生きていてくれただけで
病室に戻る最中のことである。ミレイが妙にまごつくので、ノリは訝しんだが、極力気にしない様に努め、キューの居る病室の眼前まで来ると、
「本当に大丈夫? 先にジュースでも飲んでからにする?」
などと些か過保護気味に心配してみせた。
ノリは破顔して「大丈夫だよ」と言って扉の取手を持ち横にスライドさせ、なんとはなしに中の様子をうかがうと、病室を出る前は確かに意識もなく、ぐったりとした状態であったのに、手持ち無沙汰ながら目下上体を起こし凛として嫋やかに休養に勤しむキューの姿が認められた。
キューはノリのこっそりと覗くのを一瞥すると、少し火照った頰を上げ、柔らかな口調で以って彼に話しかける。
「ノリ、また……心配かけてしまいましたね」
「……うん」
おずおずと病室内に足を踏み入れ、歩一歩とキューに近づくノリにやきもきしたのか、背後に居たミレイが彼の肩を叩き、早く側に行ってやるように促した。
それに従い側に置かれたパイプ椅子に腰を下ろしたノリは、キューとは目を合わせようとせず、平行に体を向け、感慨深げに彼女の目の覚ましたのを喜んだ。
ミレイはというと二人には近づかず、壁に寄りかかって腕を組んでいる。時折指で二の腕の辺りをリズミカルに叩いているが、不機嫌な様子はなくかえって妙に真剣な面持ちでぎこちない彼らのやりとりを聞いていた。
ーー天井を仰いで目を閉じ、内省する。
薄ぼんやりとして判別のつかなくなってきている記憶の層を揺り起こすように、ノリは語り出した。
「あの日……あの時、キューが死んでしまったんじゃないかって思い込んでて、ただただ哀しくて。逃げることしかできない自分が憎らしくて仕方がなかった」
「……」
「街を出て森を彷徨っているうちにミレイさんに出会って、色んなことを教えてもらった。この世界のこと、この街のことーーそうして、キューたちのこと。僕はキューを……」
「ノリ。もう、いいの。ボクはノリが無事に生きていてくれただけで満足なんですから」
ノリは静かに首肯した。
その後はリクコやユキノの近況や、キューが完全に快復した暁には街の観光をリクコにやらせてしまおうなどと和気藹々と話し、そうして小一時間程経っただろうか、急にミレイが動き出し「じゃあ私はこれで……」と言って唐突に立ち去ろうとするので、ノリは意味もわからず呼び止めた。
「どうして、まだ日も落ちてないのに行ってしまうんですか? せっかく……」
「ごめんね。リクコの様子も見ておきたいから。ね、そうでしょ?」
ミレイは視線をキューの方に移し同意を求めようとする。
それに対し小さく首肯したキューがしかめ面で目を伏せたのを、ノリは見逃さなかった。




