『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』33
「ピザのデリバリーしてきます!」
バイクを後退させて、崖のロープを外しにかかる。
キリ:デリバリーって?
アカネ:多分、地震をどうにかできるかも!
ロープは柱に強固に巻き付けてあったけど、近寄ることで緩み無事に外すことができた。崖の下を見ると護衛艦の先端部分がここから見える。もうすぐこの土台を押す体制になるんだろう。
アカネ:護衛艦が見える!
ミカン:やっと来たか!
バイクを上昇させる。上下移動がゆっくりなのが、もどかしいところ。
「それじゃ、いってきます!」
「がんばって~!」
「チャコは何か知ってるの?」
「知らないけど予想はできる~」
上まで戻ってきたので、バイクを走行状態にしてアクセルを全開にする。地面が斜めなのに問題なく駆け上がるので、ピザデリバリーのバイクはやはりすごい。
地面が斜めになっているせいか、通りと通りの隙間部分をそのままジャンプ台のようにして飛び越えることができた。
その先の通りは、ジャンプ台にできるほど斜めにはなっていないから、本来なら飛行状態でゆっくり登らなければならなかったんだけど。
「梯子が残ってる!」
私と茶子が、誰かが使うだろうとその辺へ捨てた梯子がそのまま立てかけてあったので、その上をバイクで滑るように登る。
33番通り。この様子だと孤児院は崩れてる気がする。
30番通り。既に多くの人がここからさらに奥へと避難している。
29番通り。ここで別れた子どもたちがいない。もっと先へ進んだのだろう。
22番通り。私たちソレッレ・ピッツァを通過。孤児院の子たちがちらりと見えた。
20番通り。エルマーのフラテッリ・ピッツァを通過。この辺りに避難民の多くが立ち止まっている。
15番通り。大学生のお姉さんたちのお店、マードレ・ピッツァを通過。
9番通り。ミテラさんが入院する病院通過。ここまで振動が来ていないといいけど。
遠くに見える博物館、ベリーさんの店、建築現場を通過して、目標の6番通りに到着。急いだ割には警察が現れなかったよね。
芝生の中を伸びる道を通って、リーマトさんの家の門に到着。インターホンを押す直前、ある物を思い出してストレージから取り出す。
そして、インターホンを押すとすぐに声が聞こえ、緑の服のメイドさんが現れる。話が伝わっていたのか、奥へ通される。
「ようこそ、アカネちゃん。あの人から話は聞いているわ」
私を迎えてくれたモーリエ奥様は、リーマトさんの書斎へと連れて行ってくれる。
書斎の机には、四角い金属の鞄がある。奥様はその鞄の鍵を開け、中から丸い制御装置を取り出した。
「それじゃあ、登録をするわね」
私の胸元にぶら下がっている証明書に向けて、制御装置を寄せる。
「既に夫の承認も受けているから、これでこの家から持ち出せるわ」
そうして差し出される制御装置を、あらかじめストレージから取り出しておいた物、ピザボックスに収める。
「ソレッレ・ピッツァのピザボックスではないわね。可愛い動物」
「はい! ベラーさんのお店で作りました! 猫です!」
「動物に詳しいのね。うん。ベラーさんの店のピザボックスなら安心ね」
ゆっくり話をしたいところだけれど、今はそんな余裕もなく、軽く礼をしてバイクに戻る。
ピザボックスをバイクの後ろに収納し、センタービルに向けて走り出す。
バイクをビルの入口に停めて、ピザボックスを持ってビルの中へ進む。
「ソレッレ・ピッツァです! お届けに参りました!」
受付のお姉さんに証明書を見せたら、証明書に入館許可データを入れてもらった。
「それと、申し訳ないのですが、情報管理部門はセキュリティが作動してどの階も入れないようになってしまっています」
「情報管理部門? どの階?」
「28階から31階となります」
「じゃあ、問題ないです」
持っていくのは32階だからね。
受付のお姉さんと別れ、エレベーターに向かう。3台あるうちの1台が点検中だ。とりあえず1階に着いたまま誰も使っていないエレベーターに乗り込む。
「26、18、25、30、32だったよね」
32の表示が無いけど、パズル要素なんだから最後に出るんじゃないかな?
最初に26階。18階を越えたところで18階を押す。26階から下がり25階を越えたところで25、30を押す。
各階で扉を開け閉めして、30階でも扉が開いたけど、正面は鉄板のような壁にさえぎられていて進めないようになっていた。これがセキュリティか。
エレベーター内部のパネル表示には32が表示されたので、押してみるとそのまま上にあがり、32階だと思われるところで扉が開いた。
開いたけど、30階と同じ、鉄板の壁が正面にある。違うのは、少し足場があるくらいかな?
