『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』17
それなら、と思ったけれど、山に登って杖を抜いただけで、何もしてないな。
「その前に、この山頂で少し過ごしていいですか?」
『構わぬが、何もないぞ?』
「山に登るのが目的だったし、ここから見える景色を堪能していないなーって思って!」
それから水龍さんとお話しながら山からの景色を堪能した! 水龍さんの話によると、ここに来た人は杖を抜いてすぐ帰ってしまうらしい。もったいない、こんないい景色なのに!
光る人の姿になっている理由は、自分の姿がわからないから便宜的に人型を保っているだけでそれ以外の理由はないらしく、姿は自由に変えられるそうだ。
『ほら、このように姿も自在だ』
「ええ! 水龍さん、ギンガと同じになってる!」
水龍さんは変身して銀華と同じ顔つきや体格、同じ服装になっている。
「まったく同じで、見分けが付かないね!」
『ふむ、それならこれでどうだ?』
おお! 髪の色が水色に!
「いいね! あ、その姿ならこれ食べられるかな?」
リスポーン地点で手に入れた果物を渡す。どうすればいいかわからないので、銀華がもうひとつ取り出し、半分に割り中の種を取って、中の果肉をかぶりついて食べ方を見せたら、同じように食べてくれた。
『何ともいえない、刺激的な感じがするな』
「この実は水分が多くてうっすらと甘いんだ! あとブドウっぽいのしかない。もっと色々食べ物があったらいいんだけど」
『いや、いい。これだけでも食べるという意味を知ることができた』
水龍さんは無表情で果物を食べてる。表情を作るのはさすがにまだ難しそう。でも、声はうれしそう!
『美味しいとはこういうことか……記憶も経験もなく、ただ知識だけある我は何だろうな。ずっとここに居たと認識しているのに、突然現れたような感覚がする』
あ、ゲームキャラだからか。通常のNPCだとゲーム開始までに一定の年数を経過させて違和感を消すことがあるみたいだけど、龍みたいな長命種で、おそらくゲーム開始からずっと封印されている存在だとそう思うのかも。
……なんか可哀想。
『ギンガ、何か知っているようだな』
「あ、名前」
『先ほど自分で名乗ったではないか、ギンガと』
「そう、ギンガはギンガ! 本名はギンカなんだけど、魂の名前はギンガ!」
『ふむ、難しいが、ギンガと呼ぼう。それで、我に関する何かを知っておるのではないか?』
そうだ。でも、ゲームのキャラクターとか言ってしまうのは良いのだろうか? 自律AIに対して人間と同じように接するのは常識だ。ただ、こうして封印されてる相手に同じ対応をしていいのか、よくわからない。
『実際にどうかわからないが、体感では1000年を遥かに超える時間ここに居る。どんな事実でも受け止めよう』
……よし、しゃべってダメなら運営が止めてくるだろうと信じるか!
そうして、水龍さんに答えられるだけの返事をした。ゲーム、プレイヤー、NPCなどだ。シープのことも話した。それでも、運営から何も返答が無いので、問題ないのだろう。
『そうか……いや、理解した。うすうす感じていたことが確信に変わったのだ』
「言ってよかった?」
『もちろん、我が望んだことだ。しかし……それを聞いてこのままここで大人しくしているのも意味がないとも理解した。プレイヤーが世界に影響を与えるのであるなら、我も動かねばならぬか』
そう話すと水龍のギンガは、手を上に掲げる。その掲げた先に光が集まり、その光が消えると丸い金属の輪が現れた。
『ギンガ、もし良いと思うのならばこのブレスレットを身に着けてもらえないか? これは我の目となり耳となってくれる道具だ。装備者だけになら声を届けることもできる。ギンガの旅の邪魔はしないと誓おう』
水龍からのアイテム……どうしよう。
「妙に強い性能とかしていないよね?」
『どういうことだ?』
個人的に気にしていることを、水龍に伝える。一緒に遊ぶ友達と差が付きすぎることへの懸念。
『そうか。それの問題が無ければ身に着けてくれるのか?』
「もちろん!」
仲良くなった水龍さんと、この後も旅に出れるのなら大歓迎!
