに顔を向け、
「父よ。我の額の元力石を作用させるための頭冠は、出来ておらぬのか?確か、あのエバとかいう者と話している時に、そのような話をしておらなんだか?それに培養槽の中で被せた試作品があったのではないか?」
今度はガリンに質問をぶつけたのだった。
「!?貴女は、あの時も意識は覚醒したのですか?確かに試作品の頭冠は着けておりましたが・・・。」
ガリンは、質問を質問で返す。
「今は、議論しているほど時間はないのだ。父は、そう、父は、本当に変わらぬのだな。頭冠はどうなのだ?」
ガリンは、レイレイの先程からの言葉から知ることができた様々な新しい情報を一旦考えるのをやめ、
「はい、完全な物ができておりますよ。」
「では、何故被せんのだ。」
「ミアンの従者としてのあなたは、文様術で縛られるように覚醒をしたいのですか?それに無理な覚醒はレイレイの身体にも負担となります。」
今度は、レイレイが驚いたような顔でガリンを見つめる。
「いや、訂正をしよう。父は、変わったところもあるようじゃ。」
そう言いながら、今度はルルテに顔を向ける。
ルルテが、驚いたように少しだけ身を引いた。
「怖がるでない。おぬしは王族なのじゃろう?まあ、少し悔しいのは、父に影響を与えておるのは、このまな板娘であることだな・・・。納得はしたくないものだ。まあ、此度はかなり期待のできる女性を連れて来たようだな。」
今度は、そう言ってサラの胸部に視線を戻す。
「は・・ぁ・・?」
サラも話が飲み込めていない。
怒りで肩がぴくりと跳ねた。同時に、ルルテの頬がわずかに赤くなる。
「まあ、良い。父よ。我と話をしたくば、やはり頭冠を使うと良い。毎回とは言わぬが、我が起きてさえいれば話をできることもあるであろう。それと、竜化するためには身体を完全に管理しなければならん。あの頭冠だけでは不十分じゃ。変化は意思の力でなく、能力なのだ。全身の変化をできるようになるには時間もかかるだろうが、部分的なものであれば、比較的早く発現できると思うのじゃ。頼んだぞ。」
「あ、レイレイ・・・」
ガリンが呼び止めようと叫んだときには、もうレイレイは、さっきまでの威厳が嘘のように、ただの子どもの顔に戻っていた。
「・・・・。」
残ったのは、『まな板』と呼ばれて怒り心頭のルルテと、なんだか呆けて感動しているサラ。
そして、聞きたいことが頭のなかで踊っており、悔しそうな表情を浮かべているガリンだった。