「きみ、どうやって来たんだね?」
「にゃああぁぁあああぁぁああぁ!!!!」
「あ~、すまん。驚かせちゃったか」
開いた扉から、男性が急にこちらをのぞき込んでくるからびっくりした。いや、こんな暗くて危なそうな場所に人がいるなんて思わないでしょ? しかも顔が薄ぼんやりと照らされているって、お化けかと思った。
「その恰好は、リーマトさんから連絡があったデリバリーの子かな?」
「はい! ここの32階って聞いてきたんですけど」
エレベーターから顔を覗かせて外を見るけれど、入れそうな入口が無い。暗くてはっきり見えないってだけかもしれないけれど、今入っているエレベーターから光が届く範囲では何もない。
「あ~、いろいろあって開かなくなったんだ」
「デリバリーの子か? ちょっとこっち来てみて?」
隣のエレベーターに近い鉄の扉の前に居る女性が呼んでいる。
ピザボックスを抱え込み、足元に注意しながら近寄る。
「ピザ店員の証明書をちょっとこの周辺にかざしてみて?」
その通りにかざしてみるが、何も反応が無い。
「だめか、その証明書なら配達のために開くとも思ったんだけどな」
この国の法律に、『何ものにもピザのデリバリーを阻害してはならない』とあるので、開くかもしれないと思ったらしい。
リーマトさんがピザをデリバリーしたのも、その法律に則ればセキュリティは解除が可能だそうだ。
今回それが出来なかったのは、強引な方法で扉を開けて侵入したせいで、正常動作しなくなったからだとか。
「ごめんね、普通なら君の乗ってきたエレベーターが到着したら開くはずだったんだけど、私たちが壊しちゃってね」
「いえ、大丈夫です」
開かないのは仕方ない。証明書を受け取りつつ首を左右に振る。
「セキュリティの段階は下がったようだ。31階の入口は手動で開けられるぞ」
隣のエレベーターは、31階で止まっているようで天井が見える。その天井に出入り口が開けられていて、そこを降りると31階へ入れるそうだ。
「とりあえず、危ないから下へ降りようか?」
このままでは32階へ入れる様子もないし、下へ降りるように促されたので慎重に梯子を下りる。
31階の廊下に出ると、他にも何人か大人の男女が待機していた。ついさっきまでエレベーターも階段も完全に閉ざされていて移動できない状況だったらしい。
「降りるだけなら、階段の扉をこじ開ければ降りられるだろうけれど、32階に上がる手段はどこにもないんだよなぁ」
一緒に降りてきた、最初に会った男性がエレベーターの天井を見上げながらぼやく。
「窓から入るのは無理なんですね?」
「32階は外から見えない構造らしくて、窓も設置されていないんだ。リーマトさんたちが探索したところ、10センチ程度の換気口やはあったらしいけど、それ以上の空間はないそうだ」
待機していた女性のひとりが説明をしてくれる。そのサイズの隙間では、ピザを渡すこともできないってことかぁ。何かヒントになることがこの階にないかな?
「この階を少し見て回りたいんですけど、だめですか?」
「うん。あ、時間あるからついていくよ。調べたところも説明してあげる」
女性職員が一緒に来てくれるようで、私としても助かる。
一番奥の部屋に行ってみると、広い空間に丸いテーブルと複数の椅子がある部屋があった。会議室っぽい。
目立つのはピザ窯があることだ。ピザ職人さんもいる。あのピザ職人さんは耳がよくないようで、話をするなら筆談になるようだ。職人さんに頭を下げて別れ、別の部屋に行く。
会議室の隣の部屋も机と椅子があるだけの小会議室だった。
この階の構造は、廊下がカタカナの『エ』かな? 部屋割とかを考えると漢字の『目』で、中央の空間に縦に一本線が引かれた形だね。中央の空間の左右の部屋が機械の部屋。上の空間の中央が会議室で、その左右に小会議室。下の空間の中央にエレベーター、その左右に階段とトイレ、さらにその向こうが倉庫となっている。
こうやって部屋数だけ見れば、こじんまりとしているけど、中央の機械室は1室だけでバスケットコートが余裕で入るくらいは広い。
中央の機械の部屋は、今は動いていないらしい。本来はここがメインとなるコントロールルームだったらしいけれど、今は上の階が中心だそうだ。
「動かないのは、足りない機材が多いんですか? 古いとか?」
「どうかな。情報管理部門の人間じゃないから、何が不足なのかはわからないんだ」
なるほど……手元のこれって重要なパーツだよね? 女性にピザボックスの箱を開けて見せる。
「これって、何かの役に立ちますか?」
デリバリーの証明書でセキュリティが解除されるのは常識ではないので、受付のお姉さんは常識人です。




