『亡国の異世界 7つの王国と大陸の覇者』05
『システム:スキル【猫潜伏】を取得しました』
あれから、小動物を相手に隠れる練習をした結果【猫潜伏】を取得した。
【猫潜伏】は、単純に隠れる能力なんだけど、細い隙間に音もなくするりと入ってしまうことができるのが特徴。体格の大きなハチワレさん……ハチワレ母さんでも、このスキルを使うと私では気が付かないくらいに周囲に溶け込んでしまうスキルだった。
そうして新たなスキルを教えてもらい、今はまた抱えられて体を舐めてくれている。何というか、すごく気分がよくて眠くなる。これが憧れの猫生活……すごい。
そのまま、気が付いたら眠ってしまっていた。
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「レアスキル2個って、強すぎない?」
カフェテリアにて、シュガーパウダーがまぶされたアンパンを食べる蒼奈に、状況の説明をしたらそう返された。
朝の通学の時間は、お兄さんからプラモデルの連絡があったので、それについて話しながら学校に向かったため、7王の話は出なかったのだ。
「人型でも使えたらいいんだけど、そうじゃないと思うよ?」
カスタードリンゴパイをかじりながら、取得スキルの性能を思い浮かべて蒼奈に答える。パイの表面は光って艶があり、ほんのり甘くて食感がパリパリで美味しい。中のリンゴも、半分ほどのサイズが入ってるから満足感が高い。
「そんな状況だと~、茜ちゃんは離れたく無さそうだね~」
そう言って茶子はクリームたっぷりのメロンパンを咥える。
「そう。ほんとにそう。今が理想すぎる」
「憧れの猫ライフだからな!」
銀華はふたつ目のチョココロネを片手に、もう片手は招き猫のような動きをする。
「母猫が頼りになりすぎるんだよね。安心感がある」
みんなで集まって冒険って意気込んでいたのに、合流が先延ばしになりそうな予感しかしない。
「合流が遅くなっても良いんじゃないかな? レアスキル取得できるチャンス」
「先輩の目標も、期限なかったからね~」
「銀華も街が見つかるのはまだ先だし、茜も急がなくていいぞ!」
うう、みんな優しい。
「うん、猫として頑張るね!」
「戻らなくてもいいから」
「あおなーー」
蒼奈の肩に頭をグリグリ当てる。
「茜、完全に猫になってるな!」
「猫というか~、……まぁ猫か~」
~~~アオナ~~~
相変わらず暗いな、出口に向かうどころか緩やかに下へと降りている。
周囲は、自然にできたように見える洞窟の裂け目が続いている。実際、この洞窟ができた当初は自然現象だったんだろう。ただ、よく見ると岩が裂けて空洞ができたというより、何か硬いもので削りだした跡が至る所に見えるのがわかる。
進んだ先で分かれ道にぶつかったので、地面を観察する。
「……こっちかな?」
どちらの道も、正直ほぼ変化はない。ただ、こっちの道の方が地面が平らに均されているように見えるだけ。通過しているのが人か、動物か、あるいは魔物なのかはわからないけれど、当てもなく進むよりはよほどいい。むしろ、魔物に出会ってリスポーンするくらい変化のある方がゲームらしさがある。
名前:アオナ 種族:ヴァンパイア 年齢:15 性別:女
レベル:5 職業:魔法使い 状態:正常
HP:67/70
MP:125/155
筋力:3
体力:4
耐久:4
敏捷:6
器用:9
精神:15
知力:25
魅力:14
感知:8
ステータスポイント:0
A:1 B:2 C:6
武器:マジックワンド
防具:ローブ 普通の服 普通のスカート 普通の靴
スキル:杖術1 古代語1 神聖語1 魔力感知1 魔力操作1 魔法射撃1 光魔法1 闇魔法1 火魔法1 水魔法1 カゼ魔法1 土魔法1
固有能力:闇視
特殊能力:真祖の血縁 能力封印
うん。何度見ても真祖を見るたびにあの失敗を思い浮かべてしまう。
