『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』07
「皆様にご挨拶が遅れました。私は、この家の主人の妻でモーリエと言います。実は皆様にお願いしたいことがありまして。よろしければお時間をいただきたいのですが、いかがでしょうか?」
落ち着いた声音でゆっくり丁寧に話すモーリエさん。
ミカン:ストーリーミッション関連なら聞くべきだな。
アカネ:さんせー。
チャコ:うんうん。
キリ:了解
「はい、奥様。依頼であれば、お話を聞かせていただきたく思います」
黄里先輩が代表して、丁寧にあいさつをする。自然と奥様って言葉が出てくるのがすごいな。
「わたくしたちも、時間は大丈夫です」
ミテラさんたちも同じく大丈夫みたい。
奥様ともう一人の女性についていくように、私たち8人は別室へ案内される。
別室では、テーブルを前後に薄茶色の高級そうなソファーが並べられている。奥様がひとり座るソファーに向かい合う形で、8人が座れるような配置。あらかじめ準備してあったんだね。
「どうぞ、おかけください」
との言葉に、座らせてもらう。中央は黄里先輩とミテラさんで、それぞれの店ごとに左右へ分かれて座る。うわ、ふかふか。
「そういえば皆さん、もう夜遅いですけれど、ご家庭への連絡はよろしかったですか? ご主人がお待ちになっていたら連絡をする時間は設けますけれど」
ご主人……私たちが結婚してるように見られてるんだろうか。いや、ミテラさんたちかな。すごく大人の魅力があるから。
「わたくしたちは大学生ですので未婚です。実家から来ている人も帰りが遅くなると連絡してこちらへ来たので大丈夫です」
「私たちは高校生ですが、全員家に連絡を取ってあるので問題ありません」
住人ですらないけれど、それはそれだよね。NPCから見たら、夜遅くに学生が家族に連絡することなく夜更かしするのは心配して当然な対象だからね。
私たちの言葉に、満足そうに頷くモーリエさん。……一瞬だけ違和感を感じた。別に悪い感じではないし、話を続けられるから安心したって表情にしては、ちょっと過剰に嬉しそうな感じだった。なんだろ。
先ほどの緑のワンピースの女性――多分メイドさんは、私たちの前にグラスに入った透明な飲み物を用意してくれた。炭酸のような泡が立ってて、しゅわしゅわ音がする。さっそく一口飲んだら予想通り炭酸水だった。ほんのりレモン味がしているから、ピザと合わせて飲むと相性がよさそう。
「それでは、お話させていただきますね。皆様は36番通りを新たに新設する事業はご存じでしょうか?」
うんうんと頷く。少し前にも上から工事現場を見たし、ゲーム中に完成するのかどうかが楽しみな工事である。
「私の主人が、その事業を委託されておりまして、息子も監督として現場の仕事に従事しているのです。今日のパーティーは工事関係者のご家族を何家族かお呼びしての交流会でしたの」
キリ:あの規模の工事を委託されるって、とんでもないことなんじゃない?
ミカン:さすがに大通りに面して一軒家を立てるだけはあるね。
「夫も息子も、もう1か月も下で工事しているのですが、そこでは自動製造ピザしか食べられない過酷な環境なのです。窯で焼いたピザが食べたいのではないかと思うと、不憫で仕方がなくて……」
「奥様、しっかりなさってください……」
泣き出す奥様と、奥様の背中を支えるメイドさん。メイドさんも泣いている。
ミカン:悲しそうな演技しろ。
そんな先輩の言葉に、頑張ってそんな表情を作ってみる。……『もふれ! もふもふの里♪』の猫ちゃんたちがごはんを食べなかったら? それは悲しい。あ、泣けてきた、つらい。
「奥様! わたくしに何かできることはありますでしょうか!?」
ガタンと立ち上がり、ミテラさんが奥様に話しかける。ミテラさん、すごく泣いてる。やっぱりここの住人はピザにかける熱量が全然違うな。
「ありがとう、ミテラさん。実は今日それぞれの店を呼んだのは、この事に関係するのです。できれば、今日来ていただいた方々で、下の工事現場に出張してピザを作ってはいただけないでしょうか?」
「お店ではなく、わたくしたちですか?」
首をかしげるミテラさん。普通はお店を通して従業員が割り当てられそうだけど、今回は違うみたい。依頼の仕方としてはちょっと一般的じゃなさそう。
「ええ。お店で選んでもいいのですが、やはりピザを作る人を目で直接見て選びたかったのよ。最後、子どもたちのために協力してピザを作る姿は素晴らしかったわ。この依頼、あなた方に託したいと感じました。もちろん、報酬は弾みますし、危険手当も出させてもらいます」
「危険手当……奥様、わたくしの店のバイクは、地上用で空中は飛べないのです」
「私たちの店も同じです。地上の走行専用で、飛行できるタイプではありません」
ミテラさんの口ぶりからすると、下で作業する場合は空を飛べるバイクが必要なのかもしれない。
「依頼を受けていただけるのなら、飛行ユニット1台をそちらの店へ融資し、3台は依頼期間中、無償で貸し出します。36番通りの建造範囲は広いので、数日かかる依頼となってしまいますけれど、どうでしょうか?」
飛行ユニット! バイクの追加装備で、今のバイクが飛べるようになる。どんな乗り心地になるんだろう。
キリ:当然受けるよね?
ミカン:もちろん!
アカネ:同じく!
