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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
天使の章
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第86話 嫌な予感がする

怒ったフェルナも怖いけど、慎也はもっと怖いんです((((;≡д≡;i))))

「あとどのくらいだ?」

「村長さんから聞いた通りなら、廃村までちょうど半分と言ったところですね」


 慎也の質問に、杖を抱えたユフィアが答える。


 彼らが進んでいるのは、2つの小高い山の間を縫うように走る小川、それに沿うよう存在する、細い間道だ。長い間使われていなかったらしく、雑草が伸び放題で歩きにくい。それもそのはず、この道の先には例のダカ村しか存在しない。つまり、ダカ村の住民が村と街道を行き来する為に作られた道であり、それが廃村と化した後、20年以上整備されていなかったということだ。


 村長やヒューゴたちからおおよその話を聞いた慎也たちは、すぐに話にあった廃村へと足を向けた。状況から見て、オークの群れがその廃村を住処として利用している可能性が高い、というフェルナの言に従って。


(にしても、また廃墟か……使わなくなった建物は後腐れなく潰せよ)


 前回、廃墟と化した砦を利用していた盗賊団とやりあったばかりだっただけに、慎也は憮然としたものを感じていた。

 元いた世界、平和な時代の日本ならいざ知らず、魔物や盗賊と言った存在が跋扈しているこの世界では、廃墟と言うものはそういった敵性勢力に利用される恐れがある。戦国時代でも城を放棄する際は、破却したり、時間が無い時は自ら燃やして敵に利用されないようにするのが常識だったのだ。


「いまの所、オークや魔物の気配は無し、だね」


 弓を手に、油断無く周囲を警戒するシアーシャが呟いた。

 この辺りは、オークが目撃された場所の割と近くなのだが、いまの所その気配は無い。


「けど、なにかが通った跡はあるな」

「ですね」


 先頭を歩く慎也のセリフに、すぐ後ろのフェルナが同意した。

 雑草だらけの間道だが、よく見ればごく最近、なにかが通ったらしく踏み荒らされた跡が残っているのだ。それが獣なのか、あるいはオークなのかは判らないが。


「いまさらなんだけどさ――」


 唐突に結衣が言った。


「オークの集落を見つけたら、私たちはどうすれば良いの?」

「集落の規模次第ですね。少数なら、この前の盗賊の時みたいに私たちだけで奇襲をかけて殲滅するのも手ですが、オークの数が30匹以上の規模となると難しいでしょう。その場合は、冒険者ギルドに報告した後、ギルドを通して討伐隊を編成した後、殲滅という流れになります」


 いつもの様にフェルナが説明する。すっかり物知り博士のポジションに付いてしまったようだ。実際、彼女のおかげでずいぶんと助かっているのだが。


「それだと、討伐までには2、3日掛かるぞ? その間にオークが村を襲う、ってこともあるんじゃないのか?」

「今回の依頼はあくまで”調査”ですからね。実際、調査中に、あるいは調査後に討伐隊が駆けつける前に村や町が討伐対象の魔物に襲撃を受けた、という事例はいくつもあります。というか、この前の盗賊退治がまさにその一例です」


 確かにあの時、討伐の依頼を受けたフェルナとシアーシャは、盗賊団の規模が予想以上だったことから一旦討伐を中断し、応援を得る為に街に戻った。その間に、盗賊たちは商隊のキャラバンを襲撃してしまった。


「同じ轍を踏むわけにはいかないな」


 慎也が静かに呟くと、フェルナも神妙な顔で頷いた。

 仕方が無かったこととはいえ、盗賊討伐の折に自分たちが離脱したせいで犠牲者を出してしまったことを、彼女なりに悔やんでいたのだろう。


「今回は初手からパーティが2組居るんだ。もしオークの数が大規模だった場合、片方がギルドに報告に行く間、もう片方が村に残って警戒することにしよう」


 慎也の案に、全員が頷いた。


「それだと、人数が多くてレベルの高いシンヤさんたちが村に残って、私とシアが街に戻るのが良作だと思いますけど、構いませんか?」

「ああ」

「いいよー」

「私も構いません」


 フェルナの言葉に、慎也、結衣、ユフィアが順に返事を返した。

 すぐに気付いた。

 返事が1つ足りない。


「あ! 綺麗なお花が咲いてるんだよ!」


 などと、呑気に道の脇に咲いている花に駆け寄る馬鹿が1人。


「良い香り。あ、芋虫発見。あはは、うねうねしてて可愛いんだよ」


 芋虫が可愛いなどと、聞く人が聞けば正気を疑われるようなことを、さも楽しそうな笑顔でのたまうセリシエル。当たり前だが、慎也たちの話など全然聞いていなかった様子。


 ビキッ、という音を立てて、慎也の額に青筋が浮かび、どす黒い怒気が溢れだした。

 その瞬間、木の枝で羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び立ち、茂みの向こう側で餌を求めて徘徊していたらしい動物たちが、悲鳴じみた鳴き声を上げて逃げていく。


