『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』26
『システム:ストーリーミッションが付近にあります』
いつもの表示が現れたので、茶子と一緒に近くの茂みに隠れる。
建築現場はまだ50メートル先だけど、慎重に行動するべき距離だ。それくらいの距離なら、顔はわからなくても雰囲気で誰かばれてしまう可能性がある。
茂みに身をひそめながら、30メートルまで近づく。
[チャコ]対角側に移動するね~。
今の建築現場は真裏が壁になっているから、そこから出てくることはないけど正面と左右は道路になっている。そのため、茶子が死角を無くすために反対側の側面へと移動してくれた。
町中の野良猫を探すような、自然な体勢で待機していると正面入り口からパルトさんが出てきた。
方向は……こっちに来る! 建物の陰に隠れるようにして待機。パルトさんが居る歩道は反対側なので余程変な動きをしない限り気が付かれないはず。
[チャコ]アカネ側の歩道に渡ったから、しっかり隠れて~。
道路を超えてこっちに来たのか。
建物の陰から、さらに奥へ入り込んで、バイク置き場の塀を境にして隠れる。
[チャコ]通過~。あたしは反対側の歩道から進むから、後ろからよろしく~。
ゆっくり通りまで戻り、通過した先を覗くと20メートルほど先でパルトさんが歩いていた。しばらく尾行すると、途中で駐車場に入った。
[チャコ]車に乗るのかも~? アカネ、信号まで先行よろしく~。
チャコの指示に、キックボードを取り出して駐車場を超え道路を真っすぐ突き進む。道路の中央は生垣があるから、この駐車場から道路側に出たら、必ず一方通行になるので、この先の信号までは必ず進むことになる。
信号に到着したので、パルトさんを待ち構える。
[チャコ]飛んだ~!? 飛行ユニット積んだ車に乗ってる~!
[アカネ]飛行ユニット!? 政府所有の車じゃないの?
[チャコ]少なくても、一般人じゃないのは確かだね~。
飛んだあと、どちらへ進むのか。私と茶子はそれぞれ別車線に居るから、どっちに飛んでも追いかけることは可能。
[チャコ]私の方だね~。中央へ向かって飛んでるよ~。
[アカネ]了解、そっちに向かうよ。
道路を超え、反対車線に渡ってから走り出す。顔を上げると、飛行ユニット搭載の車が飛んでいるのは1台だけなので、離れていても簡単に追いかけることはできた。
[チャコ]センタービルの右、テナント側じゃない入口に降りた~。
茶子に追いついて、同じように付近の車の陰に隠れる。飛行ユニットは上下移動がゆっくりなので、車から降りる前に到着することができた。
[アカネ]スーツに着替えてるね。
[チャコ]車広いし、動くまで間があったからね~。
スーツに着替えたパルトさんが車を降りると、近くに居た男性に何かを渡し、車をそのまま残してセンタービルに入っていった。
[チャコ]姿が消えたのに、ミッションクリアが出ない~。
そういえば、まだミッションクリア出てないな。
[アカネ]潜入?
[チャコ]警備員居るから無理だよ~。
そうだよね。これ以上の追跡はできない……あれは?
現在地はセンタービルの右側にいるんだけれど、さらに右の側面に出っ張りがある。
見える位置まで移動して確認したら、エレベーターが見えた。外側がガラス張りになっているから、ここから見てもエレベーターの移動した位置がわかる。
ビルの途中で上昇が止まり。そこから、さがって、止まった場所近くへまた戻る。そこから上昇。最上階付近直前まで上がって停止、そこからさらに上に向かったけど、途中から屋上に上がったのか消えた。
[チャコ]なんだろ~?
