『ピッツァ! ピッツァ? シティ!?』06
4人が一緒に店を出て、キックボードでケータリング先に移動を開始する。食材や道具は私たちが冷蔵庫や棚を開ければ、使えるものが勝手に整列されて入っているので手ぶらで移動可能。便利なんだけど、私たちが勝手に上位素材を使えないようにする処置だと思う。
「6番通りに家があるんだって。通りに面した位置に芝生があるみたい」
7番通りを越えて6番通りに入り、しばらく進むと正面の芝生が綺麗に整えられた、大きな家が見えてきた。お店で確認した場所と一致してるから、あの家が依頼のあった家だね。
「結構な豪邸だね。庭が広いし、どんな人が住んでるんだろう」
「これだけデカいとクリア報酬に期待持てそうだし、アチーブの高額ピザ頼まれるかもしれんぞ」
前を走る先輩たちの話を聞きながら、茶子と並走しつつ豪邸の前の道路部分まで到着。芝生内にある道路を通り、玄関まで進む。木製の大きな扉の前まで到着し、インターホンを黄里先輩が押す。
「ソレッレ・ピッツァです。ケータリングサービスに来ました」
インターホンから返事があり、中から緑のワンピースを着た壮年の女性が現れた。
「ようこそ、今日はよろしくお願いします」
4人とも証明書を見せることで問題なく家の中に招き入れられて、ひとつの部屋に案内された。部屋といってもかなりの広さで、30畳以上はある。
ピザ窯の位置も教えてもらい、さっそく準備に取り掛かる。
基本は立食パーティーのようで、別の部屋に椅子とテーブルがあり、そちらは準備不要とのこと。
テーブルを並べ、テーブルクロスを引き、取り皿を並べる。カトラリーも設置するけれど、ピザは手づかみで食べる人が多いから使わないかもしれないけど、一応ね。正式なマナーとしてはナイフとフォークで食べるんだけど、普段は手づかみだ。
ドリンクは、ケータリングセットみたいなものがあって、いわゆるドリンクバーを設置可能。ただ、これはこのゲームのおまけ要素であって、売り上げとしては微々たるもの。本命はやはりピザである。
ピザは出来立てアツアツを食べるのが一番ではあるんだけど、ある程度は焼きあがったピザをトレーに乗せておく必要があるので、その準備もしておく。ただ、焼くのはもう少し後だ。冷めたらおいしくないからね。
そうして準備していると、玄関からピンポーンと音が鳴った。パーティーのお客さんかな? 私たちは迎えに行く必要もないのでそのまま準備をしていると、
「それでは、マードレ・ピッツァの皆さんはこちらの部屋をお使いください」
という声が聞こえてきた。
『バトルミッション:マードレ・ピッツァより多くピザを提供する』
え、ケータリングでバトル?
声がした方に目を向けると、私たちが準備している部屋に私たちより少し年上くらいの女性たちが入ってきた。
「あら、こちらでもピザ屋さんが来てるのね。はじめまして、私たちは『マードレ・ピッツァ』の者です。今日はよろしくお願いいたします」
薄く黄色い髪の女性が入ってきて、近くに居た黄里先輩と茶子に挨拶をしている。その女性の後ろからも、同じ制服を着た3人の女性が入ってきたので、私と蜜柑先輩もそちらに向かい、挨拶をする。
「キリさんですのね、わたくしはミテラと言います。お互いパーティが盛り上がるピザを提供いたしましょうね」
かわいらしい高い声のミテラさんは、そう言い残して、マードレ・ピッツァに割り当てられた部屋へ戻っていった。
「ここでバトルが発生するんか。クエストミッションって勝手に思ってたな」
「単なるケータリングだと侮ってたよ。これは全力でやらないとね」
マードレ・ピッツァの面々が帰っていった先を見ながら話す先輩たち。そんな中、茶子はするすると向こう側の部屋の入口まで移動してく。
「品数はどうなんだろ~。同じレベルなのかな~?」
と言いつつ、偵察行動を開始する。時間もあるし私も見に行こう。テーブルや道具を準備してる……あれは、麺棒?
