032:予選を終えて
通路の最奥でグレイウルフ2体、ゴブリン4体を討伐を終えた後、ここまでの道のりを引き返して通路の入り口にまで戻ることにする。
今来た通路を戻るだけなので、警戒は薄目の移動に切り替えスピード重視で移動を行ったため、最奥へ到達するよりも短い時間で分岐点まで戻ることができた。もちろんこの間、予想通り魔物と遭遇することもなく到達している。
ここからは、他のパーティーが向かったB1へと通じる通路へと向かうので、この分岐点にまで戻るのと同様に、魔物との遭遇は少ないと思われる。
念のため警戒しながら進んでいくが、既に通過していったパーティーが魔物を倒し去った状態なので、予想通り次の分岐点に到達するまで魔物との遭遇は皆無だった。
「少し慎重になりすぎたかな。分岐点からここまで全く魔物との遭遇がなかったことを考えると、もう少し警戒態勢を緩めてもよかったか?」
「だからってダッシュとかやめてよね」
「時間にはまだ余裕がございますので、わたくし達の行動理念をわざわざ崩す必要はないかと」
「だねー」
魔物との遭遇や、他のトラブルもなく次の分岐点になる地点に到達する。
ここは突き当たりのT字路になっていて、この分岐点を左折して進むと更にT字路になっていて、直進すると行き止まり、右折し道なりに進んでいけば、長い道のりの後に下層へと続く階段に到着する。
それとは逆に右折すると、長い道のりが続いた後に行き止まりとなるが、その長い道のりの途中に魔物が生息するのは確実で、間違いなく何回か魔物のグループとの遭遇は必至だ。
とりあえず侵入前に、この場で一度武器の確認を行おうとしよう。
オレが携帯している魔銃化した二十式小銃のグレネードへの魔力充填は、射撃をした後すぐに行ったので問題ない。グレネードしか使用していないので、魔銃の弾丸用魔力重点も問題なし。
ここまでの魔物討伐は、アネゴとミクが受け持っていたので、消費した弾確認と消費分の充填をこの場で確認し実施してもらう。
「うん。念のためチャージするね」
「おけまるー。チャージ!」
アネゴ、わざわざ口にしてチャージって……。グリップ下のマガジン下部に触れながら魔力流入を念じれば、魔力がチャージされるとレクチャーしたにもかかわらずわざわざ詠唱にたいなことをするなんて、アネゴってば絶対楽しんでるよな! まあ、アネゴ的にはテンションあげあげなのかもしれんけど。
「ヒメの方も大丈夫?」
「はい。わたくしは最初の戦闘の時に、若干魔力を消費しただけですので、この後数回程度であれば、皆さんが瀕死になった状態でも回復させることは可能です」
例え話が怖いけど、まあ問題なさそうだな。じゃあ、奥へと進んでいくか。
☆☆☆
そのころ、ダンジョン内を配信している会場では、かなりの盛り上がりを見せていた。
川越ダンジョンを主戦場にしている『聖女様』が参加している『黄昏の月《トワイライトムーン》』が、現時点でトップに躍り出ているのだ。
パーティーに聖女様が所属しているということで少しは注目されてはいたが、無名のパーティーである『黄昏の月《トワイライトムーン》』がここまで躍進するとは思われていなかったにもかかわらず、ここまでの結果で思った以上の盛り上がり見せていた。
『予選第四グループの三チームが挙ってダンジョンの下部へと向かう中、唯一別な行動を示すトワイライトムーン! 今のところその狙いが当たり、ついについに! トップに躍り出ましたーーーーーー』
川越繋がりの人物を中心に煽ることで、会場のボルテージを最高潮まで引き立てようと試み、それは十二分な成果となっている。
場内アナウンスに、会場のテンションは一気に盛り上がり最高潮の歓声が響き渡る。その中で、見るからに地味な容貌の高校生二人組が、比較的冷静に観戦していた……。
「さすが輝くんたちのチームですね。こんな時でもただ勝利を目指すだけではなく、チームを向上するために様々な試みをしているようですね。オニクくんはお分かりになりますか」
「ほんの少しだけ……。輝くんがとどめを刺さないのは、その一つなんでしょうかね」
どこまで理解しているのか分からないが、クラスメートの二人には輝が何をしようとしているのか、なんとなくは気が付いているようだ。だが、浅慮な思考の人間も会場に存在している。同じくクラスメートの黒原だ。
「あいつ、相変わらず女に寄生するしか能がないのな! 両脇と後ろに女を侍らして、自分では何にもしてないんだからな!」
これ見よがしに大声を上げて、黒原チームのスペースでパーティーメンバー同士騒ぎ立てている。
「ホントっすよね。天真のヤツ情けねぇー」
「このダンジョンまつり決勝で、ヤツの化けの皮を剥いで、紅月ちゃんや千堂さんの目を覚まさせて、絶対こっちに引きこんでやんぜ。お前ら、気合入れてけよ!」
「「「任せてください!」」」
バカ騒ぎする『堕天使の翼』が陣取っているスペースの隣エリアに座る『赤城サンブレイク』のリーダーは、黒原達のやり取りを冷ややかに観察している。
(こいつらアホ揃いだな。よく決勝に残れたもんだ。あのチームのリーダーが何をしているのか、全く見えていないのか……。『黄昏の月《トワイライトムーン》』が最大のライバルなりそうだな……)
モニターには、準備を終えてダンジョン通路奥へと向かおうとする輝たち『黄昏の月《トワイライトムーン》』のメンバーが映し出される。
