ただの根暗なブラコン小娘だとばかり思ってたわ
死屍累々と形容するに相応しく、幾つもの亡骸と血溜まりが辺り一面を覆い尽くしていた。
その中でも一際大きい血溜まりの中央にぽつんと佇む少女が居た。彼女は俯いて微動だにしない。ただ彼女の尻尾の先から血が滴り落ちては波紋を起こし消えようかと言う時にまた滴るのを繰り返していた。
そんな少女に背後から近寄る影があった。影もまた少女と同じように全身を返り血で染め憔悴の色も垣間見えるのだが、それとて少女ほどではなく、近寄って慰めの言葉をかける程度には正気を保っていたのだった。
「なんとか片付けたみたいだね。まだちらほらと見えるけど、あれは敵意なしと思っていいのかな? キューちゃん」
「……知らないです。そう……なんじゃないですか? アルさんがそう思うのならそうなんですよきっと」
「キューちゃん、私に八つ当たりしても仕様がないのは分かるよね」
「ーーッ!!」
キューは振り向き様、アルに殴りかかろうとし、その拳を向けた。泣きはらして歪んだ顔で以ってーー。
しかし、あっさりと躱され勢い余って転倒してしまった。うつ伏せに倒れたキューは上体を起こそうとするが、首根っこを掴まれ引き戻され、語気を強めたアルの声が耳のすぐ後ろから聞こえてきた。
「キューちゃん、いい加減な真似しないでくれるかな? これは遊びじゃないの、殺し合いなのよっ! ドクターは本気で私たちを殺しにきている。半端な覚悟でいるなら隅っこで震えて傍観してろ!」
「厭だっ! ボクは、お兄ちゃんを……皆を……平穏な毎日を取り戻したいからここに居るんだ。未来のない終末の世界でも構わない。ここがボクの生きる世界だからっ!」
首根っこを抑えるアルの腕を開いた尻尾の先端で掴み、そのまま体ごと投げ飛ばす。アルは数メートル飛んだ後、何事もなかったように着地し溜息をついた。
「まったく……私だって平然としてるわけじゃないのよ。体は不定形でも心はしっかり持ってるつもり」
「いいこと言うねえ〜アルちゃんかっこいいぃぃ!」
少し離れたところで一部始終を見守っていたリクコが空元気ながらも茶化す。
「ねえ、キューちゃんあいつ一発殴っていい? どうせ怪我増えても治るから構わないでしょう?」
「ぷっ……ふふ。アルもリクコには敵わないんですね参考になります」
リクコにからかわれ形無しなアルがあんまにも可笑しくて、キューが思わず大笑いしたーーその時であった。
「ほう……テメェ、そんな声で笑えたんだな。ただの根暗なブラコン小娘だとばかり思ってたわ」
聞き覚えのある下品な声ーー。
その鮮血と同じ色の髪をした少女と、彼女の額にできた下品な喋り口調のもう一つの口は、認識する間もなくキューとアルのちょうど中間辺りに現れたのだった。
「あれから二週間……行方が知れなかったので心配しておりました。ご無事で何よりです。……キュー様」