「ローマピッツァかもね~」
「やっぱり?」
私たちが作ってるピザは、ピザの周囲に耳があるナポリピッツァ。宅配をするとナポリピッツァと認められないようだけど、ケータリングの今回は堂々と言える。
一方でローマピッツァは、麺棒で生地を薄く広げてることで、生地の耳まで均一に伸ばし、生地の端までトマトソースを塗るピザだ。
生地のふわふわ感が好きな人はナポリピッツァで、パリパリ感が好きな人はローマピッツァを選びそう。
ただ、食べる人の好みだけで勝負となると、勝敗はピザの種類だけで決することになる。それでは勝負と言えない。何か別の要因が設定されていて、その結果ハッキリとした勝負になるはずだ。
「作業台に乗ってる具材を見たけど、差はなさそうだね~」
「そうなると、提供速度?」
「役割分担をしっかり決めないとね~」
茶子と一緒に私たちのスペースに戻って、先輩に見てきたことを話す。
「こっちに麺棒が無い以上、相手もナポリピッツァを作ったは場合はこちらが1品少なくなる可能性もあるのか」
「開始してから客の反応をチェックが良さそうだ。チャコ、アカネ、客の反応も見ておくんだぞ」
「「はい!」」
方針は決まったので、ピザ作りの続きを頑張る。お客さんは、見た感じ10家族は居そうなので、かなりの規模のパーティだ。ドンドン作った方がいい。
ピザを中心に、カルツォーネも織り交ぜて作ったら次々にトレーへ乗せていく。
『提供割合』
『ソレッレ・ピッツァ50:マードレ・ピッツァ50』
パーティーの開始時間が迫ったころ、空中に表示が浮かび上がった。
「この表示、枚数じゃないってことは、トレーに切り分けられて出されてるピザに配慮しているってことだな」
なるほど。確かに切り分けられたピザを1枚で数えるのはおかしいもんね。
そうこうするうちに、パーティーが本格的に開始した。それぞれの家族がピザを求めて厨房へやってきて、アツアツのピザが欲しいと注文をしてきた。ほとんどの人がマルゲリータだけど、ビスマルクの人もいる。
「やっぱりピザは出来立てがいいんだよ!」
そう言って、提供したマルゲリータをぱたんと二つ折りにして、一気に口の中へ入れてしまう男性。熱いピザを熱いうちに一気に食べるのが、やはりこの世界の一般的な食べ方らしい。それは性別も関係ない。女性だって同じようにして食べる。
「そうよね、この熱さがたまらないのよ」
こちらの女性も、提供したピザをすぐに食べてしまう。これは作る速度をドンドンあげなきゃ!
茶子と私は、向かい合わせの隣どうしで一緒に生地を広げ、チャコがトマトソース、私がチーズとバジリコを乗せて、最後に茶子がオリーブをかけて完成。
蜜柑先輩はその隣で、注文が少ないビスマルクとカルツォーネを作る。
黄里先輩は焼きと、合間に皿に乗せて提供をしている。
「トレーの方は大丈夫?」
黄里先輩が窯に集中しながら聞いてくる。
ちらっと見ると、子どもたちがトレーの方に集まってピザカッターで切られたピザを取り分けて食べている。トレーの中身の方は、まだ残っている。
「大丈夫そうです!」
「了解!」
こちらの注文も、まだ沢山の人がいるけれど、最初ほどの勢いはない。並んでいる人の手には、向こうのピザを持っている人もいるので、それぞれ食べ比べているのだろう。
「ふわふわとかりかり、どちらもいいですなぁ」
「私はナポリですわ。食べたときに舌にのる生地のやわらかな甘さが、噛んだ後のソースとチーズが相まっておいしいのです」
「僕はローマかな。生地が薄い分だけトマトソースを強く感じられて旨味を感じるな」
大人たちはピザを両手に、様々な意見を交わしている。もちろん、普通の雑談もしているけれど、ピザの話題が多い気がする。さすがはここの住人と言ったところか。
とはいえ、話を聞く限りではどっちにも良い部分があるので、どう改善していけば相手に勝てるかのヒントはまだ見つからない。
『ソレッレ・ピッツァ42:マードレ・ピッツァ58』
むむ、負けてる。何か原因が?
「あの人が持ってるピザ、四角い~」
茶子の目線を確認してそちらを見ると、確かに四角いピザを持っている。
「ローマのあれか! 天板で焼くピザ!」
蜜柑先輩が言うには、ローマ風のピザには天板に伸ばすように生地を広げて、焼いた後切り取るピザがあるらしい。有名なのはアンチョビを乗せるロマーナピザだけど、そうでなくても具材は店によって自由だそうだ。
そして、大きな天板でまとめて焼くから、多少焼き時間が掛かっても多くの人に提供できる。また、欲しい人に欲しいだけ切り取って分けられるから、1枚渡すより喜ばれる場合もあるみたい。
「何か逆転できそうなのはないか!」
とはいえ、これといっていいアイデアはそうそうに出てこない。チーズの味を変えたとしても、そこまで劇的に逆転できそうにない。
「オリーブ油があるから、せめて揚げ物でも出来れば」
「あ~、フライパンならあります~」
黄里先輩の言葉に茶子が答えて、ストレージからフライパンを取り出した。裏に赤い文字で『建築反対』と書いてある。
「アレもってきたの!?」
「投げ捨ててもったいなかったから~」
「チャコでかした!」
黄里先輩は茶子からフライパンを受け取り、洗い始める。砂とかついてるからね。
「アカネ! チャコ! こっちきて作り方覚えろ!」
蜜柑先輩が私たちを呼びつつ、生地を伸ばす。薄い生地が必要だから麺棒がある方が効率的だけど、無いので自力で薄く伸ばすしかない。広げた生地の真ん中に、トマトソース、チーズ、バジリコを入れて半分に閉じ、カトラリーから持ってきたフォークで生地の周囲を押さえて閉じる。
あとは、準備したオリーブ油で揚げたら、ピッツァフリッタの完成だ。フライパンの都合であまり数は出ないけど、ここから揚げ続ければ多少は挽回できるかも。
『ソレッレ・ピッツァ48:マードレ・ピッツァ52』
ピッツァフリッタが提供されてから、お客さんも喜んで注文し、かなり挽回できた。それでも、作れる数の少なさから、なかなか逆転には至らない。
周囲を見渡すけれど、ピザ作りもこれ以上効率化はできないし、注文もお客さんの都合なので、どうしようもない。トレーは……そういえば、交換したっけ?
