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42話

 その昔、エマ先生のお姉様は伯爵のお父様と結婚の約束をしていたという。しかし先生のご両親は権力志向が強く、侯爵家からきていた縁談を勝手に決めてしまわれた。そんな時、先生のお姉様は今のラナウド伯爵を身籠っているのがわかり、侯爵家に断りを申し出たが、容姿端麗のシャルロット様を諦めきれなかった侯爵が周りの反対を押し切って生まれた赤ちゃんをその恋人であった伯爵のお父様に預け、半ば強引にシャルロット様を奪ったという。そしてそれをエマ先生のご両親は止めるどころか歓迎してしまった。どんなにラナウド伯爵(当時の)が、力を尽くしてもどうすることも出来なかったという。

 その後、婚姻したものの、シャルロット様に飽きておまけに『子供を産んだ女なんて』と言って、侯爵は愛人を作り、遊び回っていたので、シャルロット様は実家に戻り、ご両親に婚姻無効にして欲しいと説得していた矢先に、当時猛威を振るっていた黒死病という流行病で呆気なく亡くなられたという。そしてそれはご両親にも感染してしまい、同じように亡くなられたそうだ。

 その後、エマ先生は何かを決心したかのように、私に驚くべき事実を話された。


 ちょうど同じような時期に先生自身にも恋人がいて、その方は平民だった為、当然ご両親は認めるはずがなかったので、駆け落ちをするつもりで家を出ていたという。

 そしてその後妊娠をして、これからという時にその方も同じ流行病で命を落とされてしまい、大きなお腹を抱え路頭に迷っていた時、私の母の親友だったエマ先生は、私の母と父の勧めで一緒に暮らすことになった。

 ちょうど同じく妊娠していた母と、子供が生まれるのを楽しみにしていたという。

 そしてエマ先生が先に赤ちゃんを授かり、その一週間後に母のお産が始まったが、かなりの難産で母も赤ちゃんも二人共助からなかった、と聞いた瞬間、私は「?」となった。

「どういうことですか?」

 と尋ねると、エマ先生は

「貴方は私の娘なの」

 と言われた。まだ頭が混乱している私に、エマ先生は続けた。

「亡くなる寸前に、私の産んだ赤ちゃんを自分達の子供として育ててほしいと自分の夫に頼んでくれたの。そして私に対して、『女が一人で子供を育てることは大変なことだし、子供の将来も考えてあげて』と言って息を引き取ってしまわれたの」

 ここで私は頭を整理して考えた。

 つまり、私は育ててくれた父とは何の血の繋がりもないということ? だけど、本当の娘のように、とても大切にしてくれていたわ。

 それからエマ先生は、父が同時に妻と子供を失って失意のどん底だった時に

『妻に託された赤ちゃんを自分の実の子供として育てていきたい』

 と仰ってくれた、と言った。そして先生には

『会いたい時にいつでも来るといい』

 と言って

『君はまだ若い、第二の人生を歩みなさい』

 と言ってくれたという。

 そうして実家に戻り、今の息子さんのお父様であるルイノール子爵との縁談を、その時はまだ健在だったご両親から持ちかけられたという。

 ルイノール子爵は手広く事業もなさっていて、たとえ子爵でも資金力があったので、ご両親はその話に喜んで飛びついたという。しかしエマ先生は、子爵はとっても優しい方で嘘はつきたくないと真実を話したが、子爵はそれでも構わないと言ってくれたそうだ。

 それを聞いた私は、ルイノール子爵と私を育ててくれた父が親友だったのではなく、母同士が親友だったことを初めて知った。そして納得した。先生が私の家庭教師となってくれたことを。

 ということは先生のご子息と私は異父姉弟ということだ。でもご子息は何も知らないという。私に対しても生涯話すつもりはなかったが、ただあまりにもあの肖像画が私と生き写しだったので今更隠すことはできないと思われたという。

『確かにそっくりだわ』

 と思った。

 伯爵のお父様は懐かしそうに私をみつめながら

「実の母よりその姉妹に似てるのですな」

 と呟いた。そして

「本当に不思議なご縁ですな」

 と仰った。そして伯爵は私に

「つまり私達は従兄妹ということになるのか」

 と言った。確かにそうなる。だけど私の頭の中は混乱していた。


 エマ先生は当時は自分のことで精一杯だったので、姉であるシャルロット様のことを気にかける余裕がなかったとも仰った。そして実の父親に引き取られ、その方の身分も知っていたので安心もしていたという。

 そして私には、今まで隠していて本当にごめんなさい、母親らしいこともできなかったと謝られた。でも私は

「今までずっとそばで見守ってくれていました」

 と笑顔で返した。だって本当にいつだって私のことを気にかけてくれてたことを知っているから。

 エマ先生を責める気なんてあるわけがない。

 その後、もう一つの事実も明かされ、私はまたもや驚かされた。

 それは私の実の父が小説家で、私が作家を目指すきっかけを作ってくれた小説の作者である〈ジャン・ポール・サルドン〉その人だったのだ。そしてふと思い出した。確か殿下も影響を受けた作家さんだと言っていたことを。

 本当に今日は一日中驚かされることばかりだった。そして驚いたのはラナウド伯爵やそのお父様も同様で真実を全て知った私たちはなんだか新しい家族が増えたような温かな気持ちになれた。


 私達は帰りの馬車の中でも色々と過去の話しをしながら帰った。

 そして思った、エマ先生のことをこれからどう呼ぶべきかと。

 正直に思っていることを聞くと

「母親らしいこともしてこなかったのに今更お母様はないわ。いつものように呼んでくれればいいのよ」

 と答えてくれた。でも私はずっと母のように感じていたことを伝えた。だってあの侯爵に復讐のようなことをしてくれたのだって私を思ってのことだと知っているのだから。


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