セクハラ絶対許さない系クリーチャー
【前回のあらすじ】
主人公現る。
「おんやぁ? あんまり驚いてくれないじゃない。残念だなあ……。おやおや? やっほーやっほー! キューちゃんも元気してるぅ?」
リクコは親しげにキューに手を振った。
視界の隅でキューの尻尾が小さく揺れるのを見る限り、仲は悪くないのだろう。
その腰まである黒髪は綺麗な横一線に切りそろえられていて、キューと同じ尖った耳を持っている。
――そして、一番の特徴は大きな単眼にある。
紫色の瞳は深く沈んだ影を落としていて、見ていると吸い込まれそうになってしまう。
リクコの言う通り確かに驚きはしたが、ノリには不思議と恐怖や不快感は感じ取れなかった。
若干の言動の奇異さはあるものの、それに目をつむれば何も問題はない。
「そ、そんなことはいいから早くキューを治してくれ。お前……いや、リクコならできるんだろう?」
「んんー、せっかち少年は嫌われるよ~。今動くから焦りなさんなお客人よ。ハッハッハ――」
そうして言葉通りに部屋全体がガタンと揺れ、次に唐突な浮遊感が襲ってきた。
「これは……エレベーター?」
「ご名答~。モルモット君には三ポイントを上げよう。大体の施設が地下にあるのは皆さん周知の事実だけれども、はいっ! じゃあ上にある沢山の建物は何なのかというとぉ?」
リクコは手を突き出して僕の口元に近づけてきた。きっとクイズのつもりなのだろう。
いちいち真面目に取り合っていたら時間がいくらあっても足りないが、エレベーターが到着するにはまだ暫くかかりそうなので、ノリは適当に考えて答えてみることにした。
「……張りぼて?」
「……あー、そんなことよりノリくんはさあ、目下キューちゃんのことや私たちのこと、どこまで知ってるの?」
急に真面目な顔になって真面目なことを言い出した。どうやら正解していたらしい。
「とりあえずヒトじゃないってことと、とんでもなく強いってことくらいか?」
「そう……。じゃあ――」
この世の終わりのような深刻さをはらんだ表情で言い淀むリクコに思わずノリは生唾を飲み込んだ。そして、意を決したのかこう続けた。
「キューちゃんがさ……セクハラ絶対許さない系クリーチャーなの知ってた?」
「は?」
「いや、だからさあ――基本的にボディータッチも許さないキューちゃんがおんぶしてもらってるし、抱きついてもグシャァってやらないし、どうなってるのかなあってアギャアアアアアアアアアッ! イタイイタイイタイイタイィィィ……」
捕捉できない速さでリクコの顔面に掴みかかったキューの尻尾が、その三又でキリキリと圧力をかけているのだ、とノリが知るまでに実に十秒は要した。
そうこうしていると、ピンポンとなってドアが自動的に開いた。
キューの尻尾は本体よりも感情豊か。
出会ったばかりでその辺りの機微に気付くとは、ノリは案外、振り回されているようで周りをよく見ているのです。