十二話
俺は近づいて見渡してみる。主要幹線ではないようだが、大きめな道路であった。
「なんだ?お前にはマップ搭載なのか?」
俺はただこいつは適当にがむしゃらに遮二無二に走っているだけなのかと思ったのだがどうやら違うらしい。
「ふふふ。チハヤさんやっと私をお認めになられますか。あははは。私は天才なのですよ」
「煽ってんのか?天災」
「いいや」
ムカつく表情で彼女は否定した。
「で、ここはどこなんだ?」
「さあ。分かりませんよ。帝都の外で追手がこないことなら分かりますよ?」
「俺だって分かることだ」
馬鹿にしているのか?
「あ、あそこに看板があるじゃないですか。言ってくださいよ」
彼女は見つけるや否や駆け寄っていく。
未知の言語だ。全く読めない。が、アルファベットみたいな文字体系であることは推測できた。Lっぽい文字やОっぽい文字がある。
「えっと。中央ロイジア州って書いてありますね」
「読めるんか?」
「ええ。天使を舐めないでください」
あまねく言語も対応可能であらゆる文字も対応可能だとか、マルチリンガルの極みじゃないか。
天使が初めて羨ましいという存在になった。
「なんだっけ。中央…なんとか州はどこなんだ?」
「中央ロイジア州です」
結局名前を言われたところでこの国の形、ないしはこの世界の形を俺は認識していない。
北マケドニアのスコピエと言われたところで何が何だかさっぱりな人が多い様に。
「帝都に接している土地だったはずですよ。多分……」
「多分って」
お前はマップ搭載ではないのか?なら疑問形はやめろ。知っていると豪語する友達が、俺の見知らぬ土地で地図に迷うぐらい不安だ。
「だって。天界の銀河地理なんて範囲が莫大で、一個、一個覚えてらんねえんですよ。取り敢えずなんか適当に行けば何とかなるんですよ」
「はあ。使えない」
「使えているじゃあないですか。私が示した場所は百発百中。道があるじゃないですか」
「道に迷い続ける異世界ものを俺は知らないのだが」
「確かに……。いや、じゃあ。今は異世界もののテンプレートな進捗具合と言うことなんでしょう」
「はあ!?殺すぞ。アイツらに追われるは、まともな能力使えないは、全くもって良くないだろがああよああ」
「私がいるじゃないですか。完璧超人、美人の私が十分でしょう」
なんの悪びれなく言う。
「胸はない」
「はあああああ。殺しますよ。チハヤさあん。それは許せないことだと思いますねえ」
「はいはい。でも、美人だとか今の状況に全く必要ないよな?」
「まあ~。言われればあ……」
「何でもいいから俺を楽させる能力とかないのかあ」
「何を言い出すかと思えば……。私だって楽させて欲しいのですよおおお」
子供のような喚き散らす天使。流石の俺でもドン引きである。
養って欲しいと希望の二人。どうしようも生活と言うのが成り立つような性格をしている気がしない。このまま何もせずに野垂れ死にする可能性が十分にあり得る。
「恥ずかしいからいい加減にしろよ」
「まあ。恥ずかしい?天使を見ているんですよ?神々しいでしょう?」
この期に及んで天使の名をまだ語る不届き者らしい。
「痛々しい」
「ムカ」
「言葉で怒りを表現したって俺の評価は一ミリたりとも変わらんからな」
「わかってますよ」
「こんなバカなことをしてないで、今後の方針を立てた方がいい気がする」
「でもここ数日間適当にぶつかり合いながらなんだかんだで来ました」
「だから何だと言うんだ」
今から数日間の振り返りに託けてダイジェストにお前の無能さを証明でもするのか?
