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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
冒険者の章
29/135

第28話 相手誰だか判ってんのか!?

無職生活が終わり、ようやく就職しましたε-(;-ω-`A)

「テンプレに気を付けないとね」


 正面玄関からいよいよ冒険者ギルドの建物内に入ろうとした時、不意に結衣がそんなことを囁いた。


「てんぷれ、ってなんですか?」

「お約束、ってこと。冒険者ギルドで登録する時は、たちの悪い冒険者に「ここは女子供の来る場所じゃねえ」とか言われて絡まれる、って言うのが鉄板なの」

「はぁ……」


 首を傾げるユフィアに、結衣が得意げに説明したが、当人はよく判っていないようだ。


「気にするな。結衣の妄想の話だ」

「ひどいよー」


 慎也の辛辣な言葉に結衣が頬を膨らませる。だが実際、ラノベの話なので割と事実だ。

 そんなやり取りを挟みつつ、慎也は改めて扉を開けて冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。

 内部は広いロビーになっていて、昼前の食事時だというのに大勢の冒険者で賑わっていた。奥にある受付の前には、依頼を受けに来たのか、あるいは依頼達成を報告に来たと思しき冒険者たちが列を作り、同じ柄の制服を着た職員と思しき男女と会話を交わしている。他にも、パッと見て、明らかに冒険者ではない一般市民の姿もちらほら見受けられる。たぶん、こちらはギルドに依頼を出しに来たのだろう。


「おいおい、ジジイとガキがギルドになんの用だぁ?」


 悪意を孕んだ声のする方に目をやると、見上げるような背丈の大柄な男がこちらを睨んでいた。冒険者の1人なのだろう、革製の鎧を着こみ、腰には剣を差している。厳つい顔にはいくつもの生傷があるが、代わりに頭髪は一切無い。

 昼前だというのに酒瓶片手に赤い顔。離れていても判るくらい酒臭い。


「医療院と間違えたのかぁ? ここはてめぇらなんかが来て良い場所じゃねぇんだよ。失せろ、目障りだ」


 ゴミでも見るような目つきで慎也たちを睨みながら悪態を吐くも、呂律もおかしい。相当酔っているようだ。

 慎也の隣では、結衣が「テンプレ来たー」と何故か喜んでおり、対してその隣のユフィアは、大男からの明確な悪意に顔を青くして怯えている。ウィルは、さすがに落ち着き払った態度で男の方を見ていた。


(おいおい、結衣の妄想がホントになったぞ!?)


 周りの冒険者たちも騒ぎに気付いたのか、チラホラとこちらに目をやる者が出始めた。

 誰か注意してくれよ、などと思っている内に、事は動いた。


「失せろっつってがっ!」


 さらに声を荒げようとした大男の言葉が、ゴチンという鈍い音と同時に悲鳴に化けた。

 ふらふらとよろめく大男の後ろに、別の冒険者風の男が立っていた。どうやら彼が大男の後頭部を後ろから殴りつけたらしい。また、こちらの方は酔ってはおらず、何故か大男とは対照的に真っ青な顔で冷や汗を垂らしていた。


「すいません! この馬鹿、依頼をしくじって自棄やけ酒飲んでて、気が立ってたんですよ! すぐに連れ出しますんで、どうぞ気にしないで下さい!」


 どういう訳か、酷く怯えた様子でそう捲し立てた後、大男を引きずるようにしてその場から連れ出していった。


「……行こうか。冒険者登録は2階だ」

「は、はい」

「テンプレ……」

「ほら、ユイさんも」


 先に歩き出したウィルに続いて、慎也も後を追う。何故か残念そうな結衣の背中をユフィアが押しつつ階段を上る。


「なにしやがる?」

「こっちのセリフだボケ! 相手誰だか判ってんのか!?」

「ああ? あんなジジイとガキが――」

「馬鹿野郎! ありゃ《鬼神きしん》だ! 《鬼神きしん》のウィル! 聞いたことくらいあるだろ!?」

「え……《鬼神》って、あれか? 魔王信奉集団《グラーズ》を、たった1人でぶっ潰したっていいう……」

「そうだ! 10匹以上のドラゴンの群れを皆殺しにしたり、メリディストの迷宮を1人で60層まで踏破した伝説の冒険者。おまけに領主とも顔馴染み! お前なんかが絡んでいい相手じゃねぇ!」

