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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
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第85話 心配するな

のどが痛い(´;ω;`)ウッ…

 声のした方へ目を向けると、村長宅の入り口からこちらを伺う小さな人影が目に入った。

 10歳くらいの活発そうな少年と、その背後に隠れるようにしてこちらを見ている、7、8歳ほどの女の子だ。どちらも人族で、茶色の髪、顔立ちもどこか似通っていることから、兄妹であることが伺える。


「コラッ、リュン、ルピィ! 家から出るな、って言っただろうが!」


 2人を見た途端、ヒューゴが雷声を発した。途端、2人がビクリと身体を震わせる。


「でも父ちゃん……」

「でもじゃねぇ!」


 ぴしゃりと叱られ、しゅんとするリュン少年。いまのやり取りからして、2人はヒューゴの子供らしい。


(似てないな……)


 そう思ったのは慎也だけではなかったはずだ。

 いかにもごっつい、山の男といった感じのヒューゴに対し、リュンは線の細い、整った顔立ちの少年だし、ルピィは普通に可愛らしい。


 会話から察するに、父親に無断で家を抜け出し、ここへ来たらしい。オークや盗賊がうろついており、いつ襲ってくるかもそれず、女子供を守る為に村中が厳戒態勢でピリピリしている中でそんなことをしていたら、親としては怒りたくもなるだろう。


「待ってください」


 我が子に説教を始めたヒューゴを、フェルナが制した。


「ちょっとその子たちの話を聞かせてもらって良いですか?」

「まあ、構いませんが……」


 フェルナのお願いに、ヒューゴはしぶしぶといった感じで引きさがった。

 入れ替わるようにリュン少年に歩み寄ったフェルナが、屈んで彼に視線を合わせて問う。


「リュン君、だったわね? さっきの話だけど、近くに川があって、見通しの良い開けた場所に心当たりがあるの」

「うん、あるよ」


 フェルナの問いかに、リュンは頷いた。


「近くに村があるんだ」

「誰も住んでないの」


 リュンの説明を、ルピィが補足してくれた。


「誰も住んでない村?」


 フェルナが首を傾げていると――


「お前たち、まだダカ村に遊びに行っとるのか?」

「あそこには絶対行くなと、何度も言っただろうが!」


 村長とヒューゴが大声を上げた。


「い、行ってないよ! ただ、知ってるから教えてあげようとしただけだよ!」


 と、慌てた様子でリュンが反論した。


「ちょっと待ってください」


 フェルナが村長とヒューゴ、リュンとルピィの間に割って入った。


「この子たちから詳しい話を聞きたいんですが、よろしいですか?」

「はぁ、構いませんが……」


 フェルナに言われて、村長とヒューゴはしぶしぶと言った様子で引きさがった。


「じゃあ、リュン君、だね? その村のこと、お姉さんに詳しく聞かせてくれるかな?」

「う、うん……」


 リュンの前で屈んで小柄な彼に視線を合わせながらフェルナが尋ねると、リュンは素直に頷いた。若干頬が赤い。贔屓無しに見ても充分美人と言えるフェルナに間近で話しかけられて、少し緊張しているらしい。


「村の前の道を北の方へ行くと、東の山の中に通じる細い道があるんだけど、それを進んでいくと、いまは誰も住んでない村があるんだ」

「廃村、ってこと?」


 フェルナは村長に視線を向ける。


「はい。確かにこの村の北西に、廃墟となった村が存在します。ダカ村と言って、20年以上前に質の悪い疫病が流行り、村人の半数以上が亡くなり、残った者たちも村を捨て去った為、いまは誰も住んではいません」


 と、村長は暗い顔で頷いた。


「オレたちの秘密の遊び場だったんだ。でも、遊びに行ってるのが父ちゃんたちにバレて、絶対行くな、って叱られてからは、行ってないんだけどさ」

「まあ、当然だろうな」


 慎也も当然、と言った顔で頷いた。

 疫病で滅んだ村、しかも20年以上、手入れもなにもされていない廃墟で子供たちを遊ばせる馬鹿はいないだろう。

 そんな場所まで遊びに行くとは、元気で活発な証拠だろうが、同じくらい危なっかしい。


「つまり、そこにオークが住み着いているかもしれない、って言うんだね?」

「うん」


 フェルナが確認すると、リュンは頷いた。


「ちなみにその廃村って、川の近く?」

「近くっ、て言うか、川沿いだよ」


 リュンが答えた。

 フェルナは頷くと、今度はヒューゴに視線を向ける。


「オークの子供が目撃された苅場からは近いですか?」

「ああ。苅場はこの村とダカ村の、ほぼ中間地点にある」

「なるほど……怪しいわね」


 どうやらフェルナは、その廃村をオークたちが住処としている可能性が高いと踏んだようだ。


「オレからもひとつ、良いか?」


 いまのやり取りの中に少々気になることがあったので、慎也もリュンに質問することにした。


「森でオークを見た子供って、君らのことか?」

「うん。そーだよ」


 あっさりとリュンは認めた。

 やっぱりな、と慎也は思った。好奇心で廃村に遊びに行くような子供だから、ひょっとして、と思ったのだが。


「じゃあ、その時のこと、聞かせてもらえるか」


 慎也はオークのことをなにも知らない。これから始めて戦うことになる以上、少しでも情報を得た方が良いと彼は考えた。


「……よく、判んないんだけど……」


 聞かれたリュンは、その時のことを思い出したのか、微かに身震いしながら話し始めた。


「村の近くの森の中に割と大きな池があるんだけど、オレたちがそこで石投げして遊んでたら、池の向こう側に、いつの間にかでっかい豚みたいな魔物がいて、こっちをじーっと見てたんだ」