『わかった、少し待て』
水龍ギンガの手にあるブレスレットから光がはじけた。見た目は先ほどのリングと変わらない。
『これで機能は最低限になった。ただ、ブレスレットそのものの耐久と硬度は破損しないように高いままなので、それは許してほしい』
「ううん、むしろ気が付かなくてごめん! 水龍さんが壊れるのギンガも嫌だから!」
考えたら低性能のアイテムは壊れやすいんだった。ギンガのことばかり考えてて配慮が足りなかった。
『能力を伝えよう。ブレスレットを通して我が見聞きを可能で、装備者に会話も可能。短時間であれば戦闘は出来ない仮の体を出して他者と会話することも可能。あとは、破損するような物質ではないことだな』
「うん。ありがとうね、色々気を使ってくれて! これからよろしく!」
『こちらこそよろしく、ギンガ』
「よろしく、水龍……名前ある? 種族名じゃなくて」
『水龍としか呼ばれたことはないぞ』
「それなら、水龍だからアクアって名前はどう?」
『ギンガのように名前があるのは良いな。では、我のことをアクアと呼ぶがいい』
「わかった、よろしくアクア!」
ブレスレットを受け取り、左腕に装着すると、サイズが収縮して腕にぴったりと収まった。
『システム:称号【水龍の友】を獲得しました』
『ステータスの変動はせぬぞ。ただの称号ゆえ』
「ありがとう!」
わかってくれるのはうれしい。
『それで、この場所からしか出来ぬことだが、視界の範囲内で転移できるぞ』
すごく助かる。それじゃあ、遠慮することなく山頂から見える街を指さす。
「それじゃあ、あそこにある街付近かな? 街中に突然現れたら怪しまれるから、ちょっとだけ離れた場所がいい」
『よし。それで、景色を見るのはもうよいのか?』
「うん。あ、こっちのアクアともお別れだね。またね!」
水色髪のアクアに手を振る。
『どれも我なのだが。……人間からはまだ学ぶことが多いな』
「気持ちの問題! じゃあ、お願い!」
~~~シホ~~~
精霊に教えてもらうことで、森から危険な目に合うことなく草原へと抜け出した。時間がかかったのは、途中でダンジョンを見つけたから。
試しに入ってみたら、さほど強い魔物も居なかったのでそこでしばらく狩りをしてたの。弱い相手だったからか、ベースレベルを1つ上げるだけでも大変だったけれど、魔石もいくつか手に入ったから、街に入っても宿なしって状況は免れるはず。
問題は、ダンジョンって出口が複数あるみたいで、入った場所と出た場所が違ったのよね。チャコさんに川沿いに村があるって聞いたから川を下ったのだけれど、ダンジョンを出たら別の場所に出たらしくて、川がなくなってたの。結局川が見つからなくて、思ってる以上に時間がかかった。
さて……森を抜けても、いまだに街が見当たらないのよね。街道も無ければ田畑もない。田んぼは、そもそも無かったかしら?
精霊で街を探すことはできない。精霊も万能ではなくって、お互いにテリトリーがあるようで、森の精霊は森だけ、草原の精霊は草原だけしか知らないの。草原が途切れて畑が隣接していても、よくわからないものって判断しているようで、それは川が接していても同じ。温度や距離はわかるようなので、川は細長くて冷たい何かって表現をする。
広範囲を探索できるけれど、曖昧な表現でハッキリとはわからないのが精霊。精霊の気持ちを読み解く能力を求められるわね。
上位精霊だともっと細かく判断できるようだけれど、今の私が呼び出せるのは初級精霊だけ。でも、初級精霊と親しくならないと精霊魔法のレベルが上がらないので、上位の精霊を呼びたければ、やっぱり地道に精霊への理解を深めるしか道はないのよね。
今、私の近くで浮遊する草原に住む精霊たちは、それぞれが見たものを色々教えてくる。ネズミやそれを捕食する動物が何種類か居ること、魔物らしき群れが何ヶ所かに居ること、川や湖があること、草原が真っすぐに途切れていること、最後に知らない草があること。
うーん、真っすぐに途切れているのが道路で、知らない草というのが畑の可能性があるわね。位置関係を教えてもらって、知らない草がある方面に一番近い真っすぐな場所へと向かう。
真っすぐな場所へたどり着く直前、精霊が騒がしくなった。生き物が沢山居るそうだ。魔物ではないけれど、数が多いとか。
その場で屈んで、様子をうかがう。音を聞き分けようと試してみるけれど、よくわからない。身を乗り出すと向こうからもばれてしまうわね……。あれは使えるかしら?
「[ハイドグラス]」
植物魔法で、周辺の植物に紛れ込む魔法だ。走るなど植物らしくない行動をしない限り、相手からは草原の草にしか見えないと思う。
魔法がかかったのを確認して、少し腰を浮かせて先を見ると、おそらく街道であろう道を鎧を来た兵士のような人たちが並んで進んでいる。
人数が多いな……。戦争か、集団で魔物の討伐か……。
私が向かう方向とは、逆に進んでいるので、見送って姿が見えなくなってから街道に入り逆側へと進む。曲り道もなくずっとまっすぐに伸びた道だ。
予想通り、街道の先に畑が見えた。小さな小屋も見える。やっと街にたどり着くことができたとホッとしたところで、異変に出会う。
「……ギンガさん、テレポートできたの?」
銀華の現れ方が、ログインとは明らかに違ったからテレポートと勘違いしました。[テレポート]という魔法があるかどうかは、紫帆には分かりません。




