40話
その後、陛下は民衆の平和運動を収めるため、一度は覆ることはないと言った税制改革をあっさりと廃案にした。そして次なる策を講じるため、貴族や教会関係者を召集した。しかし、皆一様に戦争そのものに反対した。
これだけ大規模な平和運動、反戦運動が各地で行われては無理もない。たとえ戦争になったとしても、徴兵に応じない民衆がどれだけいるのか予想もつかない。それにもし無理やり徴兵しても、決して士気は上がらないのは目に見えていた。
よって、さすがの陛下も今回は諦めざるを得なかった。
だが、心の中では機会を狙い、領土拡大を常に視野に入れていた。
しかし、その裏で、南の隣国と北に位置する隣国が、我が国、つまりは陛下ではなく王弟殿下と手を結ぶことになるとは、この時の陛下は全く思いもしなかっただろう。
今回の件で王妃様も、いつかは自分の生まれ育った国にも被害が及ぶのではないかと危惧し、秘密裏に今回のことを実の父である北の国王に報告していた。それらは全て殿下の思惑で動いていた。
北の隣国も南の隣国も、陛下のことは即位直後からずっと警戒をしていたという。
なぜなら、己の欲望のためならば実の父であった国王でさえも暗殺してしまう冷血な人間としか見られていなかったからだ。
もちろん、証拠こそなかったが、それぞれの国はスパイを送り込んで、とことん調べさせていた。それにより、限りなく黒に近い暗殺だと推察されていた。
殿下は時を見て、王妃様に『家族が病に倒れた』と言って国に帰るよう進言したと言う。
王妃様は二つ返事で了承した。
それは誰よりも王妃様自身が望んでいたことだった。
陛下は王妃様に子供ができないことを言い訳にして堂々と愛妾を持ち、今回の戦争もその愛妾に唆されたとも言われていた。そして時にはその愛妾が堂々と議会へも顔を出し、政治にも関わるようになり、王妃様の立場は危ういものとなっていた。
それから三か月後、王妃様は陛下に、次期国王となる兄が病に倒れたと北の隣国から使者が来たので一時帰国する旨を伝え、使者と共に帰還した。
全ては殿下と両隣国の思惑通りに進められていた。両隣国の陣営は秘密裏に国王を落とすだけの目的で我が国に攻め入る手筈になっていた。
それから二週間後、ついに北と南の隣国が同時に攻めてきて国境を越え、先陣が王都へ向かっていると辺境伯領から早馬が来た。それを聞いた陛下は近衛兵たちに城を守らせ、大臣は王弟殿下を血眼になって探した。
両陣営に囲まれてしまっては、わずかな数の近衛兵たちが敵うはずもなく、城はあっさりと落とされてしまった。
そして頃合いを見て殿下が陛下の前に現れ、両隣国の総大将との話し合いになった。
両総大将は自国の王令を伝えた。
『現国王が退き、王弟殿下が国王となり、絶対王政から立憲君主制を貫くならこのまま兵を引こう』
それを聞いた国王は憮然とした表情で言った。
「そんなもの、認めるわけにはいかん!」
全く、自分の立場もわきまえずに叫んでいる。すると両総大将が最後の通達を下した。
「では、このままここで命を落とすことになるが、それでよろしいな」
すると国王は殿下に向かって叫んだ。
「お、おぬし、我を謀ったな!」
「私の両親を殺しておいて、よくそんなことが言えるな!」
殿下が怒鳴ると一瞬怯んだが
「どこにそんな証拠があるのだ」
「もう証拠など必要ない。誰しもが知っている事実だ」
両隣国の総大将と、殿下に詰め寄られた国王には、従うしか道はなかった。
国王派の貴族達でさえ本心では戦争には反対だったので逆らう者は誰一人として存在しなかった。
その後、国王は北にある塔に幽閉されることになり、王弟殿下が次期国王となった。
『国王は君臨すれども統治せず』の原則のもと、実質的な権力は議会にあるとした。それにより新国王は、議会のメンバーは国民が選挙によって選ぶと宣言をした。
そしてその後、三国での平和同盟が結ばれ、殿下はあくまで、国王は国の象徴であるが、行政や政治の役割は担わないとしたのだった。
結果的に今回の件は、大きな犠牲も出さずに収束できた。
国民は戦争推進派の国王が退き平和主義の王弟殿下が次期国王となったことを大いに歓迎した。




