全然違います
「四九九三六七号……私たちの存在を知られた……結果は覆らない……過去は変えられない……もうオクト様の意向に沿うことはできない……ならば……」
ならばーー。
サヤの仮面が微細ながら動く。その先はーー。
「ウオッシャアアアアアアッ! でかしたぜサヤ。このクソの役にも立たねえクソムシをブチ殺す許可をオクト様から貰ってきたってことだよなア? そうだよなア!? サヤアアァァッ!」
「そうなのですか? サヤ……」
デンタータは歓喜感銘のあまり早口でそうまくし立て、ケタケタと狂気の如く笑っている。
それを咎めるでもなく横目でノリを一瞥するに留めるミーナは、沈着冷静に達観しているようであるが、その実かなりの殺気を撒き散らしていて、青白い肌が露出した肢体は血管が浮き出、細いながらも筋肉は隆起し、今にも彼に襲いかからんばかりである。
武器もなく特別な力があるわけでもないノリが対峙するには分が悪いと言わざるを得ない。彼女らからしたら役不足もいいところで、デンタータの言うように虫を殺すのと寸分の違いもないのだろう。
ーー結局これだ。
キューやミレイが慰めてくれたって僕にこの街の人外達に抗う力は備わっていないのだ。ちょっと努力したからって越えられるような壁ではないし、かと言って考えを改めふさぎ込むのを止めて自分がか弱い存在だと流布し、自虐に貶め、そうして開き直るのを良しとしても、現実は何一つ変わらない。
ミーナとデンタータの明瞭で先鋭化した敵意と殺意は、鎌首をもたげノリを木っ端微塵にする機会を今か今かと狙っている。
これが本当の形なのかもしれない。
キューやミレイが優しくしてくれる理由なんて一つとしてないのに、それに甘えてばかりいたツケが来たのだ。
例えばの話ーー。
例えば、道を歩いている最中、不運にも巣から落ちて不安そうにピイチクピイチク鳴いている小鳥を見つけたとする。それを大事に保護して愛でるか、見下ろしてほんの少しの憐憫と多くの侮蔑を以てただ通り過ぎたり、いらぬちょっかいを出したりするかは各々の倫理や人格の問題であって、それが直接的に善悪に結びつくような単純な二元論の話ではない。
だから帰結するのはミーナらが悪い悪くないという次元よりももっと下位の、巣から落ちた不運な小鳥がただ『不運だった』というそれだけのことーー。
羽も生えそろってなく飛ぶこともできない無能な己が悪いのだ。
ーーでもやっぱりじたばたしたいじゃないか。
ノリは足に力を込め臨戦態勢をとった。
それとほぼ同時、サヤが短くこう言った。
「全然違います」




