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異界の刀銃使い  作者: 太公望姜子牙
異世界刑事の章
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第112話 お買い物に来たんだよー!

旅と言うものは準備が肝心なのです。リア充爆発しろ!!ヽ(*`Д´*)ノ

 旅に出ると決まった以上、準備すべきものは多い。

 異世界での旅といえば馬車を連想するが、移動ルートが運河であり、主に定期船を乗り継ぐ行程になる為、必要ない。


 買うべきはそれ以外の物――まずは衣服だ。


「ミリィちゃーん!」

「お買い物に来たんだよー!」

「い、いらっしゃいませ、皆さん」


 結衣とセリシエルの元気良い挨拶に、若干引きながら挨拶を返すのは、猫獣人の少女ミリィだ。以前は冒険者だったのだが、仲間と共に挑んだ初めての魔物討伐でゴブリンの奇襲に遭い、仲間2人が死亡し、自身も生け捕りにされ、凌辱される寸前でたまたま同じ依頼を受けた慎也たちに救われた。その件で自身が冒険者に向いていないことを痛感し、家族の反対もあって服屋の店員に転職し、母親の友人であるリシルの経営する店で働いている。


 見た目が可愛らしく愛想も良いので他の客にも人気なのだが、本人は結衣とセリシエルに耳をもみくちゃにされた経験があるので若干引いていた。

 獣人族の耳や尻尾は神経が密集していて非常に敏感なのだ。


「おや、シンヤたちじゃないか。いらっしゃい」


 店の中から店長のリシルが顔を覗かせた。恰幅の良い気の強そうな30代後半くらいの人族の女性だ。


「ご無沙汰しています、リシルさん」

「今日はどうしたんだい? ミリィの耳なら500テラで10分間触り放題だよ」


 慎也が挨拶に、リシルが冗談じみた言葉で返すと、結衣とセリシエルが「わーい!」と大銅貨(500テラ)片手に無邪気に喜び、ミリィが「てんちょー!」と半泣きで叫んでいた。


「実は、みんなでメリディスト島に行くことになったんです」

「迷宮島へかい?」


 慎也が説明するとリシルは驚いた表情になった。やはり一般人にも迷宮島の存在は有名らしい。


「確か、国の反対側だ、って聞いたよ? そんな場所へなにしに……って、迷宮しかないわね」

「そうですね。あと、知り合いが迷宮島で探索者をしているらしいので、一度会いに、と思いまして」

「なるほどね。じゃあ旅の準備に来た、って訳だ」

「はい。おっしゃる通りです」


 長期間の旅路に置いて衣服は重要だ。汚れたり破れたりすれば買えば良いだけだが、それはあくまで立ち寄れる町があればの話だ。

 文明が未発達で魔物や盗賊の多いこの世界での旅は危険極まりないし、下手をすれば何日も町へ立ち寄れないという事態も考えられる。仮に立ち寄れたとしても、服屋が無ければ意味が無い。

 食料品であれば、店が無かったりしても金さえ払えば村や集落で分けてもらえたりするし、最悪、魔物や野生動物を狩ったりして補充する手もあるが、衣服の類はそうはいかない。仮に誰かから分けてもらえたとしても、サイズが合わなかったり旅用でなければなんの意味も無い。

 なので、衣服に関しては出発前に大量に準備しておくのがこの世界の常識だった。


「判った。ならうちにある旅用の衣服一式を見繕ってあげるよ」

「ありがとうございます。助かります」

「いいってことさ。んじゃ、サイズを測るから、みんな来てくれるかい」

「判りました。みんな……って、おい!」


 振り返った慎也の視線の先にあったのは、ヘロヘロになって道にへたり込むミリィと、大満足と言った表情の結衣とセリシエル。そして、2人を止めようとしたけど叶わなかったユフィアの申し訳なさそうな顔だった。


 ◇◇◇


「いたたた、酷いよ慎也君……」

「暴力反対なんだよ」

「やかましい。反省しろ!」


 頭を押さえて文句を垂れる結衣とセリシエルを慎也が一喝した。


 ミリィを耳を触りまくってヘロヘロにした結衣とセリシエルに拳骨を見舞った後、一行はリシルの店で旅用の服一式を買い込んだ。さすがに4人分だけあって結構な値になったが、これまでの冒険者活動で稼いだ額に比べれば大したものではない。

