『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』27
ひとりでエレベーターを降りたパルトは、正面通路を進み奥の部屋の扉をノックをすることなく開く。部屋の中央には丸いテーブルがあり、右手にはピザ窯がある。部屋にはピザ職人ひとりと、丸テーブルに座りピザを食べる男性が居た。男性は身長の割には体重が過剰な体型をしている。ピザを際限なく食べられそうな体つきだ。
「パルト君も食べるだろう。用意させよう」
丸テーブルに座る男性は、ピザを食べる手を休めずに左手の端末を操作して注文を送る。
「ありがとうございます、ビルグスさん。ですが、既に食事はとってきたので」
「そうか。では君の分は私が食べるとしよう」
ピザ窯とは反対側の位置にある丸テーブルに座るパルト。しばらくしてコルニチョーネが切り取られた四角いピザが目の前に運ばれたので、ビルグスが一気にパクリと食べる。
追加して注文をした様子を見てから、パルトはピザ職人を見る。
「前も言ったが、あの男は音が聞こえないから大丈夫だ」
パルトのために焼かれたピザも追加して食べながら念を押す。
重要な会議の場でも安心してピザを食べられるように選び抜いた職人だ。通常の職人より遥かに高額な給与を渡しているが、それに見合った働きをしてくれる。
「護衛艦が外されるトラブルが無ければ既に完了していたのですけどね」
「異他飯委員会どもめ。この都市に余裕など無いのがわからんのか」
「人口、食料、エネルギー、税収、建造費、維持費、治安低下。このままでは先が無いのはわかるはずなのですがね」
『円形浮遊都市・第1番艦 マルゲリータ』が浮遊した200年前は、今のようにピザだけを食べる生活は送っていなかった。少ない人口で広大な農地を管理し、水資源も余裕があったため、かつて地上で生活していた人たちに近い食生活を送ることができた。
しかしそれも、人口が増えて農地で栽培する作物を限定した結果、主食がただ小麦を焼いただけのピタだった。およそ80年ほど前である。120年で人口はどんどん増え、食料生産が追い付かなくなり、最終的には小麦のみの生産に限定しなければ、人々は食事をすることが出来なくなっていたのだ。
地上に降りることも現実的ではなかった。
地上から浮上して生活する理由は、地殻変動と都市部の水没をきっかけに、地球環境の保護という名目で浮遊することが全地球規模で決定した。
災害による人口減少もあり、人類存続のため人々は新たに建造された浮遊都市で生活をすることとなった。
しかし、一定数の人々は地上に残ることを選択する。浮遊都市への不信感を持つ人々や、地上に残ることをステータスと考えた権力者だ。
その地上に残った人々は、権力者たちを含めてすべて絶滅した。
地球環境に危機感を持つ多くの学者や医師が地上から飛び立つ一方で、権力者に必要な数の医師は地上に残った。しかし、人が住まなくなった地域から毒性の強いウイルスを持った虫が大量発生した。それに対して少数の医師では対抗策を考えられず、浮遊都市ではサンプルの採集、研究成果の共有、臨床試験にも時間がかかるため、地上の人々はなすすべもなく消えていった。
現在ではそのウイルスへの対抗策もあり、研究都市として地上にいくつかの街が設けられて対策を取れるようになっている。それが40年前。
すでに人口ピークの危機は去っているが、食料生産の向上はあまり進まなかった。
浮遊都市における食糧生産は、土台の上層、人が生活し日光が当たる地域が生産量のおよそ8割。地下の中層が残り2割を担っている。中層は食料生産、工場、電気や水道のインフラ設備に使われているが、地上から採集した資源の保管庫としての割合が殆どを占めている。そのため、食料生産の中心点は上層にある。
その上層も、安い税金のために新規で作られる土地に引っ越す者が多いため、中心地は空き家の多いゴーストタウンになってきている。
解体費用は金がかかるし、まばらに住人が住んでいるから解体しても広大な敷地として農地を確保するのは難しい。
新しい土地を作っても、過去の人々は食料危機を経験しているため、引っ越して税金を安くするより、食料生産のための土地として農地の拡充に協力していたが、今では私利私欲のために安い税金を求めて、引っ越しをしてしまう始末だ。国有地として1割は確保できるのだが、その割合を広げる法案を作っても国民の権利の侵害だとして通らない。
どれだけ土地を広げても、建築費と維持費をかけて安い税金で住む土地を提供しているだけにしかなっていないのだ。
「異他飯委員会の人達が都市を降りたとしても、根本の原因は取り除けないどころか資金難になるだけなのに」
地上に降りた人へ生活やインフラを保障する義務は、現状この都市にとって真綿で首を絞めるようなものだ。
「農地確保も考えずに、何が異他飯委員会だ。目先のことではなくもっと長い目で見るがいい」