チャコ:楽しみ~。
「ぜひ依頼を受けたいのですが、その前に本店へ連絡を取ってよろしいでしょうか?」
「わたくしたちも、依頼を受けたいと思います。同じく、連絡してよろしいでしょうか?」
「ええ。……いえ、ここにいる皆さんは依頼を受けていいと考えていただけているのでしょうか?」
全員が頷く。
「では、こちらから各店舗に事情を伝えますね。お名前を書いてもらえないでしょうか? 皆様を指定することになるので」
奥様がそう言うと、メイドさんがメモ帳とペンを取り出して、テーブルに置く。
一番端にいる茶子がそのメモ帳をサッと取り、パラパラめくった後で名前を書いている。そして横の私に渡してきた。茶子はメモ帳の真ん中あたりに店名、一番下に名前を書いていたので、茶子の名前の上に書いた。
チャコ:メモ帳に小細工はないからね~。
さすが茶子、抜け目がない! この流れでメモ帳を確認するなんて思いつかないよ。
「皆様、ありがとうございます。明日か明後日には店舗へと連絡が行くでしょう。よろしくお願いいたします」
モーリエさんは、そう話を締めくくって解散となった。
解散になったのだけれど、そのままマードレ・ピッツァの4人と自己紹介をする流れになった。しばらく一緒に仕事をするんだから交流は大切だよね。
全員がロマ大学の2年生で、ひとりを除いてピッツァ家政科らしい。ちなみに、私たちの職業はナポ高校のピッツァ普通科で、学校に行けば座席がある。なお、フラテッリ・ピッツァのエルマーは同級生だ。
ミテラさんは、薄くて黄色い長い髪に、毛先がロールしている。リーダーっぽいけど、バリバリ仕切るようなタイプでは無さそう。「わたくし」とは言うけど「ですわ」ではないから、お嬢様っぽいけどお嬢様キャラじゃない。物腰も柔らかでかわいらしい高い声だけど、優しい話し方の人だ。こんなお姉ちゃんが欲しいかも。
マドラさんは、ミテラさんと同じく黄色い髪だけど、より明るさのある髪色だ。肩までの髪にパーマがかかってるのか、ウェーブがかけてある。明るく笑顔で接してくれた気さくな人。声の大きさもちょっと大きいのが、明るい人だと感じさせるのに拍車をかけているのかな? お姉ちゃんになると毎日楽しそう。
メエルさんは、私より濃い赤色の髪色で、腰まである長い髪をしている。黄里先輩と同じくらいの身長なので、170センチはあるのかな? もの静かな女性だけど、私が子どもたちと一緒にピザを作り始めたことを沢山ほめてもらった。この人がお姉ちゃんになると、ずっと甘えていそうだ。
マーレさんは、明るい茶色で、肩まで伸びた髪を後ろで1つ縛りにしている。この女性だけ、看護学科とのことだ。蜜柑先輩と気が合うのか、ピザの話を沢山していた。ピザ作りに情熱を燃やしているようで、私たちが作ったピザについても横目で見ては研究していたみたい。もしお姉ちゃんになったら、色々教えてくれて頼りになりそう。
ミカン:しっかし、見事に美人ぞろいだな。
キリ:男性プレイヤー目線であの人選なのかな。
ミカン:どうだろ。割とこういうパターンで性別反転することはよくある。
チャコ:スタイルも良かったよね~
ミカン:アカネがおっぱいのサイズ全敗だからな。
アカネ:いえ、私はちょっとある程度ですからね?
キリ:ここにいるメンバー余裕で3タテしてるサイズだよね?
アカネ:キリ先輩まで! 泣いていいですか?
チャコ:泣きたいのはあたしだ~! わけろ~!
「4人とも年下なんだけど、キリさんとミカンさんは背も高くて大学生って言われても違和感ないよね」
マドラさんが私たちを見てそう感想を述べる。確かに、マードレ・ピッツァの人と見比べても見劣りはしない。逆にマーレさんは私たちと同じくらいの背の高さだから、高校生って紹介されても違和感を持たれないかも?
「年下ですし、呼び捨てで構わないですよ」
「そう? でもわたくしは呼び捨ても苦手なので、キリさんって呼ばせてもらうわね」
「じゃあ、私はキリとミカンって呼ばせてもらおうかな。そっちもマドラでいいよ」
「私も、マーレで構わない」
「私はミテラと同じくキリさんって呼ぼうかな。あ、メエルって呼んでくれるのは構わないわよ」
「わたくしも呼び捨てでいいですからね!」
先輩たちが呼び名を色々決めていってる。
「アカネちゃんとチャコちゃんは、ちゃん付けで呼びたいな。妹みたいだから」
「はい。呼び捨てでも、ちゃん付けでもどちらでもオッケーです」
「メエルお姉ちゃんって呼んでもいいんですよ?」
「メエルずるい!」
と、色々話をして、私と茶子は全員からちゃん付けで呼ばれ、こちらからは〇〇さんって呼ぶことに落ち着いた。ミテラさんとメエルさんはお姉さん呼びをまだあきらめては居なさそうだけど。
それ以外の雑談もしながら、相手と交流を深めて今日は解散となった。
『ストーリーミッション:CLEAR!』
「あれ、これでクリア?」
「断る分岐もあったんじゃないのか?」
「なるほど~」
ソレッレ・ピッツァに戻ってから、今日はログアウトをする。明日は学校でログインする予定だけど、蜜柑先輩だけは学校に行かずに自宅で時間を合わせてログインするそうだ。
自動製造ピザは、自販機のハンバーガーをイメージしました。朝昼晩1ヵ月あれではやる気も出ないでしょうね。