 冒険者家業は危険は大きいが儲けも大きいのだ。


 ちなみに買った衣服はすべて<共有無限収納>の亜空間に納めてある為、慎也たちは外見上は手ぶらに近い。


「次はどこへ行くんですか?」


 隣を歩いていたユフィアが慎也に尋ねた。


「道具屋だな。回復薬(ポーション)とかも買い込んどいた方が良いだろ」


 危険な異世界を長期間旅する上で、衣服と同じくらい重要なのが回復薬(ポーション)の類だ。魔物や盗賊と戦って怪我をする可能性が常に付きまとう以上、回復薬(ポーション)は必須。少しの怪我でも長期間放置すれば化膿したり壊死したりして最悪、切断という事態にもなりかねない。

 慎也たちの場合、回復魔法が使えるユフィアがいてくれる分、いくらか余裕はあるが、そのユフィア自身、魔力が枯渇すれば魔法が使えなくなる以上、念を入れるに越したことは無い。

 この世界ではなにが起こるか判らないのだから。


「けどその前に、冒険者ギルドに寄っておこう」

「冒険者ギルドへ? なにをするんですか?」

「冒険者になった時に説明されただろ? 冒険者は一定期間依頼を受けないと登録抹消処分になる、って。メリディスト島まで旅をする以上、何日も依頼を受けられない、っていうこともあり得るから、その辺のことも詳しく聞いとこうと思ってな」

「なるほど。旅をしてる間に冒険者じゃなくなったら大変ですからね」


 ユフィアも納得した様だった。

 冒険者というのは、慎也たちがこの世界で生きていく上でなくてはならないアイディンティティだ。だが冒険者は一定期間依頼を受けないと登録抹消になる、というルールが存在する。冒険者ギルドの支部は大きな街なら大抵存在するが、場合によっては予期せぬトラブルなどで何日もそう言った街に寄れない、という事態も考えられる。その間に冒険者登録が抹消になってはたまったものじゃないので、一度詳しく説明を受けておいた方が良い、と思ったのだ。

 冒険者ギルドは道具屋に向かう途上にあるのでちょうど良い。


 程無くギルドに着くと、いつも通りの喧騒が慎也たちを出迎えた。

 冒険者。職員。依頼人たちの会話とやり取りの坩堝だ。


(他の冒険者ギルドもこんな感じなのか?)


 キアナの冒険者ギルド以外は行ったことの無い慎也は、そんなことを考えながら空いている受付台へと向かった。


「あ、シンヤさん。いらっしゃい。今日は依頼ですか?」


 対応してくれたのは顔馴染みの受付嬢――ウィニアだった。


「こんにちは、ウィニアさん。今日はちょっとお尋ねしたいことがあったので」

「はい。どういった用件でしょう?」


 いつもの営業スマイルでウィニアが尋ね返す。


「実は、しばらくキアナの街を離れることになったんです」

「え!?」


 慎也の予想外の一言に、ウィニアはつかの間、営業スマイルを忘れて地が出てしまった。


「街を離れる、って、どうしてまた……」

「少し訳あって、みんなでメリディスト島へ行くことになったんですよ」

「迷宮へ、ですか?」


 メリディスト島と聞いてウィニアはすぐに理解した。メリディスト島=迷宮というのは、この国の人間にとっては共通認識なのだろう。


「ええ。以前、マクレーンさんたちから話を聞いた時から、1度行かないと、と思ってたんで……」

「オレがどうしたって?」


 慎也が話していると、不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り返ると、大剣を背負った人族の男が立っていた。

 金髪の野生感のある男前。右の頬に獣のそれと思われる3本線の引っ掻き傷。鎧の上から出も判る鍛え上げられた屈強な肉体を有した大男だ。

 そしてその背後には、白銀色の甲冑に、同じく白銀の盾と剣を持った女の姿もあった。亜麻色を三つ編みで纏めた、凛とした感じの人族の美女で、その出で立ちから女騎士という単語がぴったりくる。


