『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』12
歩き出す未黒先輩に追いついて、一緒に歩く。
草原を歩きつつ、さっきの会話を思い出す。あの状況で助けに入るかどうか。
他人のパーティーの邪魔をしないのは常識だ。経験点の吸い取りや、いいアイテムがドロップしたら誰が貰うか問題になるため、他人のパーティーの魔物を攻撃しないのは普通である。
もめごとも少なく楽しく遊べる。それがわかっていても、あえて未黒先輩はそのもめごとに入っていく。
それがよくわからない。わからないけれど、なんでか妙に気になって仕方がない。
少しだけもやもやした気持ちを抱えながら、消えた3人組が最後に戦闘をしただろう場所の横を通過する。
「どんな人たちだったのかな」
気持ちを切り替えるために、先輩に話を振ってみる。
「今のランダム転移を考えれば、即席パーティーだと思うんよ」
「偶然出会って、一緒に行動ですよね」
「そうなる――いや、そうか! そうなんよ!」
急に先輩がやや大きな声をあげる。
「わたしもあかちゃんも、今死んだら初期リスポーン地点か、どこかの森に出ると思うんよ。あかちゃんは、そんな危険を冒してでも攻撃してこない動物を攻撃しようと思う?」
「ううん。無人島生活は嫌です」
「それが普通なんよ。そうでないなら、あの人たちは、トカゲを攻撃する理由があるんよ」
「理由? あ、クエストか!」
「正解! つまり、徒歩圏内に街があるってことなんよ」
最初に3人が戦闘をしていただろう方向へと進む。周辺の草が何度も踏み荒らされている場所を発見し、そこから別の方向に草がかき分けて倒されている方向へと進んだ。
「この森の先かー」
「足跡はさすがにわからんのよ」
見ただけでは足跡がハッキリとわからない。追跡スキルとかあれば追いかけられたけれど。
「あかちゃん、猫になって匂いでわかるとかない?」
「え? あ! できるかも!」
猫五感スキル覚えたんだった! ヒールで消費したMPは回復しているから、さっそく猫に変身!
少し戻って、草を踏んだだろう場所の匂いを嗅ぐ。草とは別の匂い……これは未黒先輩で、これは……私か。自分の匂いを改めて嗅ぐって変な感じ。
動物っぽい匂いを排除して……これかな?
匂いを覚えて、そのまま森の中へと進む。さすがに警察犬みたいにスルスルと先へは進めないので、ゆっくりと進む。目的の匂い以外はほとんど遮断できるので、惑わされることもない。
「あかちゃん、畑が見えたんよ」
そう言われて顔を上げるけど、さすがに猫の背の高さでは畑がよくわからない。未黒先輩が私を持ち上げて肩に乗せたので、畑を見ることができた。
「匂いで追跡できるなんて流石なんよ」
「母猫にスキルを教えてもらったおかげです」
猫五感なんてレアスキルを教えてもらったおかげで追跡できた。母猫に心の中で感謝する。
あとは、スキルレベルをしっかり上げる必要があるかな。匂いの区別を付ける時間がかかったり、追跡速度が人の歩く速度より遅いペースだったりしたので、犯人を急いで追いかけるような緊急性のある状況では間に合わない。
「んで、ベータと同じく猫のときは猫のロールプレイ?」
「はい、お願いします」
このゲームで、プレイヤーとNPCを外見から判断することは難しい。プレイヤー同士の接触制限など、シープに元々ある機能を使えば判別は可能なため、まったくわからないことはない。
そのため、猫のロールプレイをすれば、見ただけなら猫だと思われる。
そういった意味では、さっきの誰かを助けに入るかどうかって判断が難しい。村人や商人なら判断に迷わないが、冒険者の恰好をしたNPCだと困る。声をかける余裕があればいいけど、いざ助けるって場面では相手の了解を得られるほど余裕があるのかわからない。
「そろそろ街……村かな。川沿いに何軒かあるだけなんよ」
「やっぱり川は人が住むんですね」
「小規模な村は水汲みが楽になって、大規模な都市は交通に使うんよ。当然、どちらも農業には必須なんよ」
「四大文明でしたっけ、全部川があったんですよね」
「そうそう。人は川に依存しないと生きていけないんよ」
村まであと50メートル程度まで近寄ったところで会話の区切りの合図として「ニャー」と鳴く。そんな私の喉を撫でながら、未黒先輩は村の簡易的な門に入った。ゴロゴロゴロ。
「こんにちはー」
門の近くで丸太に座っている男性に先輩は話しかける。男性も低い声で「こんにちは」と答えた。
「大きな街に行きたいんですけど、ここから行けますか?」
いつもより丁寧な先輩の口調だ。ちょっと声音が高い。
「ここより大きい街なら、川の船着き場から船に乗るのが手っ取り早いな」
「船着き場はどちらです?」
「その川をあっちに向かえばあるな」
男性は指をさして方向を示してくれた。
「そうでしたか。ありがとうございます」
「気ぃつけてな」
男性に手を振って別れる未黒先輩。村の中を進むと、家が6軒しかない。ただ、村から離れた所にも家があるので、水の汲みやすさと畑との距離を考えて家を建てているんだろう。
「壁があるから、ここが村の中心なんよ。用はないけど、禿げた村長とか居そう」
舗装というより、地面を硬く均しただけの道路に、1階建ての家がまばらに建てられている。木の屋根に土壁の家。その中にひとつだけ立派な白い漆喰の壁をした家があるので、あれが村長の家っぽい。
「冒険者ギルドは無さそうだから、さっさと次の街に行くんよ」
そう言いつつ、村を歩き回る未黒先輩。やがて村に入ってきた側とは反対側にある入口にたどり着く。
「見つけた。リバ石」
たどり着いた入口の隅に、青く輝く三角錐が下を指して回転している。NPCが見ることのできないリスポーンする場所をセーブするマークだ。正式名称リバイバルストーン、通称リバ石。
使い方は、触って地点変更を希望するだけ。先輩と私はさっそく触ってセーブする。これで無人島に飛ばされることは無くなった。
「3人組が見当たらないんよ」
[アカネ]匂いで調べますか?
「いや、先へ進むんよ。私たちとは関係ないし、ギルドが無ければ偉い人、村長の依頼だと思うんよ」
[アカネ]はーい。
船着き場まで歩き出した先輩は足を止める。どうしたのかな? 先輩を見る。
「……お金ないんよ。魔石回収したから、店探して売らないと」
それから、お店を探し回り小さな雑貨店を見つけ、魔石を売ってお金を手に入れて今日はログアウトした。
猫の姿の状態での接触制限は、細かく修正が可能です。それは人型とは別ルールなので、ゲーム内において猫の状態で頭を撫でる許可を出しても、人の姿での接触はシープの制限に引っ掛かります。