見に行ってみると、それなりに量はある。ただ、もう冷めてしまって取る人はいないだろう。これの交換が今できることかな。
……この残ったピザ、トマトソースが多い。というか、それだけ寄って残してる?
確か、これ食べてたのって。
ぐるっと見渡して、目標の人たちを見つけたのでそちらに駆け寄る。
「こんばんは。君たち、ちょっといいかな?」
何人かで集まっている子どもたちに声をかける。はっきりとした返事はなかったけど、聞いてくれそうな雰囲気だったのでしゃがんで目線を合わせる。
「みんな、どんなピザが好きかな?」
子どもたちは、お互いに顔を合わせた後、こちらを見て、
「チーズの!」
「甘いの!」
「お肉いっぱい!」
と、次々に話し出した。
「トマトソースはあんまりかな?」
トマトソースが多いピザを寄り分けてたみたいだから質問してみた。
「ちょっと酸っぱいから」
「少ない方がいい」
なるほど。子どもには子ども用のピザを用意しなきゃダメだったんだ。
「じゃあ、お姉ちゃんについてきて! みんなのためのピザを作るよ!」
そういって子どもたちを引き連れて、作業台へ戻る。作業台の近くに椅子を置いて、そこに子どもが順番に乗って作業台の上を見てもらい、それぞれの好みを聞きながらピザを作る。
出来上がったピザは、子どもたちが自分でピザカッターで切りたいようなので、視界に入る位置で切らせて、私は次々に子ども用のピザを作っていく。聞こえてくる声が楽しそうだ。
そのうちに何となく子どもの求めるピザもわかってきたので、どんどん作っていたら、さっきの集団とは違う子どもたちも集まってきて、焼いたピザを次々に食べにきた。
周りが子どもたちの笑顔であふれていてすごく和む。手はフル回転だけど。
『タイムアップ!』
『ソレッレ・ピッツァ53:マードレ・ピッツァ47』
『ソレッレ・ピッツァの勝利!』
よし! と心の中で叫ぶ。なぜなら、まだ子どもたちが食べたがっているからだ。規定時間は過ぎたものの、食べたい子がいるならやっぱり作ってあげなくちゃね。
パーティー参加者の大人は、おつまみ程度のピザでいいのか、作り置きで満足しているみたい。
「あの、わたくしたちも手伝ってよろしいでしょうか?」
気が付いたら、マードレ・ピッツァの人たちがこちらに来ていた。子どもたちへのピザ作りを手伝ってくれるらしいので、もちろんお願いした。子どもの意見を聞きながらだと全体的に速度が遅くなっちゃうから、作り手の人数が多いのは助かる。
そのまま作り続けて、タイムアップしてから15分経過後に、ようやく子どもたちも満足したらしく注文もなくなって他の場所で遊んでいる。
「アカネちゃん助かったよ」
「最初にキリ先輩がトレーの残量の声かけをしてくれなかったら、気が付きませんでした」
「チャコもいい物もってきてたな」
「ストーリーミッションで拾ったんですよ~」
茶子のあれが無ければ確実に負けてた。
子どものピザは、タイムアップ後にあれだけ延長したから、きっと気が付くのが早ければ子ども用のピザだけで点数は逆転できたのかもしれない。
けど、遅れた分だけ時間内に点を取り戻す量が少なくなったため、その穴を茶子のフライパンが埋めたんだ。
「マードレ・ピッツァの皆さんも、ありがとうございます」
「いいえ、子どもが楽しそうにしているのを見て、私たちも混ぜてもらいたかっただけですから」
黄里先輩のお礼に、ミテラさんがニコニコ微笑みながら何でもないという風に答えた。優しくていいお姉さんたちだ。
「みなさま、お疲れさまです」
明るい赤色のマーメイドラインのドレスを着た女性がこちらにやってきて声をかけてきた。若く見えるけど、年齢はわからないな。玄関に入ったときに会った緑のワンピースの女性は、その人の斜め後ろで、両手をお腹に当て背筋を伸ばして控えている。
「本日はありがとうございました。主人に代わりお礼申し上げます」
そういって女性は微笑んだ。
『システム:ストーリーミッションが付近にあります』
テレビで見た旅番組で、イタリアのナポリピザの店では常連さんがピザを畳んで10秒かからず3口で食べてました。いい笑顔を浮かべながら、ピザは熱いうちに食べるのが常識だって言ってたのが印象的でした。




