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光の神の神子

白くほっそりとした指先がリーンゼィルの瞼を覆い、彼の視界を奪います。

それから、ナギは彼の耳元でそっと囁きました。


「…君達を見ていたけれど、

本来そこにいる赤髪は殺さないといけないはずでしょう?」


優しく包み込むような声なのに―――――

その言葉はとても冷たく殺すことを命じています。


「なのに、どうしてボクの邪魔をし お役目を放棄しているのかな?」


美しい唇が、ユナの処刑を暗に促しています。

リーンゼィルは、ただ黙ってその言葉をきいています。


「ねぇ?そうでしょ?森の守り人さん。

このまま彼を生かしていたら大切な大樹の精霊に危害を与えるよ?

その矢は生え代わりで抜けた角でつくっているのだろうから、いいだろうけどわかるだろう?

今のうちに、そこにいる化け物を」



コロシテオカナイと


薄い唇が何の感情も籠っていない声が唆します。


それで、リーンゼィルは静かに、そしてゆっくりと弓を構え、矢をつがえ項垂れているユナの方に向き直りました。



「そうだよ。

狙いを定めて、確実にね」



ほんの少し喜色ばみながら、ナギは尚もリーンゼィルに囁きます。


リーンゼィルはユナに向けて矢ギリギリまで引き絞り放ちます。


「ふふ」


ナギは笑っていましたが、矢はユナに刺さる前に突然空に向かって軌道をかえ、空高くへと登っていきました。

高く空に登った矢は空気を取り込んで、高い音色を奏でます。

森中に鏑矢の音が響き渡りましま。



それに先ほど笑っていたナギは、つまらなさそうに目を細めます。


「ふーん。

これだけいっているのに…、

君のお役目は大樹の守護のはずじゃあないの?」


不服そうにナギは腕を組みます。

リーンゼィルは、静かにナギに向き直りました。


「……光の神子…ナギ様。

あなたは相も変わらないですね。

人心を惑わして俺にこいつを殺させようとしますが、貴方は何がしたいのですか?」


碧い瞳が真っ直ぐにナギの七色の目を射抜きます。


「ん?光の御子なのがわかるのはいいとして、君は、ボクの名前を知っているんだ。

君って、ボクのこと知ってるの? 」


「えぇ、ほんの三百年程昔に、この里に来られたではありませんか。

光の神に選ばれし者を連れて 」


「……、三百年前かぁ。

どうだったかな?此の里…にねぇ…。

ボクが大地に降り立てるのは選ばれし子が大地にいるからだ。


三百年前の子か。

それなら、確か、その子より有能そうだったでしょう?」


ユナを指差しながらナギは微笑みます。



「まぁ、しんじゃったけどね。」


少し残念そうな顔をして、それでもすぐに張りついたような微笑みを浮かべます。



「でも、三百年前にボクとあったことがあると言うけれど。

ボクは君のような男の子はみたことがないけどなぁ

こんなに、いい男なら覚えていると思うんだけど?」


ナギはリーンゼィルの周りをぐるりと一週回りました。


「ナギ様…、」


リーンゼィルは、少し眉間に皺を寄せてため息をついた。

それから、大きく息を吸って


「ナギのお姉ちゃんは、もうボクを忘れたの?」


リーンゼィルのその喉から漏れた声は、先程の低い男性の声ではなく、ひどく高いボーイソプラノで彼の容姿と比べると酷く違和感があります。

ナギは驚いたような顔で目を白黒させていました。



「ひゃ……え? あれ?どこからそんな声を出したの?


いや、ナギのお姉ちゃん?

そんな呼び方はするような…

え?嘘でしょ??


リィン!??」



ナギは驚いたような、困ったような困惑したような表情でリーンゼィルを見ていました。


「たったの300年前の話です。俺だって成長しますよ」



呆れた顔でナギを見ていますが、ナギは少し思案してそれから、納得いった顔になると、穏やかな微笑みを浮かべました。



「…、そうか。

守人の一族は、時間の流れが他とは異なるんだっけ。

ごめんごめん、忘れていたよ」


いや…。それでもこの子の成長速度は遅すぎる。

300年も生きればすでに壮年の姿になるはずだ。

なのに、リィンは若すぎる。


それに普通の守り人よりずっと小柄だ。

………確か名前の思い出せないあの人もこんな感じだったな。



「それで、ナギのお姉ちゃんはまだやるの?」


そんなことを考えているナギに構わずリーンゼィルは、彼女を睨みます。

それを、見てナギはリーンゼィルの殺気に一瞬だけ悲しそうな顔をしました。それから、降参するように両手をあげました。


「はぁ、もう仕方ないな。だだっ子リィンに免じて

ユナ、ほら」


彼女が腕を広げ先程までなかった背中に翼が生え、

彼女が羽を広げるとユナから黒いものが霧散します。



「傷が…ユナの傷がなくなっていく」


ナギは指をならすと、ユナの傷は消ゴムで消すように消えてしまいました。



「やれやれだよ。

最初から怪我なんてしてない、今さっきのは、全て幻影。

でも、この子がいつかこうなる可能性があることは変わらない。

その身にニーチェを宿しているのは変わらないのだから」


「………ナギ様。どうしてこんなことを…、」


「試しの儀だよ。選ばれし子は、必ず自分の負の部分を見てそして、乗り越えられるかを試される。

ずっと昔からさ。

なのに、あーあ、ボクの試練がぁ、ぶち壊されちゃった。

きみのせいで、台無しだよ」




「……」


ふざけるナギをよそにリーンゼィルは少し思案している表情でどこかをみていました。


「本当にもう、ボクはこの子に試練を与えなきゃいけないのに君がぶち壊しにしたんだ。」


「いや、試練というより本気で殺しに行ったでしょ」


「それは、当たり前だよ。

幻影とはいえ心と身体は密接に繋がっている。

彼が死んだ。と思えば間違いなく死んでいたさ。

その程度の人間なら向いていない。

死なせてあげる方がよっぽど親切だ」


「それでも、光の神が天啓をくだした子でしょう?

だから、貴方が降りてこられた。

なら、貴方が導かねばならないのになぜ!」


「導かねばならない?

そうだね。でもね。

僕だって相手を選ぶ権利ってのがあるんじゃないかな?

世界を救う希望の光なら、この程度の試練乗り越えなくちゃだめだよね?」


ナギは強く光を放つとまた姿を変えました。


「僕はさぁ、このお遊びにいい加減。飽き飽きしているんだ。

そろそろ誰かが、クリアしてくれないと困るんだ。

なのに、こんなにもか弱い子供に天啓が下った。

はっきり言って希望がない。

それなら、早く君が終わってくれれば、次の人にバトンタッチ出来るだろう?」


ナギはそう言って微笑みました。

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