『いよいよ『黄昏の月《トワイライトムーン》』は、奥へと向かっていくようです。ここからは、しばらくの間『黄昏の月《トワイライトムーン》』を注視していきましょう!!』
☆☆☆
右折した通路を警戒しながら進んでいく。その通路は緩やかに右側へと曲がっているため、数メートル先以上先までしか見えず、視覚だけではなく聴覚も意識しながら移動を行う。
分岐点から三〜四十メートルほど進んだところだろうか。オレはそこで若干の異変を感じた。
「全員停止。右側を警戒。おそらく二足歩行の魔物!」
オレの声に合わせて、オレ、アネゴ、ミクが魔銃を構え、後方でヒメが警戒する。
お馴染み攻撃パターンAだ。
ただし、今回オレは攻撃に参加しない。攻撃対象がゴブリンだった場合、攻撃力が低いグレネードでも命中するとゴブリンを倒しかねない。自分が倒してしまうと、討伐時のドロップ品によっては目立ってしまう。
ゴブリンを倒して魔石のドロップが【魔石+2】とか、目立つことこの上ないからな。
「魔物は恐らくゴブリン。少数なので攻撃はアネゴとミクに任せる!」
「「了」」
そのやり取りから間髪入れずに二匹の魔物が現れる。予想通りゴブリンだ。
向かって右側のゴブリンは右側配置のミクが、左側のゴブリンは左側配置のアネゴが、それぞれ攻撃し、どちらのゴブリンも初撃で討伐する。これで、合計十四匹目の魔物を討伐。
ホッと一息つくミク。緊張が続く中、ゴブリンを討伐して集中力が途切れたタイミングで、もい一匹のゴブリンが飛び出してきた。
物陰に隠れていたのか、本来は三匹のゴブリンの群れで、さっきの群れのうちの一匹が出遅れたのかは分からないが、最悪のタイミングでの遭遇になってしまった。
「きゃっ」
叫び声を上げながらも、ミクは魔銃を構えゴブリンを狙うが、焦っているためかゴブリンには当たらない。
三発ほどが地面に着弾してからダンジョン内に跳弾していく。
アネゴも咄嗟に照準をそのゴブリンに合わせようとするが、慌てて外側へと向けて併せる照準がうまくいかず、二発ほど引き金を引くが、ほぼめくら撃ちになってしまい命中には至らない。
その状況を見て、オレは二十式小銃で照準を合わせトリガーを絞る。
外した時を考え、念のため三点バーストだ。
三発の魔弾を射撃すると、三発ともがゴブリンに命中し、ゴブリン消滅と共に魔石がドロップする……。
あー、やっちまった……。
ゴブリンは無事討伐して計十五匹目を討伐したんだけど、【魔石+2】をドロップさせてしまったよ……。
ゴブリン討伐後、さらに奥へと進みながら美玖の様子を伺うと、少し動揺しているようにも感じたので声を掛ける。
「ミク、大丈夫か」
「えっ!? うん、大丈夫……」
やはり動揺しているみたいだな。ここでミクを後方に下げるという手もあるけど、たかがゴブリン一匹のために、トラウマを残すのはいただけない。
少し荒療治にはなるけど、次の遭遇はミクがメインで戦ってもらおう。
「アネゴとミクはポジションチェンジ」
「えっ? りょ、了」「了」
二人のポジションを変えミクの位置を外側にし、ミク自身の視界を広くすることで安心感を高めてダンジョンの移動を再開する。
「じゃあ、移動再開!」
深呼吸してからミクは一歩踏み出し、パーティーメンバー全員も、それに続く感じになる。ミクの額には少し発汗が見られるが、まだ深刻な状態ではないと思われるので、そのまま先へと進む。
ミクの様子を気に留めながらも、オレ自身は周囲の索敵を行いながらダンジョンの先へと足を運ぶ。
「ミク、緊張する必要はないよ。何かあれば全員でフォローする」
「ありがとう」
「安心してー」
そろそろ頃合いか? タイミング的には、もう少し先へ進めば、かなりの確率で魔物と遭遇する。あれを直前に行えば、ミクの気持ち的にも効果が高いはずだ。
「ヒメ、ミクにプロテクション」
「はい……。パーティー全体も可能ですがいかがしましょう」
「うん。ありがとう。今回はミクだけで大丈夫」
「了。プロテクション!!」
ミクの身体が光に包まれて、ミクにプロテクションの魔法が掛かる。ミクの防御力が上がったことを本人も自覚したようで、ミクの表情が和らぐ。
まるで計ったように、通路先に出現するゴブリン。なんというタイミング! そのゴブリンの姿を発見したミクは、レーザーサイトで狙いをつけトリガーを引く。
今回は初弾が命中し無事討伐が完了する。これで十六体目の魔物の討伐になる。
あともう少し時間があるけど、十六体の魔物と獲得した魔石をざっくり計算すると、ポイント的にオレ達の順位は二位か三位に到達している。
「よし!」
少し感情が抑えきれずに思わずガッツポーズしてしまうオレ。みんなはその姿を唖然としつつも、和やかな視線を送る。
「予選通過ポイント達成したので、我がチームは退却!」
予選通過ポイント達成発言に、オレ以外の三人も満足げな表情に変わる。
「「「了」」」
一応警戒態勢のまま、来た道を引き返して外へ向けて進み始めたんだが、半分くらい進んだ時点であることを思い出す。
あーーーーーー! しまったーーーーーーー!!
ヒメに聖女らしいことをしてもらうのを完全に忘れていたよ・・・・・・。せっかく結成したオレ達のチームをアピールするチャンスだったのに……。
後悔先に立たず。
決勝では、絶対の絶対に、これでもかってくらいヒメのアピールタイムを設けてやるぞ!!