「それは、怖かったな……」


 楽しく石投げしてたら、対岸からオークがじっとこっちを見ていた。子供がそんな場面に出くわしたら、トラウマものだろう。


「それで、その後は?」

「びっくりして逃げようとしたんだけど、ルピィが転んで、助けてる間に、いつの間にかいなくなってたんだ。でも、オレたちのこと追いかけてくるかもしれないと思って、とにかく走って逃げたよ」

「豚かなにかを見間違えた、ってことは?」


 結衣が突っ込んだ質問をしてみるが、リュンは頑なに首を振った。


「そんなこと無い! あいつは確かに2本足で立ってた! 絶対オークってやつだよ!」


 子供らしくムキになって否定するリュン。まあ実際、オークが確認されているのだから、この際、彼の見間違いか否かは些細な問題だろう。


 そんなことを言っている間に、リュンにしがみついていたルピィが、俄かに目に涙を浮かべて泣き出した。


「あ、ごめん、ルピィちゃん。君たちのこと疑った訳じゃないの!」


 自分が意地悪な質問をしたせいで彼女を泣かしてしまったと思った結衣は、慌ててそう言ったが――


「ち、ちが、違うの……」


 えっぐ、えっぐと、嗚咽を漏らしながら、ルピィが首を振った。


「うぅ、オークより、もっと怖いのが、ひっく、森にいるの」

「オークより怖いもの?」


 嗚咽を漏らしながらも懸命に訴えかけるルピィに、慎也たちは怪訝な顔で聞き返した。


「あたし、見たの。池にいたオークは、いなくなったんじゃなくて、逃げていったの。オークの後を、なにかが追いかけていったの」

「オークを追いかけて? それって、どんなものだったか判る?」


 フェルナが聞き返すと、ルピィはますます涙を溢れさせ、それでも泣き出さずに首を振った。


「判らないの。でも、オークより大きかったの。それに、凄く速くて、怖かったの」


 どうやらはっきりとは見ていないらしい。小さな女の子だし、無理もないだろう。


「きっと、あのオークは逃げられなかったの。追いつかれて、捕まったの。あの怖いのはきっと、この村に来るの。私たちも、食べられちゃうの!」


 そこで耐えきれなくなったのか、ルピィがリュンにしがみついて大声で泣き出した。


「すまねぇ、兄ちゃんたち。娘は普段はこんな怖がりじゃないんだ。寧ろ、リュンの奴より活発なくらいなんだが、オークを見た日からずっとこんな調子でな」


 泣きじゃくる娘に歩み寄ってあやしながら、ヒューゴが謝った。

 だがいまの話からさっするに、ルピィが怯えてる原因は、オークではなく、オークとは別のなにかのようだが。


「なあ、リュン。君がオークを見た時、他になにか見なかったか?」

「ううん。オレはなにも見てないよ」


 慎也が気になって尋ねると、リュンは首を振って否定した。一緒にいた彼が見ていないということは、ルピィの見間違いという可能性もある。


「村長さん。この辺りに、オークより大きな魔物が出ることって、ありますか?」


 今度はフェルナがホルク村長に尋ねるが、彼も首を振った。


「いいえ。この辺りに出る魔物は、せいぜいがスライムか、たまにゴブリンが数匹出る程度です」

「そうですか……」


 ということは、ルピィが見た”なにか”は、彼女の見間違いだった可能性が高い。


(とはいえ、小さな女の子が泣くほど怯えているのは事実だし、このまま無視するのも寝覚めが悪いな)


 仕方ない、と小声で呟いて、慎也は立ち上がった。


「心配するな」


 恐怖で泣きじゃくるルピィを元気付けようと、慎也は努めて明るい声で彼女に話しかけた。


「怖いのは、オレたちが倒してやる」



 諭すようにゆっくりと語りかけると、ルピィは嗚咽を漏らしながらも少し落ち着いた様子で――


「怖いの、やっつけて、くれるの?」

「ああ。オークも、怖いのも、みんなオレたちがやっつけてやる。ルピィも、リュンも、ヒューゴさんも、誰も食べさせやしない。任せて置け」


 ポンポン、とルピィの頭を軽く撫でてやると、彼女は不思議そうにしながらも、泣き止んだ。


「本当に?」

「ああ、約束だ。だからルピィも、お父さんの言うことを良く聞いて、リュンの側を離れるな。そうすれば、お兄ちゃんが絶対に守ってくれるから。な?」

「も、もちろんだよ!」


 慎也が目くばせすると、リュンが慌てて声を上げた。


「安心しろ。なにも心配ない。怖いのは必ずオレたちがやっつけてやるから、いい子にして待ってろ。いいな?」

「うん。判った! ありがとう、お兄ちゃん!」


 慎也の言葉にすっかり安心したのか、ルピィは涙を手で擦りながら元気良く返事をした。


「ねぇ、あれって、どう思う?」

「えっと、小さい子ですし、別にそんな……」

「もしかしたら、意外にそっちの趣味があるかも知れないわよ?」

「なんの話ー?」

「ちょっと、みんな、聞こえてるわよ」


 結衣、ユフィア、シアーシャ、セリシエル、フェルナが離れた場所でそんな話をしているのを、慎也は努めて聞こえない振りをした。 

次回は今週中に更新する予定です。

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