「ひぃ!」


 そのあまりの恐ろしさに、結衣、ユフィア、フェルナ、シアーシャたちすらも顔を青くして慎也から遠ざかった。


「森の中って、ぽかぽかしてて、良い匂いで、空気が美味しくて、とっても気持ちいいんだよ」


 鈍いのか、のん気なのか、セリシエルだけは自らに迫る緊急事態にまったく気付いていなかった。


「……楽しいか?」


 底冷えがするくらい冷たい声で慎也が尋ねた。


「うん!」


 と、答えたセリシエルの満面の笑顔に、次の瞬間、無慈悲なアイアンクローが炸裂した。


「あぁ!」

「た・の・し・ん・で・ん・じゃ・ねー・よ!」


 万力のような握力でギリギリとセリシエルの顔面を締め上げる。


「痛い! 痛いんだよー!」

「お前、オレたちがなんの為にここへ来たか判ってるのか? ケミナ村をオークから守る為だ。オレらの行動如何で、あの村の人たちの生末が変わるんだぞ? しかも、いつオークが現れてもおかしくない状況で、なにのん気に花見してんだ」

「あいだだだ、ミシミシいってる、頭が、ミシミシいってるんだよ!」

「心配するな。もうすぐメキメキって音に変わる」

「余計ダメなんだよ!」

「だいたい、お前にとっては今回が冒険者としての最初の冒険だろうが。緊張しろとは言わないが、最低限真面目にやるべきだろう? 違うか? それと、人の話はちゃんと聞け」

「聞く! 聞きます! ちゃんと聞くからやめてー!」

「ピクニックに来たみたいにはしゃぎやがって。お前はガキか? ガキなんだな? ガキならガキらしく扱うぞ? 良いんだな?」

「いだだだだ! 頭が、頭の形が変わっちゃう!」

「ほーら、高い高ーい」

「持ち上げないでほしいんだよー!!」


 指の力だけで慎也はセリシエルを持ち上げた。宙吊り状態のセリシエルがジタバタともがいても、まるで獲物に喰らい付いた肉食獣の咢の如く、頑としてその握力は緩まない。


「あ、あの、シンヤさん。可哀想ですから、そのへんで許してあげてください」


 さすがに可哀想になったらしいユフィアが懇願すると、慎也はため息をひとつ漏らしてセリシエルの頭を離した。


「あうぅぅ~、ひ、ひどい目に遭ったんだよー」


 解放されたセリシエルが、半泣きになりながら頭を押さえて蹲る。


「慎也君、やり過ぎだよ」


 結衣が慎也の制裁を嗜めるが――


「なに言ってる? これでもかなり手加減してたんだぞ」


 しれ、っと答える。


「良いか、セリス。今度同じように気を抜いたら、いまの倍の力で締め上げてやるからな。判ったか?」

「ひぃ! も、もう二度と気を抜かないんだよ!」


 さすがに懲りたのか、気を付けをするように直立不動になったセリシエルが震える声で答えたので、慎也は許すことにした。


 その時――


 ガサガサという音が、獣道の向こう――つまり、廃村がある方向から聞こえてきた。

 明らかに獣ではない。足音からして、二足歩行のなにかだ。それが複数、慌ただしく草木を掻き分けてこちらに近づいてくる。


「……少し騒ぎすぎたかな?」


 刀の柄の手を掛けて慎也が呟くように言った。


「慎也君がうるさくしたからだよ?」


 頬を膨らませて文句を言いながらも、結衣は素早く慎也の後方に下がった。


「そうだな。次からは声も出ないくらい痛くするよ」

「やめてほしいんだよ!」


 さらりとえげつないことを言う慎也に、セリシエルが悲鳴じみた声を上げた。それでも、流れるような自然な動作で剣と盾を構えて慎也の横に並んだ。

 その無駄の無い動作から、記憶を失う前はそれなりの実戦経験を積んでいたことが伺える。


「オークはゴブリンと同様、武器を使用し、多くの場合は群れで行動します。しかも強さはゴブリンの比じゃないので気を付けてください」


 慎也を挟んでセリシエルの反対側にフェルナが並んだ。


「強さだけじゃなくて、性欲もゴブリン以上だから、女性陣は気を付けてね」

「は、はい!」


 弓に矢を番えたシアーシャがおどけるように言うと、ユフィアが若干声を震わせる。


 慎也、フェルナ、セリシエルが前衛として横一列に並び、その後方に結衣、ユフィア、シアーシャの後衛組が布陣する隊形だ。


 その間にも足音は急速に近づいてくる。ほぼ全力疾走に近い駆け足だ。


(……おかしい)


 近づいてくる足音――その速度に、慎也は違和感を覚えた。


(こいつら、ホントにオレたちに気付いてるのか?)