「な、なんでそんなのがこの街に?」

「どこまで物を知らねぇんだ、てめぇは!? ずっと前からマナクレイの森で孫と隠居生活してるってこと、街の奴なら誰でも知ってるわ! ちなみに、2年ほど前から弟子を取って育ててるって噂だ。あれがそうなんだろ。お前はよりにもよって、《鬼神》とその弟子に絡んだんだ! 下手すりゃ、首が飛ぶどころじゃ済まなかったぞ、馬鹿野郎が!」


 そんな会話が階下から聞こえてきた。


(ウィルさん、《鬼神》なんて呼ばれてたんだ)


 2年も共に生活してきたが、間違っても《鬼》などという単語が似合うような人ではない。恐らく、実力から来た二つ名だろう。


(つーか、やっぱりオレらのこと、噂になってるんだな……)


 この街には何度か来たが、そんな話はまったく耳にしなかった。が、考えてみれば不思議な話ではない。ウィルは有名人だし、彼と一緒に街を訪れたことは何度もあったから、当たり前と言えば当たり前の話だろう。

 そう言えば、初めて街に来た時、ウィルが門番の兵士に「自分の弟子だ」と紹介していたし、門番の方も「ちょっとした騒ぎになる」とか言ってた記憶がある。


(こりゃ、ますます下手は打てなくなったな。オレたちが不始末をやらかせば、即、ウィルさんの評判に響く)


 真面目に、そして誠実に生きていこうと、改めて慎也は心に誓った。


 そうこうしている内に2階へ着いた。

 1階に比べるとスペースは狭い。銀行、或いは役所を思わせる構造で、壁から少し離れた位置に木製のカウンターが並んでおり、向こう側に受付の職員が待機している。幾人かの冒険者の姿も見受けられるが、1階に比べると明らかに少ない。

 ウィルの説明では、冒険者ギルドの建物は、1階が依頼の受付や申し込み専用のスペースになっており、2階はそれ以外、例えば、冒険者の登録、脱退、あるいは登録条件の変更等を行う為の受付窓口。3階は事務所、4階はギルドマスターの執務室と会議室になっているのだという。無論、冒険者が入れるのは2階までだ。


 慎也たちはウィルに先導されるがまま、「冒険者登録」というプレートが飾ってあるカウンターへと足を進める。


「すまないが、冒険者登録を行いたい」

「はい。冒険者登録ですね。伺います」


 対応したのは、20歳くらいの人族の女性職員だった。受付嬢らしく、素直に美人と呼べる整った顔立ちだ。「やっぱり受付嬢は美人じゃないとねー」などと寝言をほざいている結衣を無視して話を進める。


「登録されるのはそちらの3名様でよろしいでしょうか?」

「そうだ」

「登録料が1人3000テラずつ必要ですが、よろしいでしょうか?」

「もちろん」


 そう言ってウィルは、受付嬢に9000テラ分の硬貨を支払った。


「確かに承りました。皆さんは、字の読み書きなどは出来ますか?」


 読み書きが出来るか? と問われ、一瞬、失礼な人だ、と思った慎也だったが、この世界では日本と違って、識字率が高くないということを思い出した。貧しい農村などでは、大人でも字が読めなかったりすることが普通なのだ、と。

 対して、異世界人である自分たちは<異言語習得>のスキルのおかげで字を読むことは差し支えない。ただ、<異言語習得>は言葉や文字を理解することは出来るが、書くことが出来ないという欠点があった。その為、異世界転移した当初、慎也と結衣は文字を読むことは出来ても、自分で書くことは出来なかった。だが幸い、文武両道がモットーのウィル先生の教育的指導のおかげで、現在では2人とも、日常生活には支障が無い程度の異世界文字を書くことが出来るようになっていた。もちろんユフィアも同じだ。


「大丈夫です」

「では、こちらの用紙の必要事項に記入をお願いします。名前、年齢、性別、種族の欄だけで結構です」


 そう言って受付嬢は「冒険者登録用紙」と書かれた紙を3枚差し出した。慎也たちはそれぞれ用紙を受け取ると、カウンターに備え付けられていたペンをインク壺に浸してから、手早く用紙に言われた必要事項を書き込んだ。

 よく見れば、用紙には他にも、レベル、武器、ステータスと言った項目がある。


「はい。では、いまから『鑑定版』という魔導具で皆さんのステータスをチェックさせていただきます。あらかじめ申し上げておきますが、この魔導具で判るのはレベルとステータスのみで、スキルに関しては判別できません。冒険者にとって、スキルは生命線ですから、万が一にも漏れることの無いようにというギルド側の配慮によるものです。称号に関しても同様ですが、犯罪歴の有無に関しては判別可能です。もしもステータスの称号欄に犯罪歴があった場合、申し訳ありませんが冒険者登録を行うことは出来ませんので、予めご了承ください」