いつの間にか隣に来ていた茶子があの動きにそう感想を述べる。
[アカネ]多分、鍵? 手順が必要っぽい。
[チャコ]なるほど~、ちょっと待ってて~。
茶子が真剣な表情をしてビルを眺める。
[チャコ]26、18、25、30、32、かなぁ~? 32は、31から上に移動したときにエレベーターが見えなくなったから、想像で~。
『ストーリーミッション:CLEAR!』
正解だったようで、クリア報告が表示された。音が鳴らないよう注意して、茶子と手のひらを合わせる。
警備員に見つからないようにこっそりと場所を離れて、センタービルのお店側付近まで移動。前からピザの色分けをした車が入って来たので、通過を待ってから道路を渡り歩道へ戻った。
「夕方までには時間があるよね。チャコは行きたいところある?」
「孤児院に行こ~」
「あ、確かに! 少しでもお手伝いしたい」
ここからだと完全に反対側だけど、移動時間を考慮しても1時間は孤児院で過ごせる。
キックボードで移動を開始して、店のある22番通りを超えたあたりで隣にピザ屋のバイクが並走してきた。隣といっても、茶子の隣だ。
「こんにちは、チャコさん」
フラテッリ・ピッツァのバイクに乗った男性から、茶子へ声が掛けられた。大学生くらいの人かな? 緑色のさらりとした髪の男性は茶子のキックボードの速度にぴったり合わせて走っている。
「こんにちは~。並走は危ないですよ~?」
「あぁ、失礼。チャコさんを怖がらせるつもりはなかったのですよ。貴女に偶然出会う運命に僕の心が逆らうことが出来なかったのです」
茶子のイベントの人なら、スインさんの後輩のブルダーさんかな? 見た目もなかなか整っているけど、ちょっぴりキザっぽい?
「デリバリーの途中じゃないんですか~?」
「もちろん、2件ほどデリバリーの途中です。しかし、時間内にピザをデリバリーできるのであれば、チャコさんとの出会いを優先するのが、今の僕にとって最も大切なデリバリーなのさ」
「あいにくですけど、今は友達と一緒ですので~」
「友達――アカネ君かな? こんにちは、僕はブルダー。エルマーから聞いているよ、デリバリーの良いライバルだってね」
「こんにちは、そうなんですね」
私の目を見て笑顔で話す好青年っぷりはなかなかに好感が持てるけど、茶子の反応を見るに、この人との付き合いは疲れるのかな?
「そうだ、もしよければおすすめのデザートピザの店を紹介しようか? もちろん、君たちの友情に入るつもりはないよ。その店のおすすめピザを僕が君たちにプレゼントさせてくれるだけでいいんだ。そのあとすぐにデリバリーに戻るよ、約束する」
[アカネ]どうするの~?
[チャコ]断りたいんだけど~、どう言えばいいのか~。
[アカネ]じゃあ、私から言うよ。角が立たないし。
「あの、すいません。私も茶子もちょっと急いでいるので、申し訳ないですけど」
「そうかい? うん、それなら仕方がないよね。じゃあ次の機会にでも紹介するね。それじゃあ、次のデリバリーで会うのを楽しみにしているよ、チャコさん」
そういって男性は片手をあげ、2本の指をピンと伸ばしたジェスチャーをして、爽やかな笑顔を振りまいて離れていった。
[チャコ]アカネ、助かった~
[アカネ]いいけど、あの人がブルダーさん?
[チャコ]そうだね~。ずっとあんな感じなんだよ~。
[アカネ]すごく好意持たれてそうだけど。
[チャコ]本人は良い人なんだけど~、私のデリバリーミッション、ブルダーさんのファンクラブの妨害をすり抜ける勝負で~、ブルダーさんと仲良くなればなるほど難易度が上がるの~。
[アカネ]じゃあ、ピザをプレゼントされてたら?
[チャコ]やばかった~。
[アカネ]……そういえば、今朝は私のデリバリーの番だったから。
[チャコ]次はあたしだ~!!
がっくりしょんぼりする茶子。以前花束をもらったときは妨害工作がひどかった上に、花束を落としたらミッション失敗なので離すに離せなかったとか。
パルトさんみたいにもう少し筋肉質だったら、茶子のやる気も違ったのかもしれないけどブルダーさんは線が細そうだった。
そのまま速度を緩めずに33番通りまでたどり着き、孤児院へ到着。1時間だけでもお手伝いをしたいと伝えたら是非とのことだった。何人かは昼寝をしているらしいけど、ある程度大きな子は起きているようだ。その間に夕食の準備をするらしく、起きている大きな子たちの勉強を見てもらえると助かるって聞いて、子ども達と一緒に勉強をした。
12話にある通り、ブルダーさんはこう見えてもピッツァイオーロ目指しているので、ピザ作りは妥協を許さない職人です。