 少なくとも慎也たちからは、足音こそ聞こえるが、茂みに阻まれてまだ姿が見えない。当然、向こうからも慎也たちの姿は見えていないはずだ。


(姿が見えない敵に走って近づくのは変じゃないか? 普通は、もっとゆっくり、警戒しながら近づくだろ)


 ただでさえ、見通しの悪い林の中で走るのは危険だ。どこに岩や木の根といった障害物があるか判らないし、運が悪ければ崖があるかもしれないのだ。普通はゆっくりと、慎重に進む。ましてや、外敵がいるならなおさらだ。

 もちろんそれは人間としての論理であり、魔物には通用しないかもしれないが。


 つまり、一言で纏めると――


「嫌な予感がする。みんな気を付けろ」

「了解です」

「うん。私もな予感がしてきた……」


 慎也の忠告に、フェルナとシアーシャがすぐに同意を返して来た。実戦経験が豊富なおかげか、慎也と同じものを感じ取ったようだ。


「嫌な予感、って?」

「んー? とにかく、命を大事に、ってこと?」

「それなら、いつも心がけてますけど」


 一方で、セリシエル、結衣、ユフィアには判らなかったらしい。やはり経験の差ということだろう。


「来るぞ」


 そうこうしている間にも足音はどんどん近づいて来て、遂に茂みを掻き分けて主が慎也たちの前に姿を現した。


 鼠色の皮膚を有した体長2メートル前後の筋肉質で大柄な体躯に、動物の皮や、人間から奪ったであろう粗末な布きれを纏い、手には棍棒や、こちらも人間から奪ったと思われる斧や弓を携えている。

 特徴的な鼻面は確かに豚に見えなくも無いが、これを豚と例えたら、豚に失礼だ、と思えるくらい醜悪だ。

 初めて見る、しかしゴブリンともトロルとも違う、人型の魔物。それが全部で7匹、飛び出すようにして姿を現した。


 慎也たちを見た途端、魔物たちはぎょっとしたように驚き、その場で急ブレーキをかけた。


 盗視の指輪(スティール・リング)が魔物たちの正体を慎也に伝える。


 オーク

 レベル:13

 生命力:512

 魔力値:0

  筋力:323

  敏捷:120

  スキル:<怪力197><棍術129>


【鬼人系に属する魔物。ゴブリンと同様、導具を使いこなし、群れで行動する習性がある上、簡単な建築物を建てられるほど知能が高い。個体としての強さはゴブリンをはるかに凌ぐ。基本的に雄しかいない種族で、他種の雌を孕ませて数を増やす。様々な亜種や上位種が存在する】



 オーク・アーチャー

 レベル:15

 生命力:533

 魔力値:0

  筋力:362

  敏捷:120

  スキル:<弓術169>


【オークの希少種。オークの弓使い。巨体と怪力が持ち前のオークの中で弓術に秀でた個体。その超重、巨体ゆえにゴブリン・アーチャーのように木の上や物陰からの不意打ちには向いていないが、技術と、なによりその膂力から放たれる矢の威力は驚異である】


 オーク・リーダー

 レベル:16

 生命力:611

 魔力値:0

  筋力:421

  敏捷:157

 スキル:<斧術214><統率170><怪力347>


【オークの希少種。オークの指揮個体。統率能力に秀でたオークの一種。体格、戦闘能力も他のオークを凌ぐ。10匹以上の比較的大きな群れを率いていることが多く、それ以上の大規模な大群には複数体存在していることがある】



 やはりと言うべきか、予想通りと言うべきか、オークだった。先頭の、1番大柄な個体がオーク・リーダーで、後ろの弓を持っているのがオーク・アーチャーと言うらしい。その辺りの特徴や個体名はゴブリンと共通しているところがある。

 いずれにせよ、慎也たちは7体のオークと対峙する形となった。


「いよいよセリスちゃんの初陣だね」

「頑張るんだよ!」

「気を付けてくださいね」


 セリシエルにとっては、冒険者として初めての実戦となる。結衣の励ましに気合の入った声で応じ、ユフィアは若干心配そうにしている。


「気を付けてください。様子が変です」


 そんな3人に、オークたちを油断無く睨み付けたまま、フェルナが注意を飛ばす。慎也とシアーシャも、オークたちから違和感を感じ、無言で様子を伺っている。


 まず、慎也たちを前にしたオークたちの表情には、明らかに驚愕と困惑、そしてそれ以上に、濃い焦り色が浮かんでいる。


(やはり奴らはオレたちに気付いて近づいてきた訳じゃなかった。たまたま、連中の進路上にオレたちがいただけ)


 つまり、オークたちにとっても慎也たちと鉢合わせになったことは、予期せぬ遭遇(ランダムエンカウント)だったということ。


(なら、オークたちはあんなに急いでどこへ向かうつもりだったんだ? っていうか、それ以前になにを焦っている?)


 恐らくオークたちは、急いでどこかへ向かおうとしていたのだろう。その最中にいきなり人間の冒険者に遭遇し、驚いて足を止めた。慎也にはその理由と、行き先が気になった。


 碌な知性も持たない魔物であるオークが、あんなに急いで、焦って、どこへ向かおうとしていたのか――


 だが、それを悠長に考えている時間は無かった。


 ブギィァァアアアアアアアア!!


 大柄なオーク――オーク・リーダーが突如として凄まじい咆哮を上げ、それを合図に7体のオークたちが一斉に襲い掛かってきた。

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