「「「はい」」」


 3人はそろって返事をしたが、慎也と結衣はステータスをチェックするという言葉を聞いて内心で焦っていた。

 何故なら2人のスキル欄には<異言語習得>が、称号欄には<異界の民>の称号があるからだ。これを見られたら、自分たちが異世界人だということが知られてしまうと、慌てたのだが、幸いにもスキルと称号は判らないということなので、2人ともほっと胸を撫で下ろした。

 後でウィルに聞いたところによると、ギルドの受付で使用されている『鑑定版』は簡易式のもので、レベルとステータス、犯罪歴の有無しか判らないが、中にはステータス全部を鑑定できる高性能な物もあるので注意しろとのことだった。


「では、御一人ずつ順番にこの板の上に手を置いてください」


 受付嬢が差し出したのは、パッと見た感じ、魔法陣が刻まれたA4サイズの鉄製の板に、水晶のような宝石が埋め込まれたボードのような物だ。

 最初に慎也が板の上に手を置くと、板に刻まれた魔法陣が輝きを発し、次いで埋め込まれた水晶から、立体画面のような物が受付嬢の眼前に表示された。

 受付嬢の顔が驚きのそれに変わる。


「凄いです。この年でこのレベル……相当、鍛えていらっしゃるんですね」


 が、当の慎也はきょとんとした顔だ。レベルが高いと言われても、そもそも比べる対象がいないので当然だが。


「オレのレベルって、高いんですか?」

「はい。あなた方の年齢で冒険者になる方は相当いらっしゃいますが、大抵はレベル10にも届かないです。少なくとも私が知っている中では、登録時におけるレベルとしては、少なくともキアナ支部に置いては歴代最高です」


 マジか……と、慎也は心の中で呻いた。


「むしろ、ここまでに至るまで名前すら聞いたことが……あっ!」


 ブツブツと独り言を呟いていた受付嬢が、突然なにかを思い出したように手を打って、慎也たちを――厳密には、その後ろに控えているウィルに視線を向けた。


「も、もしかして、あなたは元1級冒険者のウィルさんですか?」

「……そうだが」

「やっぱり!」


 突然ばっと立ち上がった受付嬢は、憧憬に目を輝かせながら、大好きなオモチャを見つけた子供のように興奮していた。


「噂はかねがね伺っていました! 《鬼神》と呼ばれた伝説の刀使い! 一度で良いからお会いしたいと思ってたんです! 私の母が――」


 完全に職務を忘れた様子で大声を上げる受付嬢に、慎也たちもさすがに引き気味だ。70を越えた老人に、年頃の若い娘が恋する乙女のような視線を向けているのだから。


「オッホン!」


 ワザとらしい咳払いが場の空気にストップをかけた。見れば、いかにもベテランっぽい年配の女性職員が、額に青筋を浮かべてこちらを――否、受付嬢を睨んでいた。


「す、すいません……」


 顔を真っ赤にして受付嬢は席に戻った。


「構わないさ」


 もちろん、温和なウィルは鷹揚に許した。

 そこでふと、受付嬢は慎也たちの方を見た。


「もしかして、この方たちはウィルさんのお弟子さんですか?」

「ああ。孫のユフィアと弟子のシンヤ君に、ユイ君だ。今日から、3人にも冒険者になってもらおうと思ってね」

「なるほど。噂には聞いていましたが、そう言うことでしたか。でしたら、このレベルの高さも納得です」

(おいおいおい、オレたちどこまで噂になってんだよ!?)


 こうまで自分たちのことが知られているとなると、逆に不安になってくる。


「では、他の御二人も鑑定版に手を置いてください」

「はーい」

「はい」


 落ち着きを取り戻し、お仕事モードに切り替えた受付嬢は、さっきまでの営業スマイルを浮かべつつ結衣とユフィアを促した。全員のレベルチェックが終わり、受付嬢はさっきの用紙にそれらを書き込む。


 さらに、ここのスキルやそのレベル、使用できる魔法などを、こちらは本人に尋ねた上で再度用紙に書き込んでいく。


「鑑定が終了しました。賞罰に犯罪歴は無いと判明しましたので、冒険者ギルドの名において、シンヤさん、ユイさん、ユフィアさんの3名の入会を認めます」

「「「はい」」」

「3人とも、レベル、スキル共に非常に高く、なにより、元1級冒険者であるウィルさんのお弟子さんということですので、特例措置の適用対象であることは疑う余地はありません。3人共、7級からのスタートとなりますので、頑張ってください」


 こうして、慎也たちは異世界生活2年目にして、正式に冒険者となった。

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