 周りにいる冒険者たちの視線が2人に集るのが判った。

 キアナの街の冒険者でこの2人を知らない者はいない。なにしろ、スアード伯爵領にたった4人しかいない3級冒険者の中の2人なのだから。


「マクレーンさん、エミリータさん。お久しぶりです!」


 真っ先に挨拶したのはユフィアだった。


「おう、1カ月振りくらいか? お前らも元気そうでなによりだ」


 と、大男――マクレーンが気さくな挨拶を返して来た。


「そう言えば、ここしばらく姿を見かけませんでしたけど、どこか行ってたんですか?」

「ああ。護衛依頼を受けてな。2つ向こうのエリクシル男爵領まで遠征していたんだ」


 結衣の質問に、男勝りな口調で女騎士――エミリータが答える。


「さっき小耳に挟んだのだが、私たちがいない間に大事件があったらしいな?」

「そうなんです。《ミズガルズ》という組織の工作員にギルドが襲撃されて、しかも彼らが人工的に造りだした魔物が村を襲ったんです」

「もう、ほんとに大変だったんですよー。慎也君が腕を噛み砕かれた時は、ホントに死んじゃうかと……」


 エミリータの質問にユフィアと結衣が答える。


「腕を噛み砕かれたのか?」

「それにしちゃ、全然平気そうだが?」


 結衣の言葉を聞いたエミリータとマクレーンが訝し気に慎也の腕に目をやる。


「エンキ先生に治療してもらって、なんとか治りました」

「ああ、なるほど……」

「それは、災難だったな」


 何故か腕を噛み砕かれたことよりも、エンキに治療してもらったことに同情するマクレーンとエミリータ。どうやら2人もエンキのことは知っているらしい。


「で、そっちのお嬢ちゃんは? 見ない顔だが、お前らのとこの新入りか?」

「初めまして、なんだよ!」


 初対面のマクレーンにも物怖じすること無くセリシエルが元気よく挨拶する。


「そうです。名前はセリシエル。ちょっと訳ありでして……」


 マクレーンとエミリータは、慎也と結衣が異世界人であることを知っていて、その上で口を噤んでくれている。そういう意味では信頼できる人間であり、セリシエルの詳しい事情を話しても大丈夫だろうと思うのだが、人が大勢いる冒険者ギルドのロビーで話すのはさすがにまずいと思った慎也は、最低限の紹介で留めた。


「ふむ。まあ、その辺りは後日ということにしよう」


 エミリータもその辺りの事情を察してくれたらしく、追及はしてこなかった。


「セリシエル、だったか? 私は3級冒険者のエミリータだ。こっちは相棒のマクレーン。シンヤたちとは共に依頼を熟した仲だ。彼の仲間なら私たちも歓迎する」

「おう、よろしくな、お嬢ちゃん」

「よろしくなんだよ!」


 友好的に接してくれたのが嬉しかったのか、セリシエルも笑顔で挨拶を返す。


「それで、お前らなんの話をしてたんだ? オレがどうとか言ってたみたいだが?」


 軽い挨拶と自己紹介を終えた後、マクレーンが話を戻した。


「ええ。実は、近いうちにメリディスト島へ行こうと思いまして……」

「迷宮島に?」


 メリディスト島へ行く、と聞いて2人はすぐに事情を察した。なにしろ、異世界人の少女――久遠沙雪がメリディスト島にいたことを慎也たちに話したのは、他ならぬマクレーンとエミリータなのだから。


 故に慎也たちがメリディスト島へ行く目的が、知古の友人である異世界人の少女に会う為であることは言わずとも判る。


「そうか……だが、メリディスト島は遠いぞ? 船を使って運河を下るルートでも、片道1カ月は掛かる」

「はい。なので、少なくとも数カ月はこの街へは戻れません。その間、冒険者資格がどうなるのかを聞こうと思いまして……」

「なるほどな」


 慎也が答えると、マクレーンが納得気に頷き、次いでさっきから黙って話を聞いていたウィニアへ視線を向けた。


「別にキアナの支部で冒険者登録したからと言って、他の支部で依頼を受けられない、ってことはないんだろ?」

「えっと、はい、そうです。冒険者の依頼受注に地域による制限はありません。それこそ他の国でも」


 ウィニアの説明を聞いて慎也はひとまず安心した。旅の途中に他の街で依頼を受けることは可能だ。

 ただし、場合によっては長期間街に寄れない、という事態も当然考えられる。


「一定期間依頼を受けないと冒険者資格が剥奪される、と伺いましたが、具体的にはどのくらいですか?」

「冒険者のランクによって異なります。10級と9級は半月。8級、7級は1月。6級~4級は2カ月。3級は半年。2級は1年。1級は無制限となります」

「……なんか、ランクが低いほど期間が短いですね?」


 慎也たち全員が思っていたことを、結衣が代表して尋ねた。


「ランクが高い冒険者の方は、護衛任務などで遠方へ行くパターンが多いですからね。マクレーンさんたちがまさにその一例です。遠出して地元へ戻って来るまで、時と場合によっては何カ月も掛かる場合があります。資格停止処分にならない為に、帰還中に何度も依頼を受けなければならないというのは酷ですからね」