転生でブドウジュースの風呂に入りながら転生するのは予定通りだった。おかげで無事にヴァンパイアになることができた。問題はたったひとつ。
公開配信をしてしまった……。
直前で未黒先輩が配信をしていたから、そのあたりのボタンをポチポチ触っていたのが原因。
幸いにもカメラアングルが上半身の背中だったので良かったけれど、前だったらゲームを速攻引退していた。それでもお尻辺りはちょっときわどかったので、しばらく茜にやけ食いに付き合ってもらった。
その結果得られた成果が、基本魔法4種と、特殊能力の真祖の血縁。特に真祖の血縁なんて人には言えない能力をしている。
特殊能力:真祖の血縁(太陽の元で活動が可能。ステータス補正。魔法取得制限なし。他不明)
ステータス補正は、低レベルだから実感はないんだけれど、見てわかるほど強力なのは、魔法取得制限が無いこと。おそらく、種族特有の魔法すらも覚えられるっていうことだろう。今のところ、取得しやすい風魔法と土魔法を追加して基本魔法は揃えた
……なぜか、風魔法の表示がバグってカゼ魔法になってる。先輩たちが持ってる風魔法も同じ表示だから、そのうち不具合は治るだろう。
種族魔法も覚えることは可能らしいけれど、獣人じゃないのに獣人魔法を覚えられることに意味があるかどうかはわからない。選択の幅が誰よりも広くなったと思えばいいか。
能力封印は未知数なので今は考えない。
暗い道を光も灯さずに歩きながら、これからのスキル構成を考えながら道を下る。
途中で、左側に大きな空洞が現れた。目を閉じて耳を澄ますと、おそらく水であろう音が聞こえてきた。
周囲に何もいないことを確認してから、空洞の下をのぞき込む。高さは10メートルほど。この場所からは降りられないけれど、少し先に進んだところが斜面になってるから、そこから降りられそう。
斜面に移動して足を踏み出す。斜面でも立つことができたので戻ることもできそうだ。そのまま下に降りて、水音が聞こえる場所まで移動すると、綺麗で澄んだ大きめの水たまりがあった。岩の隙間から水が注ぎこんでできた水たまりっぽい。
生物は住んでいない……毒の可能性もあるけれど掬って飲む。ここに飛ばされてから水は魔法に頼っていたので、MP消費無しで水が飲めるのは助かる。
――美味しい。味があるわけじゃないけれど、飲むことで体中がすっきりした気分になる。状態は正常でHPもMPも変動なし。効果も何もない水だけど毒じゃないのは助かった。これで飲み水は確保できたから、あとは食料。
周辺を見渡すと、3か所ほど通り道のような横穴がある。近い横穴から順番に調べようとして、近寄って気が付く。足跡だ。靴の形なので、魔物とかではない。水場に続いているので、水を飲んだときに濡れた靴のままで歩いたから跡がくっきり残ったのだろう。
足跡は完全に乾いているから、いつこの人が来たかはわからないけど、過去に人が居た証拠だ。多少離れた場所にも足跡があるから、何回か往復していたに違いない。
足音を鳴らさないように慎重に歩きつつ、音に注意をしながら進む。足跡は見つかったり見つからなかったりするけれど、今のところ大きく途切れずに横穴の奥へと進んでいる。
しばらく足跡を追跡してたのだけれど、途中で足跡が見当たらなくなった。一度戻って足跡があった場所まで戻り、途切れたあたりから周辺を調べる。
今いる通路は丸くくりぬかれた道ではなくて、岩や地面が裂けたような形状だ。そのため上を見ると切れ目があり、かなりの高さがある。
足跡の主は道の途中から崖を登った可能性がある。
色々確認していると、側面の岩が登れそうな場所を見つけた。天然の梯子とでも言えばいいのか、手足を乗せやすそうな位置が窪んでいる。足跡もこの辺りにあるし、靴の向きも通路を行きかうだけではない足跡も見つかったので、少なくともここで方向転換したことがあるのは確かだ。
