野暮だねえ、ホント
【前回のあらすじ】
新キャラ
南瓜の頭上目掛けての、ありったけの力を込めた手刀。ミレイ様への侮辱は許さない、と憤る私に遠慮はなかった。精々強烈な痛みにのたうち回るがいい。
しかし、その軌跡は衝撃の直前でピタリと止まってしまった。気づくとぷにぷにと柔らかい感触の何かが目に止まらぬ速さで私の腕を優しく掴んで引き留めていたのだ。
「おっと、間一髪だったね」
ミレイ様が私の手をこんな南瓜で汚してしまわぬように慮って下さったのである。まさに感涙の極み。私は、ミレイ様にお礼を何度も申し上げた。
「違うんだ。そんなんじゃなくて。私は、リクコがーーいや、何でもない」
「……ハッ! もしやミレイ様はこんな南瓜の事まで案じておられるのですね。なんとお心の広いお方」
「ちょっとリクコ、なんとかしーー」
ミレイ様がそう仰られた時、南瓜は既にその場に居らず、台所で野菜を切っていた。
私は、野菜が野菜を切るなんてちゃんちゃらおかしいですね、とミレイ様に言おうとしたが、凛々しくも物哀しい面持ちで南瓜の方を注視しておられるので、私は、これ以上ものを言うことができなかった。
ミレイ様は溜息と共にこちらに向き直られた。
「ユキノちゃん、だったね」
「どうかユキノ、と」
「…………ユキノ。キミは昨日までの記憶を失っている」
思えば、確かにここに来るより以前の記憶は朝起きた時の夢のように、ぼんやりと浮かんではその形を掴みきれず、霧散してしまう。
名前すらも、南瓜がリクコとそう呼んでるから、そういうものなんだという認識の程度だ。
ひとたびそのように認識してしまうと、なんだかもう恐ろしく、ただただ不安で仕様がなく、私は、その場にへたり込んでいた。
「ミレイ様……私はーー」
「リクコから聞いてる。辛いことがあったんだろ? 憶えていないだろうけど。記憶を失ったということは、つまり、そういうことなんだ」
それから、少しの間があった。
ミレイ様は何か深く思案して居られるご様子で、私は腕を宙で泳がせ、まごついてしまい、ちっとも気の利いたことを言えなかった。
「リクコは癖のある妹だけど、約束は守るヤツだよ。友達になる……って言ったんだろ? リクコは」
「南瓜が?」
「かぼ……えっ? ああ。そう、そうらしいね。ユキノの意識が戻りそうだから私室で復活パーティーするんだって意気込んでるから心配だと」
よく見ると部屋の隅には溢れんばかりに入れられた飾り付けの小物が入ったダンボールが置かれていた。
「ミレイは野暮だねえ、ホント」