「確かにそうですね……」


 考えてみれば当然の処置だと、慎也は納得した。


「1級が無制限なのはどうしてですか?」


 今度は結衣が尋ねた。


「最高位である1級冒険者は国家レベルの依頼を熟さなければならない場合があります。貴族や将軍と同列に扱われる最重要職ですので、基本的に依頼未受注で資格剥奪になることはありません」

「なるほど……」


 慎也は頷いた。それほど重要な存在なら当然数が少ないだろうし、なにより貴重だ。依頼未受注で資格剥奪にするなど馬鹿げている。


「メリディスト島までは船で順調に進めば1月ほどですので、皆さんのランクを考えれば、途中の街で2、3度依頼を熟せば資格剥奪になることはまずありません」

「それを聞いて安心しましたよ」


 ウィニアの言葉に慎也たちは揃って胸を撫で下ろした。少なくとも、冒険者資格を失う心配はまず無いようだ。その為にも、冒険者ギルドのある街へ立ち寄ることは忘れないようにしよう。


「話が終わったのなら、代わってもらって良いかな?」

「あ、すいません。長話しちゃって!」


 後ろからエミリータに言われて慎也たちは慌ててその場をどいた。

 どうやらマクレーンとエミリータは仕事で来たらしい。


「ラージ・モアの卵の採取依頼を終えてきた。依頼通り5つだ。確認してくれ」


 そう言ってエミリータは受け付け台に受注伝票と、アイテムボックスから取り出したバレーボールサイズの卵を5つ置いた。


 ラージ・モアというのはマナクレイ森に生息する鳥型の魔物だ。

 レベルはだいたい20代前半から30前後。ダチョウによく似た姿をしており、空を飛ぶことは出来ないが、脚力が強く、馬よりも遥かに速く走れる。そんな強靭な脚から繰り出される蹴りの攻撃力はすさまじく、鎧を着こんだ重装備の騎士すら一撃で蹴り殺してしまうこともある。

 また、その卵は高級食材として知られており、高値で取引されている。ラージ・モア自体は食べられない。


「はい、確認しました。依頼達成です」


 確かにラージ・モアの卵であることを確認したウィニアは、受注伝票に達成の印を記入して、報酬を渡した。


「念の為に伺いますが、親鳥はどうされました?」


 ウィニアが尋ねた。

 ラージ・モアは単独か(つがい)、もしくは家族単位で行動する。卵があるということは、近くに親鳥がいたはずだ。


「それなんだけどよぉ……」


 マクレーンが困惑した様子で言った。


「巣の近くで2匹とも死んでたんだ」

「死んでいた?」


 今度はウィニアが困惑する番だった。


「それは、他の魔物に襲われて殺された、ということですか?」

「いや、人間の仕業だ」


 エミリータが首を振って断言した。


「2匹とも大振りの剣かなにかで首を斬り落とされていた」

「つまり、他の冒険者の方が先に仕留めていた、ということですか?」

「違うと思うぜ」


 今度はマクレーンが首を振る。


「どういうことでしょう?」

「誰がやったのかは知らねぇが、そいつはラージ・モアの番を殺しただけで、死骸にも卵にも手を付けてなかったんだよ。もちろん魔晶核(コア)もそのまま。冒険者ならあり得ねぇだろ?」


 確かにその通りだ、と後ろで聞き耳を立てていた慎也は同意した。

 冒険者――特に魔物の狩猟を生業とする魔狩人(イェーガー)にとって、魔物の魔晶核(コア)は貴重品だ。例え依頼とは関係なくとも、仕留めた魔物の魔晶核(コア)をそのままにすることはまずあり得ない。同時に、仕留めた魔物の死骸を放置することもあり得ない。魔物を仕留めた後は、特定の部位や魔晶核(コア)を回収した後、死骸を焼却するのが常識なのだ。死骸をそのままにするとアンデッド化する場合があるから。