「そのためにも、36番通りは農業地域にする必要があるのですが、彼らにはわからないようです」
「本来はトマトソースが復帰しただけでもありがたく思わねばならんのだ」
6枚目の、コルニチョーネを切り取られたピザを食べつつ、ビルグスは憤慨する。誰も食糧危機が迫っているとは考えていないのだと。
部屋の内線電話が鳴ったので、7枚目のピザを食べているビルグスに代わり、パルトは受話器を取る。
「……はい。少しお待ちください。ビルグスさん、モッツア建築会社のリーマト社長が面会を希望しているみたいですね」
「さすがに気が付いたか? 10分後に向かうと伝えておけ」
パルトは受話器に向かって返答をし、電話を終えると元の座席付近まで戻るが、椅子には座らない。
「アンダーピールにずっと居たなら気が付かなかったでしょうけどね」
「全てはあの護衛艦事故が問題だ。いまいましい」
8枚目のピザも食べてビルグスは立ち上がると、パルトと一緒に部屋を出た。
「あれの経過観察をした後で、報酬の残金を渡そう」
部屋を出てエレベーターまでの廊下を歩きながら、ビルグスは天井を指さす。
「はい。よろしくお願いします」
ビルグスは満足そうに頷くと、エレベーターに乗り込んだ。
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「だからといって、勝手に降りるのも条約違反にはならないのかね?」
「責任は都市にあるので、我々が罪に問われることないでしょう」
「それは護衛艦を勝手に使わなかった場合だろう。飛行ユニットの無断使用は問題だぞ」
「そのために防衛隊にも私達の仲間がいるのです。演習の申請がすでに提出済みです」
「地上の都市と連絡が取れないまま、降下するつもりか!」
「旧世代のインフラを改修すれば、どの場所でもこの都市の負担にならないだろう」
「今更、発電装置が容易に動くとは思えん。既存の地上都市に頼るべきだ」
「農作業用の機械も必要ではないかな」
「設計図は入手済みだから、組み立て工場さえ見つければ量産は可能かと」
「素材はそもそも地上にあるのだろうか」
「素材変換器があれば可能では?」
「あれば浮遊都市固有のシステムだったと認識しているが」
「過去に地上に残った権力者が持っていた情報はありますね。彼らの所在地だった位置情報はわかっています」
黄里と蜜柑は、異他飯委員会の事務所にある会議室の扉の前に来ていた。
今朝の仕事が終わってから、図書館で世界地図を申請し、地上の都市情報も同じく申請したところ、あっけなく情報が手に入った。
それを手に異他飯委員会へと提出したら会議が始まったのだ。会議に参加はできないが、扉付近にいることは許されている。
[キリ]これは、まとまらなさそうだね。
[ミカン]都市情報と地図情報を渡したら、さらに収集が付かなくなった気がするな。
ストーリーが進展するかと思ったが、今のところは進展するようなまとまりを感じない。ただし、システムからストーリーが付近にあると言われているので、このグダグダ具合も話の一環なのだろう。
進展も無い会議をしばらく聞いていたら、事務所の別の部屋から飛び出した人が走ってきて、会議室の扉を問答無用で開けて入っていった。
「大変です!」
「なんだね。会議中だぞ」
扉付近の男性は、無断で入室した人に文句を言うが、会議室の中央に座る壮年の女性がそれを手で制し、入室した人に話の続きを促す。
「どうしました?」
「護衛艦からの連絡です! 地上の都市にいくつか連絡を取ったところ、1万人規模の受け入れが可能な都市と交信が取れたとのことです!」
ガタリと何人かが立ち上がる。それが本当なら殆どのメンバーが移住できる。いや、それどころか、それを足掛かりに自分たちの都市を探すことも容易になる。
「いつ、どこが受け入れてくれるのか!」
「受け入れはすぐにでもだそうです。詳細はこちらを!」
手にしていた書類を、中央の女性に渡す。女性は確認をするが、その手が震えている。
「この都市が、地上へと向かっているのは知ってますよね。その軌道上にある都市みたいです。数日以内には上空を通過するとあります」
「こうしてはいられない! とにかく移住したい人に連絡を!」
「到着日時を計算しろ! それに合わせて実行する!」
「落ち着きなさい!」
慌てだした周りの人たちを一括する女性。
「この都市の今わかる情報を持ってきなさい。1時間で検討・決定し、行動しましょう」
意見が空回りしていた会議の様子が一変していた。
それと同時に、黄里と蜜柑にストーリーミッションクリアの報告が入る。
[ミカン]ここで区切りか。どうする? もどるか?
[キリ]いえ、アカネたちは会食中ですし、早々すぐは戻らないでしょう。どうせならここで新しい情報でも仕入れましょう。
そうして、さらなる情報を収集するためにふたりは動き出した。
ピタは、ピザの起源ともいわれてるようですね。ここから浮遊都市のピザ文化が始まりました。




