最終話
「これを見越して、私はチハヤさんにそういう能力を付与したんですよ……」とか天使が平然とほざいた。
「ぶっ飛ばすぞ。何も考えていなかったくせに」
「はあ?チハヤさんこそ裏切って吸血鬼側に付こうとしたくせに堂々と私をせめられますよねえ」
「はあ?殺すぞ。俺をボールみたいに投げ上がって全然赦せないぞ?」
「だから、それは計画で……」
「偶々だろ」
「違う。違いますううう」
「あ?」
「あ?」
ばちばちと火花が散った。次のはた迷惑な戦いが始まろうとしていた。
そうするとイプシロンがこちらに近寄ってきて、「あの。この吸血鬼さん…?をどうしますか?」と尋ねて来た。
「あ、そうですね。ああ……。どうしましょう?」
「なんかそこらへんに捨てとけば?」
「あー。どっか吊るす?ほら、町とかどっか目に入るところに吊るして、こいつは吸血鬼でこの町の人間と建物をぐちゃぐちゃにした犯人ですと住民に石を投げさせるのはどうですか?」
「お前……。それはなんか最悪だろ?」
「創造主様。それはないんじゃない?」
「なんで二人そう言うの?悲しいじゃないか?」
「頭おかしいやん?俺も流石にそこまで非人道的ではない」
「な、何を…。全然、天使だけど。余裕で天使だけど?」
「馬鹿じゃないか?お前は中身は悪魔だよ。天使であっても週末のラッパを吹いた天使じゃないんか?」
「いや……。違う……と思う。ラッパは嗜んでいたけども…絶対違う…」
あれ?なんかこの世界の心理を突いてしまったかもしれない。ただ間違いで世界が滅んだ説があったかもしれない。
「うん違うわ」と天使は無理に納得させたけど、俺は確信に変わりつつあった。
疑いの目だけ向けておく。
「じゃあチハヤさんが考えてくださいよ」
「うーん。えーと?吸血鬼は俺を奴隷にしようとしたから、俺の専属の奴隷にでも……」
「うっわ」「うっわ」
二人とも最悪な目で見る。俺を人として見てはくれないようだ。
「俺が引き取るか」
「無理ですよ。創造主様に誓って無理ですよ」と言いながらイプシロンはすでに吸血鬼を担ぐ体勢を取っていた。
しかし、イプシロンは女性で女性らしい華奢な体躯をしていたので担ぐに担げなかった。
「私はどうでもいいし…。ねえ」とさっきまで俺に奇異な目線を向けた天使は嫌そうな眼をした。
「本当に無慈悲じゃねえか。俺が担ぐ」
「ああ」とイプシロンが不満気な顔を見せたが、結局俺が担がないと、イプシロンが足を持って引きずるから吸血鬼がぼこぼこになってしまう。
進んで俺が担いだ。成人女性ぐらい面積があるが、体重は中学生程度な気がする。
ぽーん。ぽーんと吸血鬼を宙に投げる。
「あ、あのさあ。そんな気楽に遊んでいるけど……ちょっと見て欲しい。後ろ」
さっきまでわちゃわちゃとしている天使は顔面蒼白状態だった。
クルリと恐る恐る後ろを振り返る。
「えー。我々シリアレンタ警察である。吸血鬼は投降を願います。投降していただけないのなら、十秒後に全勢力を持って戦闘態勢に入ります」
メガホンで大勢が取り囲みそう促す。
え、え、ええ。あれ?