「いや、今まで上手くいったからもう適当でよくないですか?」
「よくないだろおおお。馬鹿なのか?」
今までとか言うんならもう少しサンプル数が増えてから言え。じゃないとその言葉は机上の空論よりも詰めが甘い。
「冗談ですよ……。ホントに」
その言い草から冗談に捉えられないのだが。しかし、俺が言ったことによって改められたのなら幸いだ。
「どうすんの?これから。地理感覚がないからなにも俺からでは何も提案は出せないが……元の世界に帰れるなら一番いい」
「却下」
一瞬で蹴られてしまった。
「言って置いて丸投げですか。責任感の欠片も持ち合わせていないんですね」
「案は出しただろ。それにそれ以外は地理感覚ないって言っとるだろ。お前あれか?セントクリストファーネイビスの世界遺産言えんのかよ」
「ブリムストーンヒル要塞国立公園」
「なんで知ってんだよ」
馬鹿なのか使えるのか分からんくなっただろ。出しておきながら俺は知らなかったし。
「まあ。チハヤさん元より使えないし、犯罪者であることは知ってましたので、全然驚きはしないですが」
棘しかない。
「私が決めてあげましょう。適当に。えーと。他国に脱出とか?」
まあ。出ると思った。そうする他に道はないと思っていた。
この様子だと俺らは確実に帝国に全国指名手配となっていることだろう。小心者にこの仕打ちは重過ぎる。
「どのルートがある」
俺は乗り気で聞いた。適当な指示ししかしない天使だが、訊いておいて損はないだろう。
「二つありますね。私のこの世界の知識的に」
「二つすか」
「このまま陸路でこの帝国を縦断してなんだっけ……ああそうそうシリアレンタという町があってそこがこの帝国最大の港で別の大陸とかとにかく遠くに逃げられる可能性があった筈です」
「ほお」
アニメに見る大脱出ってわけか。別の大陸がどんなところなのか全く知らないけれども。
「もう一つは隣国の王国に逃げるという案ですね。そこは陸路なので国境警備隊が居たような記憶があるので突破が難しそうですけど……」
ほうほう。どちらも魅力的な案である。でも、その案の実現性はどうなのだろうか。
「距離はどうなんだ?」
「えーと。シリアレンタは四百キロ程度で、王国は四百五十キロですね」
「前の地獄の六十キロの比じゃないだろがあああ」
「およそ十倍ですね。ちなみに東京大阪間が五百キロ程度です」
「ふ、ふざけてんのかああ」
俺は間髪入れることなく天使の胸倉を摑み脳震盪を引き起こすぐらいには揺さぶった。揺さぶりすぎて、彼女は吹っ飛んで行った。
「おええ。おええ。嘔吐しちゃいますよお。やめてくださいよ」
天使は立ち上がった。気持ち悪そうにしているから、いつも通りの反抗はしなかった。これが答えか。
「やめろって?お前の方だろ。どんだけ俺の足を壊したら済むんだ?」
まだ、痛いんだぞ?ホント……。
「いや、大丈夫でしょう?江戸時代の飛脚は東京大阪間三日ですよ?」
ヘラヘラしながら天使はそうほざいた。もともと切れに切れていたが、火に油…どころではなく火に爆発物を放り込むような仕草だ。
「てめえ。そんなもんと比べてどうすんだ」
「人間でもそれだけ行けるんですよ?なら大丈夫じゃないですか」
「お前やっぱ人間舐めてるわ。いや、期待し過ぎている?違うしっかりとしたいい定規を持っていないんだ。天使基準で何でも間でも考えるな阿保」
「でもお、でも、他に選択肢あるんですか?ないでしょお。あるんだったら頭ごなしに否定しないよねえ」
ハハハと嘲笑う声が聞こえそうだ。
こいつ煽る方法が正論になって来た。痛い感じだ。
にやにやしながらこちらを見ている。うぜええ。
「まああ。そうだな……。うん」
俺は仕方がないのであやふやに肯定しておいた。
そしたら彼女は勝ち誇ったかのようににやにやを強めた。死ねばいいのにと思った。
「じゃあどちらか選んでくださいな」
ここで選択を俺に任せるか。選んだらちゃんと歩けと言うことだろう。なら何としても天使に選んでもらった方がいい。
「天使はどっちがいいんだ?」
「私?私はどちらでも……ですけど、チハヤさんがなんか文句言うから選ばせてあげようかと」
「大分上から目線で選ぶ気もないが」
「はあ。じゃあ私が選んであげましょう。えっとですね。どちらにしようかな天の神様の言う通り」と指を動かして適当に決めるつもりだ。というか天使が天の神様の言う通りとそのままの意味に聞こえてとても面白いと思った。
「はい。決まりました」
「どっちなんだ?」
「帝国を縦断するシリアレンタにいるルートですね」
「まあ。そう決まったとて俺にはどこに行くのか分からないが」
「この道を道なりですよ。ほとんど」
「そうか。じゃあ。行こうか。はよ行かな。日が暮れる」
「どっちみち一日ではつかないですけどね」
「早い方がいい。全国指名手配でもされてるだろうから」
「それもそうだな。出発ううう」
天使は腕を空高く上げた。まるで、ピクニック。逃避行などという言葉を知らなさそうな無邪気さ。まあ俺にはそっちの方が似合っているだろう。




