あんなのほっといて行こ
【前回のあらすじ】
アイアンクロー
「ノリ……あんなのほっといて行こ?」
「お、おう」
凹凸のない白い内装の壁がそれこそ延々と続いている。
証明は天井に埋め込まれていて、余分なものは徹底的に削ぎ落とされている。五分程だろうか、歩いたところで漸く突き当たりにたどり着いた。
しかし、何もない。
真っ平らな壁があるだけだ。
ノリがこれはどういうことかとリクコに問いただそうと後ろを振り返るが誰も居ない。怪訝に思ってその名を呼ぶと、いつの間に来たのか前に居て「呼んだー?」と気の抜ける声で返事をした。
先程キューに相当痛い目に合わされたというのに、何事もなかったかのようにピンピンして登場する辺り、やはり尋常ではないのだと実感させられる。
「ここはねえ、モーションセンサーで特定の動きをした後生体認証をすることで開く私の傑作セキュリティの一つ! さあ、レッツダンシンッ!」
そう言ってリクコは唐突に踊り出した。
――盆踊りを。
「ほいほい、あっそ~れ! 刮目せよ最高にご機嫌なビートを刻んでやるぜ、あっそ~れちょんちょん」
「……」
「……~れ」
最後に締めとばかりに両手を合わせ、パチンと鳴らした。
その瞬間、生体認証が働き天井から大仰な機械が現れてリクコの虹彩をスキャンした。
「認証サレタヨー、オカエリクソ愚民共」
どこからともなくリクコの声を模した音声が流れ、壁に切り込みが出現し、そうして両側に開いた。
「さささっ、私のラボへご案内」
招き入れられた部屋の中央には天井からぶら下げられた可動可能で強力な照明と、ヒト一人が横たわれる程度の長方形の台が設置せられていて、他にも幾つかの機器類が所狭しと並んでいる。
――これは、手術台?
一目でそれと分かる中央のオブジェクトにキューを乗せるように促されると、ノリはやさしく彼女を降ろした。
「……お願いします」
「ほいさ。まあ、どんな怪我でも油断していいもんじゃないんだけど……これ、別に命に関わるような怪我でもないでしょう? 時間はかかるけどキューちゃんには強力な自己再生もあるし。ねぇ、キューちゃん? ……あれぇ、シカトなの? ……あーはいはい、分かってるわよ。黙ってますよ」
「――どういう、意味だ?」
「あれ? 聞こえてた? そうね、今から服脱がすからモルモット君がキューちゃんの貧相な裸見たいなら残ってねっていうはなウヴォアッ!」
リクコが頓狂な声とともに床に叩きつけられた。キューの尻尾がリクコの脳天に重い一撃を与えたのだ。
「で、出て行きます!」
入ってきたのとは逆の壁にもう一つ扉があり、そこに居るように言われ入る。
六畳程の空間に経年劣化で変色した畳とちゃぶ台、そして机上にはバスケットの中に茶菓子がいっぱいに盛られていた――。
「はあ……なんだか調子狂うなあ」
せっかくのシリアスが台無しになってしまった。
まあいいや。