「あの。私全然……。吸血鬼ではないんですが……」と天使は手を挙げる。
『吸血鬼なんて見え透いた嘘つかないでください。居るのは分かっているんです。投降はしないつもりですか』
「あ、あれ?天使?何にも耳に入っていないんがあの人」
「そう……だな。ということはまずい…じゃないですか…。あ、でも……チハヤさんだけですよね。チハヤさんがこの事件の元凶だったよね。と、言うことは貴方が監獄に逆戻りでいいじゃないんですか」
「は?その時はお前も同じだな。旅は道連れ世は情けだろ?」
「心の支えがなくても、旅は出来ます。旅で死んでください」
「てえめえ。お前が行けよ」
「なんですか。ぶち殺しますよ?」
俺らは襟元に手を伸ばす。やっぱり所かまわず喧嘩をしてしまう。
『そして、そこの喧嘩している男女。大人しく投降を願います。貴方たちは脱獄した容疑をかけられています』
「クソスパイー」とゴミみたいな野次を向ける奴もいるが、そういえば、俺らは逃亡している最中ということを思い出させた。
「なあ。そこの男はチハヤさんのことでしょう。でも、そこの女は私じゃなくてイプシロンかもしれないじゃないですか?」
「そこの喧嘩している男女って言われているだろ」
「いやいや。そんなこと聞き取れてません」
「お前の耳のフィルターは都合のいいことしか貫通しないのか?」
「そりゃそうでしょ」
あ、終わっている。そんな言葉を仮に元天使の立場から言っているのだとしたら、最悪だ。裁判しているとき都合の良いことしか聞こえていないってことでしょう?流石に最悪だ。
ただの自己中ゴミ野郎だ。
『えーとやっぱり喧嘩している男女のお二人。夫婦喧嘩をしていないで大人しく投降してください』と少し怒りを感じさせる口調で言い放った。
それに対して怒った人はいた。
「はああ?殺すぞお。地獄より地獄です」と天使は言った。
天使だろうから地獄もこの目で見た事あるはずなのに、地獄よりも酷いと形容するのは傷つく。
あれ。というか天使はそっちの方向に向かっている。投降するわけでもなく、拳を握っている。
「や、やめてください。我が創造主様」とイプシロンは両腕を掴んで止める。
「付き合う以前に親友すら、友達にもなれない。そんな奴と夫婦にするとかこいつら無神経過ぎる」
「ええー。でも、ヤるだけならいいよ?顔は良いから」と俺は言った。
「おおおおえええええええ」
天使が吐いた。
「殺すぞおおおお。私の全力を出して始末してやるうううううう」
「おい。なんだよ。ここから逃亡することが第一だろ」
「そんなはない。お前を殺せば、いいんだよ。そうだ。こんな人間を生んだこの星を壊せば……」
「おいおい。この星はなんも悪いことしてねえよ」
「ははははははははっは」
こいつ狂ったな。どうしよう。コントロールできないからどうしようもできないですけど。
そうすると、危機を感じたイプシロンは「後ろの方に海があります。そこに飛び込んでどっか泳げば何とかなります……。多分」と言った。
た、多分…?という不安な言葉があったが、こいつちゃんと会話出来たら滅茶苦茶役に立つキャラだろ。でも話してくれないから無能。能ある鷹は爪を隠すも一生見せなきゃ無能だよ。
さあ。その無能の言葉に俺は縋る。
俺はそれ以外の良案を全く思いつきやしない。
俺は頷く前にその言葉に従った。
「おらああ」と俺は海へ飛び込んだ。
どぷん。
「指名手配犯は逃げた。追ええええええ。追ええええええ」
指揮官みたいなやつがそうやって誘導している。
わちゃわちゃと人が流れてくる。それはほぼ海の真ん前まで。
でも、彼らは、そこで前に進むことを躊躇っていた。眼前が海で進むやつなどいなかった。
俺らみたいに切羽詰まってる人たち意外いない。
「あぶ、あぶぶぶぶぶ。ヤバい。この吸血鬼重すぎる。溺れる。溺れてしまう」
「ははは。苦しんでる。苦しんでる」
クソ悪魔め。
天使が上から目線で羽を広げ、海面から数メートル上で嘲る。
「降りてこい。このクソ野郎」
「ははは。最高ですよ。ゴミ野郎をこうやって眺めてらてるのは」
「あーはははは」と天使はもっと笑っている。このクソが。挑発すればするほどこうやって煽る。優位な立場になればそうなるのやめて欲しい。
イプシロンがまたやっていると微笑ましく見ている。ぼーとしている彼女は急に口を開いた。
「と、言うかあれじゃないんですか?吸血鬼って流水が駄目なんじゃないんですか?そんなひたひたにつけて大丈夫なんですか?」
「え…?」
は?そうなの?いや、なんか聞いたことあるような話なんだが……。
俺は背負っているものを振り返ってみる。
しおしおに萎れた吸血鬼があった。目が白目向いていた。死にそうな感じではあった。
「吸血鬼いいいいいいいい」
「まあ。良いんじゃない?殺そうとしていたわけだしさあ。海にでも捨てとけば?」と天使はどうでもよさそうに言っていた。
「創造主様がいうならそうでしょう」とイプシロンは言った。
これだから狂信者は困る。
「駄目だ。可愛いから俺の嫁にする」
「うわあああ」
またえずく動作をした。
「うわああで良いから、まあ、ほらさっさと海から引き揚げろや。天使。天使なんだろ平等に助けろよ」
「え、ええ…。まあ。言われたら平等に助けますよ。天使だからね。引き揚げますよ」と渋々引き上げた。
「うわ。重すぎる。水が染みて……。やっぱり捨てていいですか?」
「だ、駄目だろ。お前を沈めるぞ」
「それなら私が貴方を沈めます」とイプシロンが言った。
誰がどうしても、沈められそうだった。
ははっ最悪だ……。
「うっあっ……。ちょ、ま、って」
「なんですかチハヤさん」
「釣った。長年、泳いでないから釣ったんだけれど」
「知らない」
「右に同じく」
「あああ。助けろおおお。ああああ」
ぶくぶくっと沈んでいく。
俺はこいつらとこの先大丈夫だろうか。いや大丈夫じゃない。
俺は早く元の世界に帰りたいと密かに決意した。




