12月21日 越える
結局、お兄ちゃんが出て行った家は、とても静かだった。僕とお母さんとお父さんのいつも通りの生活がまっていた。お兄ちゃんがいた頃は、常にリビングが賑やかだった。普段は、静かなお父さんもお兄ちゃんがいる時だけは、よく話していた。
話の内容自体は、そんな大したことではなかった。大学の話や友だちの話。僕が話してもおかくしないような話。でも、お兄ちゃんが話すとなぜか俺たちを元気にしてくれていた。いつも、お兄ちゃんの話を聞いていると、凄いなと感心させられていた。いかに、お兄ちゃんの存在が大きいかということに気がついた。
そんなお兄ちゃんはというと、一人暮らしの家には帰らず、友だちの家に転がりこみ転々としていることを昨日の連絡で知ったのだった。なんで、帰らなかったのだろうか?また、どうして実家から出て行ったのだろうか?僕には、お兄ちゃんの考えが全くわからなかった。
本人からは、正月には、また帰ってくることを言っていたが、本当かどうかすらわからない。なんせ今は、福岡にいるのだから。友だちの家にいる時間があったら、バイトでもしてお金を貯めたらいいのに。でも、もしかしたら、こういう無駄なことがお兄ちゃんの友だちの多さにつながっているのかもしれないな。
お兄ちゃんは、俺と同じ聖徳高校出身。小学校、中学校は、サッカーに明け暮れていた。しかし、高校に入ってからは、サッカーをすることがなかった。小、中とチームの中心だったお兄ちゃんが変わったのは高校生になった時。サッカーの体験だけ行き、部活には入らなかった。
部活に入らなかったこともあり、友だちと遊び続けていた。学校サボって遊びに行ったり、バンド組んだり、ヒッチハイクにでかけたりと自由気ままな生活をしていた。それを見ていた親も何も言わなかったのも不思議だった。高校3年生の夏になると、これまでとは別人になったように勉強しだした。
一日8時間は平気で勉強してた気がするし、みるみる成績も上がった。結局、東北の方にある国公立大学に受かったのだった。当時の様子を見ていた僕からして見ると、凄いの一言に尽きた。僕ですら、一日6時間ぐらいしか勉強できるし、お兄ちゃんが合格した大学には絶対無理だ。
俺は、スマホをしまい再びシャーペンを手に取った。いつかお兄ちゃんを追い越したい。そんな想いがずっと頭の片隅にあった。でも、やっぱりそれは難しいことがわかったのだった。