上を見上げると、かなりの高さまで続いている。家3軒分くらいは登る必要がありそうだ。
「[フレイムエナジー]、[キープアース]」
体力の消耗を遅くする魔法と、地面への接地力を高める魔法を発動する。筋力をあげる魔法は別系統なので使えない。
これまでの探索でも何度か使った組み合わせなので、掴める出っ張りがあるロッククライミングなら多少の距離なら問題なく登れる。……これくらいの高さなら、筋力10あれば魔法を使う必要もないとは思うけれど。
MP節約のために筋力を上げるか、魔法でどうにかなるものに貴重なステータスポイントを振るべきではないか。どうでも良いことを考えながら登りきると、ここで人が住んでいた形跡を発見する。
火魔法コンロ、本が2冊、布団らしい布のかたまりもある。どれも埃をかぶっているので、ここの主は居なくなってからずいぶん経っていそうだ。
火魔法コンロは、火魔法が使える人だけが使えるコンロで、火をつけている間はMPが緩やかに消費されていく。誰でも使える魔道コンロと違って魔石も不要で、本体の単価も安いため、これだけのために火魔法を覚える人も多いそうだ。
本を手に取る。1冊は日記だ。年数も何も書かれておらず、最初は「10日目」からスタートしている。きっと意図せずにここの洞窟に入ってしまった人なんだろう。
少し読み進めると、過去の戦いで仲間とはぐれた魔法使いのようだった。マーキュリ王国と隣接するウラーヌス王国は水面下で戦っていたようで、この人はウラーヌス王国の魔法使いでキグイさん。潜入工作中に味方とはぐれ、戻ることもできず彷徨ううちに、穴の裂け目から転落してこの場所に来たと書かれている。
……地上への穴があるのは確定した。
ページをめくると、この人は割と長い期間ここに居たらしく、食べ物は食料魔法をつかってしのいだそうだ。土や石を生活に必要な最低限の栄養がある食料に変換できるとのこと。覚えていないから真似ができないな。
地図を作って何日も彷徨い出口を探したようだけれど、ここにはその完成した地図がない。途中で脱出できたんだろうと思いたい。一応、日記にはメモ書きのような形で地図があるので参考にしよう。
後は、この日記には魔物との遭遇が書かれている。ケイブキャタピラーと呼ばれる、地面を削って洞窟状の通路を作る生き物が居るようだ。
初期地点から長く続いていたあの通路は、この生き物が作ったらしい。人が歩いて通れる通路を作れる生き物……遭遇したくないな。
もう1冊は魔法書だ。魔法の教科書とでも言えばいいのか、魔法を覚えるための本。ペラペラめくると、一番本の癖がついている場所が食料魔法の項目だ。
近くに石は……手ごろなサイズの石が積み重なってる。食糧庫かな?
石をひとつを手に取って、開いた魔法書を片手に読む。
「……[チェンジフード]」
石の表面がボロりと崩れて、中から黄色い物体が現れる。匂いは……わからない。少し食べてみる。……うん。食感はあるけど味がしない食べ物だ。少し硬めのクッキーのような歯ごたえをしたプラスチックだろうか。まずい。
「[チェンジフード]」
今度は魔法書を持たずに同じ魔法を唱えてみたけれど、変化がない。魔法名だけではなく、その前の詠唱部分を含めて声に出したけれど、それも意味がなかった。
スキルとして取得してない魔法を使う場合、魔法書が必須のようだ。けど、覚えていない魔法をこうして使えるだけで助かる。水と食料の問題は解決したので、あとは脱出だけだ。
栄養は最低限あります。魔法を使用した種族によって栄養となる成分が変わりますが、プレイヤーが使う場合はどの種族のプレイヤーであっても効果があります。例えば、猫状態の茜が使ったら、プレイヤーと猫が食べられます。蒼奈はシャキサクみたいな顔して食べてそうです。




