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謳われる者

「何でこんなにもお別れは悲しいんでしょう?

 きっと、会えないと言うそのことが悲しいのだと思います。

 死ぬこととは二度と会える可能性がなくなること。

 だから。人との別れは何時でも悲しいものなのでしょう」

 少年の体に左腕は無く。

 顔の左半分を覆っている包帯は、その隙間から時折、砂を落とす。

 墨のような黒をだった髪の色は、今や見る影もなく。

 一本残らず漂白されたように不自然な程の白さだった。

「それでも、お別れは誰にも必ずやってきます」

 光を移さない右目は砂の涙を目尻に溜め。

 鼻から頬まで走る傷跡のような亀裂は、彼の命が残り僅かな事を雄弁に物語っていた。

 そのようなボロボロの体を引きずり、彼が語るは何百と言う人の前。

 彼を写した記事を見て、彼の最後を看取ろうと集まった者達。

「ですから、死ぬこと。

 それ自体を恐れないで下さい」


 その言葉に一人の目深にハットを被った黒尽くめが答えた。

「何故だ?何故恐れない?

 俺は俺以外がどうなろうとも構わない。

 だから、死ぬことは何よりも恐ろしい。

 例え他人を傷つけようとも。

 例え戦場から逃げ延びようとも。

 俺は一人で生き延びるぞ!」

 周りにいた者達は声を張り上げる男にギョッとしていたが。

 その言葉には少なからず賛同できる物があるのだろう。

 ざわつく観衆の中で、演説台上の目すら見えない少年は応えた。


「今の望みは誰の望みですか?」


 光を映さないはずの右目が声を上げた方へと動く。

 ただ一言。

 目すら見えない少年が発した一言、それで世界は静寂に包まれる。

 その静寂を破れるのは無論、彼のみ。

 先ほどまで微笑むように語っていた彼の顔に、いまや表情は無く。

 哀れむような、そのような雰囲気の無表情をしていた。

「今の望みは貴方の望みですか。

 貴方は一人で生きて行ける強い方なのですね。

 ならばぼくの声など聞かず、今すぐ月や地下へと向かうべきです。

 ぼくは止めはしませ…ん……」

 そこで激しく咳き込み、口から一握り程の砂を吐く。

 このように語る事すら苦しいであろうに、それでも彼は語ることを止めない。


「ぼくは、ひとり孤独に生き延び続けれるような強い者達と

 共に生き続ける事を望みはしません」


 そう言い放つと、一度照れたように微笑み。

 右手を胸に当て、神に祈るような仕草をとる。

 自分でも偉そうな事を言っていると言う自覚はあるのだろう。

 それでも彼の語りは止まらない。


「ですが、みなさん。

 もしも今日という日を支え合い、駆け抜けて。

 何時の日にか今日の事が思い出される度に、自分達の友を思うでしょう」


 その仕草はまるで遠い日の友を思うように。

 その語りはまるで友人を誇らしく自慢するように。

 とても嬉しそうに。

 そして、どこか寂しそうに。


「人とは忘れやすい生き物です。

 それでも、他のことは全て忘れてしまっても。

 遠い日の幸せだった記憶や、嬉しかった事柄は。

 如何に辛い時でも。

 むしろ、辛い時こそ幾度と無く思い出されることでしょう」


 そこで一度、話を切ると。

 周りを見渡す仕草をし。

 全員に握手を求めるように右手を前へと差し出す。


「死を恐れ。

 この地上を去った者は、後に我が身を呪うでしょう。

 何故なら、例え行く末に死が待ち受けていようとも。

 ぼくたちは絆で結ばれた、幸せな者達なのだから」


 そして、飛びっきりの笑顔と共に。


「ぼくを看取ってくれる。

 そんな、暖かな貴方達なのだか」


 涙が一筋、彼の頬を伝った。


「また会いましょう、ともたちよ」

12回目差し替えに『地球は青かった』を削除。

同じ演説物でもこっちが最初の原案にして半リメイク。

浄化の説明とかは脳内補完の方が幻想的かと思いまして除去。


シェイクスピア『ヘンリー5世』のヘンリー王の演説アレンジ。

アレンジとオマージュは結構、やっていきたい。

近道こそが王道。模倣は文章技術向上のショートカット。

でも、かなりアレンジしてて原型ほぼ無いです。

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