「まあ、我々としては労せずに卵や魔晶核(コア)を手に入れられた訳だが、一応、死骸は燃やしておいたよ」

「ご苦労様です。誰がラージ・モアを殺したのか、少々気になりますが、取りあえず依頼達成で問題ありません。念の為、このことは上司に報告しておきます」

「頼むよ。それと――」


 そんなやり取りを慎也が後ろで聞いていると――


「慎也君、盗み聞きはダメだよ」


 不意に結衣に手を引っ張られた。


「そうだよ。それに、道具屋に薬を買いに行くんでしょ!」


 セリシエルも反対側の手を引っ張った。


「ああ、そうだったな……」


 元々冒険者ギルドへは、資格剥奪の期間を確かめる為に寄っただけで、道具屋へ薬を買い出しに行く途中だったことをすっかり忘れていた。

 取りあえず疑問は解けたので、慎也は2人に言われるがままギルドを出た。

 出たのは良いのだが……


「おい2人とも、いい加減手を離してくれ」


 何故か結衣とセリシエルが手を掴んだまま、離してくれないのだ。


「なーに、慎也君。こんな美少女が手を繋いであげているのに不満なの?」


 少々ご立腹な様子で結衣が頬を膨らませた。


「いや、不満というか、恥ずかしいだろうが!」


 人通りの多い大通りで美少女2人に手を引かれて歩く男の姿は、必然的に通行人の注目を集めることとなる。

 微笑ましいものを見るような目もあるのだが、集まってくる視線の大半が嫉妬や妬みなのが肌から伝わってくるので、正直居た堪れないのだ。


「恥ずかしがってるシンヤは可愛いんだよ~」


 よく判らない理屈でセリシエルが喜んでいる。


「えーい!」

「やめんかオイ!?」


 突然、セリシエルに腕に抱き着かれ、腕に当たる柔らかい感触に慎也は顔を真っ赤にして裏返った声で叫んだ。

 引き剥がそうにもセリシエルはニコニコしたまま頑として離れようとせず、反対側の手は結衣にホールドされている。


「おまえなに考えてんだ!? 離せコラ!」

「もー! 実は嬉しいくせに、素直じゃないんだよ!」

「素直もクソもあるか! 離せ! 離せば判る!」

「慎也君、言葉遣いが間違ってるよ?」


 そんなやり取りをしつつ、「リア充爆発しろ!」的な怨嗟の視線の集中砲火を浴びる慎也の背後で――


「ユ、ユイさんもセリスさんも、大胆すぎます!」


 1人流れに乗れなかったユフィアが顔を真っ赤にしていた。


「ユフィアちゃん、こう言うのは早い者勝ちなんだよ?」

「そうなんだよ。うかうかしてると、1人だけ置いてかれるよ?」

「~~~!!」


 当然のような顔でそんなことを宣う結衣とセリシエルだが、2人ほど行動力に優れている訳では無いユフィアはそこまでやる勇気がどうしても持てない。

 かといって置いていかれるのは嫌なわけで……


「……えいっ!」


 ユフィアが精一杯の勇気を振り絞って行ったのは、慎也のストライク・スーツのマントの裾を掴むというものだった。

 結衣やセリシエルに比べれば他愛もないものだが、ユフィアにしては渾身の勇気を振り絞っての特攻に等しい行為なのだ。


 これまでになかった少女たちの大胆な行動は、偏にセリシエルの影響だった。

 子供っぽい性格で、身を挺して自分を守ってくれて、しかもそれを責めないでくれた慎也に好意を持った彼女は、持ち前の性格から慎也に対する好意をまったく隠さない上、寝床に忍び込むと言った大胆な行動まで取るようになった。

 それが結衣とユフィアに影響を与えた。

 これまで慎也のことを憎からず想っていたが、互いに遠慮してそのことを素直に態度に示せなかった2人だったが、自分たちとはタイプの違うセリシエルの行動に、負けてはいられない、と結衣が触発され、それにユフィアが引っ張られている形だ。


 慎也も男である以上、美少女3人に好意を寄せられるのは嬉しく無い訳ではないのだが、さすがに場所をわきまえてほしい、というのが彼の本音だった。


「おい、3人とも、勘弁し――」


 通行人の視線にいい加減耐えられなくなってきた慎也が懇願じみた声を上げた、その時――


「!!??」


 不意に慎也の視線に強烈な悪寒が奔った。

<敵意察知>が激しく警鐘を鳴らす。

 通行人(主に男)から浴びせられる怨嗟のような視線とは違う、明確な敵意と悪意と殺意の混合物。それが視線に混じって背後から慎也の背に叩き付けられた。


 咄嗟に背後を振り返るが、通りにははごく普通の住人や商人、冒険者が行き来しているだけで特に変わった様子は見られない。また、いつの間にか悪意の視線も消えていた。


「どうしたんですか?」


 突然背後を振り返った慎也にびっくりしつつもユフィアが尋ねた。結衣とセリシエルも不思議そうな顔で彼を見ている。彼女らはなにも感じられなかったようだ。


「いや、なんでもない……」


 気のせいか? と思いつつ、妙な胸騒ぎを慎也は感じていた。



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